俺、人間の街へ出ます
新連載始めました。
今日から日曜日まで毎日二話更新、それ以降はできるところまで毎日更新したいと思いますのでよろしくお願いします。
「はぁ~……」
俺は広間の玉座に座りため息をつく。
俺は影山翔真。
元人間だ。
前世は普通に高校に通う学生だった。
でも、今は違う。
今の俺は学生ではない。
それはどういう事かというと、高校生としての俺は死んで、前世の記憶を持ったまま転生したという事だ。
しかし、俺の転生は普通ではなかった。
「魔王様! 今こそ人間を滅ぼす時です!」
「そうです! 魔王様の一声があれば我々は命を捨ててでも戦います!!」
俺の目の前にはいわゆる魔族というものが蠢いている。
そう、俺の転生は勇者でもなく賢者でもなく魔王だったのだ。
「どうしてこうなった……」
最初の魔王に転生したとショックを受けたけど、俺の事を崇めてくれるものがいる事に気をよくした俺は、
「我こそ魔王ショーマ!! この世の王となる者だ!!」
と、厨二病を発症したような台詞を言っていた。
しかし、その後すぐにその熱は冷める事になる。
「おぉ!! では、人間を皆殺しにしてショーマ様を世界の王に!!!!」
「「「「「ショーマ様を世界の王に!!!!」」」」」
「……へっ!?」
厨二病を発症した事で飛んでいたけど、見た目こそ前世のそれと同じで全くの人間で、日本人らしい黒髪黒目となっているが、周りにいるのは魔族で俺は魔王なのだ。
もっとも、人間の姿をした俺を魔王と崇めるのはどうかと思ったけど。
後で、聞いたところによると俺の身体からは魔気というものが出ていて、その魔気が歴代の魔王と比べても段違いに凄いらしい。
魔気というのはよく漫画とかであった覇気や闘気、殺気と呼ばれるようなものに近くて、対峙する者に威圧感を与え、さらに自分の能力を魔気の発動によって何段階も上げるものだ。
魔王に転生して、身体能力や魔力も高い俺だが、魔気を発動させるとさらにチートになる。
でも、ベクトルの方向は勇者とかといった王道の方向ではなく、魔王といった間違った方向にチートになったのである。
とまぁそんな事で、俺は魔王宣言したはいいけど、前世が人間だった俺は人間を殺す気になれず、「いや、戦争をするにはいろいろ準備が……」とか言って、食糧が必要だとか武器が必要だとか物資が必要だとか言っていろいろ準備をさせ、人間との争いを先延ばしにしてきた。
もっとも、「我々魔族にはそんなものは必要ありませんが?」と言われたけど、俺は魔気を高め有無を言わさずにさせた。
そう、させたのだが……。
「魔王様のおっしゃる通り、準備は整えました。食糧に魔石、それから武器に――」
「あ~……うん」
しかし、それもどうやらもう限界のようだ。
「――ッ!? では、人間を皆殺しに――」
「いや、それはしない!! 魔族は人間と共存を目指し、俺は人間と魔族、両方の王になる!!!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「え~現場のショーマです。今は一人、セイクピア王国へとやってきています」
なんとなく落ち着かない俺は一人でリポートを開始する。
魔族たちへ人間と魔族の王になると宣言してから一時間。
いまだに、自分がした厨二病発言の傷が癒えないまま、俺は逃げるようにこの世界で一番大きな国、セイクピア王国へとやってきた。
セイクピア王国はこの世界の人族の国で一番大きな国であり、魔族と人間を統べる王になると言った俺はとりあえず一番大きな国へとやってきたのだ。
この世界には魔族が支配している魔大陸と人間が支配しているユーハイム大陸がある。
本来は一時間で来たりする事の出来る距離ではないが、俺には転移魔法が使えたので転移魔法で来た。
そもそも魔王城から歩いて一時間なんてところに人類最大の国なんてのがあったら、即戦争勃発だしな。
ちなみに、逃げるようにやってきたと言ってもちゃんとみんな(魔族)は説得してきた。
最初はみんなの頭にハテナが浮かんでいたようだけど、俺は勢いそのまま厨二病を発症させ、勢いに任せて演説を開始した。
「いいかよく聞け!! 我は考えた! 確かに人間を滅ぼすのは簡単だ! そして、人間を滅ぼし世界の王になるのも簡単だろう」
「では……なぜ?」
「我は史上最強の魔王である。史上最強の魔王であれば普通の世界征服などはせぬ。我は我にしかできない道、誰にも成し得ない事をする……それが人間と魔族を統べる王だ!!」
「……なるほど! 人間を奴隷にするのですね!!」
