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94.楽しいね

 

 アリスは気分よく鼻歌なんて歌いながら屋敷内を歩いていた。

 今にもスキップをしそうなアリスを待っているのは、退屈な礼儀の授業でもなく、眠くなるお勉強の時間でもない、バルドたちとの遊びの時間なのだ。


「ふんふ〜ん。今日はたのしい安息日〜」


 学校にも働きにも行っていないアリスからすれば毎日が安息日みたいなものだが、それでもバルドたちが修行を休む今日はアリスにとってとりわけ特別な日だ。


 軽やかな足取りで向かうのは、みんなが集まることが出来る大部屋だ。

 いつもバルドたちの方が早く部屋についているため、今日は迎えに来るリリアを待たずに1人で部屋を出た。

 リリアと歩きながら話すのも嫌いではなかったが、それ以上に今日という特別な日の時間を1秒でも無駄にしたくないというのがアリスの本音だったりする。


「今日はなにしてあそぶのかなー?」


 いつだって何をするかを決めるのはバルドだった。

 独断で決めるのではなく、たくさん出た意見の中からアリスでも遊べそうで危険じゃないものを選出するわけだが、毎回違う遊びをするためアリスはバルドの発表までの時間、かなりウキウキとした表情を浮かべる。


「おままごと?おにごっこ?かくれんぼ?」


 思い描く夢のような家庭生活を模倣するのか、逃走のスリルを楽しむ遊戯か、知略を尽くす心理戦か。

 これから始まる時間に思いを馳せ、アリスは大部屋への扉を軽くノックする。


 ──コンコン。


 うんと背伸びをして小さな手で叩いた扉は、硬質な音を立てて、中にいるバルドたちに自分の到着を知らせる。

 いつもリリアと手を繋ぎながら待っているの時のように、ニコニコとしながら扉が開くのを待つ。


 ガチャリ──と音を立てて開く扉から顔を出したのは、大好きなバルドだ。

 すかさずアリスは小走りで近づきその見違えるように(たくま)しくなった体に抱きつく。


「バルドにぃ!」

「うわっ!……ってアリスだけ?リリアさんはどうしたんだい?」


 アリスの小さな体をしっかりと受け止めながら、バルドは見えないリリアの姿について質問する。


「リリア姉より先に来たの!」

「あぁ、だから少し早い到着なのか。……今頃リリアさん、探し回ってたりしないかな?」


 5分ほど早いアリスの到着に納得したものの、新たな問題にバルドは気づいてしまった。

 そしてバルドが廊下を覗き込もうとすると、そこには赤い髪のメイドが立っていた。


「あ、レッドさん」

「バルドさん、メイド長ならばブルーが事情を説明してこちらへ来ている最中です。お部屋に入られても大丈夫ですよ」

「おお、ありがとうございます。それじゃアリス、部屋に入ろうか」


 表情の読めない顔で淡々と報告するレッドにバルドは軽く頭を下げ、アリスの手を引いて部屋へと入る。


(……さて、まだ今日の遊びが決まってないんだけど、どうしよう)


 若干の焦りを覚えながらも、バルドは中央のテーブルを囲んだ椅子にアリスを座らせる。

 既にラスティたちは着席しており、到着したアリスに口々に声をかけていく。


「あれ、今日は早いんだ?」

「なんかアリスちゃんに会うのが久しぶりな気がするー」

「アリス、おひさ」


 まともな言葉をかけたのはラスティ。

 ラスティもバルドと同じことを思ったようで、首を伸ばしてリリアの姿を探す素振(そぶ)りを見せる。

 次にリフレットだが、密度の高い特訓のせいか、久しぶりだと言ってぷにぷにとアリスの頬をいじっている。

 ニアはニアで、短く挨拶を告げると眠そうな目で窓の外を見る。


 一見バラバラに見える3人の態度だが、いざ遊ぶとなればそれなりに団結する。

 まずかくれんぼではひとりが押入れの手前に隠れて、その奥にもう一人隠れる『灯台もと暗し作戦』(リフレット命名)を敢行したり、おままごととなれば本当の家族のように振る舞う。


 なんだかんだでみんな互いのことが好きで、一緒に過ごす時間が楽しいのだ。


「はい、みんな注目!今日は何をして遊ぶかまだ決まってないので早く決めよう」

「私また、おままごとしたいなー」

「積み木なんてどうかな?芸術性を競うんだよ」

「お昼寝、したい」


 がやがやと意見を出す3人の様子を、アリスは目を丸くして見ていた。


「ふおお、なにしてるの?」


 急に始まった議論に首をかしげるアリス。

 実のところ、いつもアリスが来る前に議論が終わっているのだが、少しだけ早くアリスが来てしまったため、未だに決めきれていなかったのだ。


「アリスは何かしたいことあるかい?」

「えぇ?うーんと、うーんと……」


 これもいい機会だとバルドはアリスに話を振った。

 いつもはバルドたちが内々で決めていたが、今回はアリスにも意見出しに付き合ってもらうことにしたのだ。


 アリスは顎に人差し指を当て、空中に目を彷徨(さまよ)わせながら、うんうんと(うな)る。

 アリスの頭の中を覗けば、恐らくめまぐるしい程に色んな遊びが浮かんできているのであろう。

 遊びたいさかりのアリスは散々迷った挙句、(ようや)く決まったのか目を輝かせてバルドたちを見てくる。


「はい!アリスはお外に出てみたい!」


 アリスの出した答えは、屋敷の外に出るというものだった。

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