96.承諾
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「あら、最初はどうなるかと思いましたけど、結構しっかりと考えて行動しているようですね。それならお姉さんも安心です」
バルドたちがライアンに保護者役を頼もうと話をまとめた頃、リリアはドア越しに聞こえてくる会話に耳を澄ませていた。
「しかし、ライアンさんですか。多分この時間はお昼寝していらっしゃるでしょうからね……」
いつまでもドアの前に立っていればバルドたちが出てくるだろう。
望んでそうなった訳では無いが、盗み聞きをした立場のためリリアはそそくさとその場を退散して、ライアンのもとへと先回りするのだった。
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ライアンはというと、リリアの睨んだとおり外で昼寝をしていた。
心地よい風が頬を撫で、陽光が差し込む庭は確かに昼寝にはうってつけだろう。
木陰で寝転がり、惰眠を貪るライアンの傍にリリアはしゃがみ込むと、だらしなく弛緩した頬をペチペチと叩く。
「──んあ?いて、いてて。なんだぁ……?」
「おはようございます、ライアンさん」
寝ぼけ眼であくびをしながらライアンが起きるのを見て、リリアはとびきりの笑顔でおはようを繰り出した。
「おぉう?なんでリリアちゃんがここに……?」
「ライアンさん」
「おう、なんだ?」
ライアンの疑問を遮って、リリアはある『お願い』をする。
「このあと恐らくバルドくんたちが来ます。用件は彼らの保護者役でしょう。引き受けてあげてくださいませんか?」
「なんでリリアちゃんがそんなこと知ってるかは分かんねぇが、随分とめんどくさいなぁ。ガキのお守りは趣味じゃねぇんだよ」
「いやいや、やっぱりあの子達だけだと危ないじゃないですか。信頼できる大人が守ってあげないと、ですよ?」
ライアンは体を起こして木にもたれかかると頭をかきながら嘆息する。
リリアは『大人が守る』の部分で妙に反応したライアンが一瞬気になったが、今は気にしないことにした。
「はぁ……俺は剣が好きで剣を振るわけじゃないんだ。この意味、リリアちゃんにわかるか?」
「……いきなりなんですか?煙にまこうったってそうはいきませんよ」
「あー、そういうわけじゃないんだが……まぁいいか。とにかく引き受けてはやるよ。一応俺が剣を握る理由にも当てはまるからな」
一体何がライアンを動かす要因になったのか、リリアはよくわからなかったが、とにかく保護者役を引き受けてはくれるようだ。
「ありがとうございます。それでは私はこれで……」
「──ああ、ちょっと待てリリアちゃん」
「はい?」
立ち上がって帰ろうとしたリリアをライアンが呼び止める。
ライアンはやけに真剣な顔をして親指を立てた右手をグッと突き出してきて──
「──清純なリリアちゃんはやはり純白がよく似合ってるな!」
そう、渋い声で言い放った。
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バルド、ラスティ、ニア、リフレット、アリスの5人は庭にある木の下で股間を抑えてうずくまるライアンの姿を見つけた。
「ライアン先生!?」
まるで芋虫のようにのたうち回るライアンに、バルドとラスティが血相を変えて走り寄る。
「先生どうしたんですか!?」
「誰がこんなことを……!」
「うぅ……リリアちゃんめ、加減てものを知らないのか……」
ライアンの呻き声に、バルドたちは動きを止める。
バルドの知るリリアといえば、いつも優しくふんわりとした印象の持ち主であり、今地面に倒れ伏しているライアンに危害を加えるような人物とは到底思えない。
(一体何をしたんだライアン先生……!)
そこまで考えたバルドが温厚なリリアをここまで怒らせたライアンに驚いていると、まだ痛むのか顔を顰めながらライアンが立ち上がる。
「あーいってぇ……んで、お前らは何しに来たんだ?」
「えっと……今からアリスを連れて街に出ようと思うんです。でも、流石に僕たちだけじゃ不安なので先生についてきてもらえないかと思って、お願いしに来たんです」
バルドがそう言うと、ライアンは合点がいったような顔をする。
「なるほどねぇ、そういうことか。……いいぜ、引き受けてやるよ」
「え!?いいんですか!」
「……なんだよ、引き受けて欲しくなかったのか?」
想定していたよりもスムーズに引き受けて貰えたために、バルドは思わず聞き返してしまう。
そんなバルドにライアンが不満そうな声を上げるが、その顔は笑っていた。
「いえ、そういうことじゃなくて……まさかすぐに了承してくれるとは思ってなかったんですよ」
「そうかぁ?俺はお前らのためを思って行動してやろうって言ってるのになぁ……心外だなー」
明らかにからかっているライアンと、それに振り回されるバルド。
このままでは時間を浪費してしまうと思ったニアが、その間に割って入る。
「2人とも、そんなこといいから、行こ?」
「お、おう。そうだな」
「……そうだね」
女の子には逆らえない2人であった。