「違う!! それもまた簡単な事。我がするのは至極険しい道……人間と魔族の友好な共存だ!!」
「「「「「……」」」」」
「そして、その上では我は……俺は人間と魔族、両方の王になる!!!!」
「「「「「……」」」」
俺と魔族の間に静寂が流れ、普通は『アカンだろこれ。終わった』と思う状況ながらも、厨二病を発症したたままの俺は堂々と立っていた。
すると、
「「「「「おぉ~!!!!」」」」」
「凄い……凄い発想です!!」
「さすがショーマ様!」
「誰にも成しえない事をしようとするとは……!!」
と、沈黙を破るように歓声が上がった。
そして、
「ふははは!! 我は史上最強の魔王ショーマなり!!」
と、俺を崇める部下たちに高らかと名乗った俺は、みんなに「我が目的を達成するまで、おぬし等はここで待っていろ!」と言って一人魔王城を抜けてきた。
最初はついて行くと言った声もあったけど、その姿では無理だと言って納得させた。
魔族が人間の元に行ったら、それこそ一気に戦争が始まってしまう。
こうして俺は一人魔王城を抜け出して来たのだが……
「俺はなんて恥ずかしい事をしたんだ……」
絶賛後悔中である。
魔族とは言え、あの大人数の前で発言した厨二発言。
俺は一人になり、厨二病が収まると一人悶々と後悔してしまっていてもたってもいられなくなる。
そして、謎テンションで一人リポートを始め、それでさらに自己嫌悪に陥ってしまっている。
「でも、こうやって落ち込んでいてもしょうがない。せっかく魔王城から出たんだし異世界を満喫しよう」
そう、俺は世界の王になりたい訳でもなんでもない。
人を殺したくなかっただけだし、世界征服したい訳でもない。
俺はただ人として生活したかっただけなんだ。
多くは望んでいない。
もし、あのまま魔族にのせられていたら俺はきっと勇者に討伐されるか、俺のチート能力が強大だった場合、人間を滅ぼし、人間の心を持ったまま一人あの場所で過ごすことになるだろう。
転生して魔王になって引きこもり……そんなのは嫌だ。
だから、こうなったからには魔族と人間が共存できる世界を作るのを目指すしかない。
出来るか分からないけど……。
まぁせめてもの救いは、今までに魔族と人間の共存って考えがなくて、新鮮に感じ受け入れてもらえた事だな。
「まぁでも、じっとしていても仕方ないしな。行くか」
そう言って俺はセイクピア王国の城下町を囲む高い壁を見上げる。
「さて、どうやって中に入るか」
俺にある選択肢は二つだ。
一つは門から入るルート。
しかし、これはもしかすると、門を通る時に身分証を確認されたりすると、持っていない俺は捕まる可能性がある。
もう一つはこの壁を越えて入るルートだ。
転生した俺は史上最強の魔気を持っており、その魔気は力、魔力に比例する。だから、転生して魔王となった俺にはこのそびえ立つ壁を飛び越えるなんてのも造作ない。
だからこの壁を飛び越えるという選択肢もある訳だけど……。
「飛び越えているところを誰かに見つかったら終わり、飛び越えた先で誰かに見られていたら終わり……」
壁を越えて入るのにもリスクはある。
「……」
ただ、今は夜。
人目は少ない。
「夜って事は普通に考えたら門はしまっているだろうし入るにもいろいろ手続きとかがいりそう。逆に壁を飛び越えるという選択肢は闇に紛れて人目に付きにくいってか」
これが昼なら門の近くで人の出入りがどんな感じで行われているのか見る事も出来るけど、今はそれができない。
翌日まで待って様子を見るってのもあるけど……。
「ここは壁を乗り越える方だな。闇夜に隠れて潜入……それこそ男の憧れ!!」
夜で暗いからか、俺の中で何かのスイッチが入って再び厨二モードへと移行する。
そうだ、こういう時は男は格好いい方を選ぶのだ!
「……とう!」
俺は壁を飛び越えると決めるとしゃがんだ反動を利用してジャンプし、壁の上に立つ。
何となく壁に立って街の中を見渡して一人たそがれてみようかと思ったけど、これが功を奏した。
何も向こう側の確認をせず飛び降りる必要はないのだ。
厨二モードが良い方向に向いたと思われる。
「これが異世界の街か……」
俺が見下ろす町はカラフルなイルミネーションはないけど、明かりが闇夜に輝き、中世的な街並みと合わさって日本では見られない幻想的な光景が広がる。
「ふ、ふははは! このきれいな街も全て我の物だ!」
俺は初めての異世界の街並に感動して、厨二モードの上に変なテンションになった状態で街の中へと飛び降りた。