87.いつもと同じで違う風景
短いです。
翌日、慎司は奴隷たちとアリスのことをコルサリアに託して魔法学校へ来ていた。
久しぶり、とは言っても2日ぶりなわけだが、どうにも久しぶりという感覚が否めない。
「おはようございます。シンジ様」
「ああ、おはようシャロン」
校門に差し掛かると、ふんわりとした笑顔で迎えられる。
当然のように手を差し出してくるので、持ってきていた鞄を渡すと、満足げに頷いて慎司の先を歩き出す。
教室までの廊下を歩く中、「そういえば」とシャロンが話しかけてくる。
「シンジ様、どうして昨日はお休みになられたのですか?」
小首をかしげて尋ねてくるシャロンに、慎司は軽く笑って答える。
「あー、シャロンは一昨日の事件って知ってるのか?」
「うーん、たしか貴族の方が街中で氷漬けになったとかいう噂は聞きましたね。まさかシンジ様……」
シャロンがある疑惑にたどり着いたのか、ジト目で見つめてくる。
慎司はつい目を逸らしてしまうが、それがシャロンの疑惑を確信に変える。
「シンジ様……貴族の方に危害を加えるというのは、かなり危ない行為ですよ?理解してますか?」
「はい、分かってます。ちゃんと説教もされました」
「あ、お説教はされたのですか。それなら私は何も言うことはありません。ですが、よくご無事でしたね?投獄や処刑なんて当たり前だと思うのですが」
最初は勿論処刑の話は出ていたのだが、そもそも慎司を害することができる人物がルガランズ王国にはいない上に、最悪の場合ルガランズ王国自体が滅ぼされる。
そう考えたジスレアの根気強い説得によってなんとか撤回されたのだった。
それを知らない慎司は王様に気に入られたことで処刑されなくて良かった。等と考えているのだが、それもあながち間違いではない。
「まぁ、俺もやっちゃったなーと思っていたけど、王様に気に入られたみたいでな。その後の事も色々あって屋敷なんかも貰ったんだよ」
「色々というのが気になりますけど、とにかく無事みたいで良かったです……」
シャロンはあまり深くは詮索することなく話を切り上げた。
どうやら話しているうちに教室についたようで、シャロンが鞄を渡してくる。
「それでは、私はこれで」
「うん、ありがと。シャロン」
慎司は鞄を受け取ると、教室に入る。
そこには、既に殆どの生徒が席についており、アレン、ガレアス、エリーゼ、リプルの4人もいるようだ。
教室内の人は、ドアを開けた慎司を見て、すぐに興味を失う。
──はずだった。
いつまで経っても視線が外れず、大声ではないものの話し声が聞こえるはずの教室からは、いつからか話し声が消えていた。
ただ静かに視線だけを寄越す教室内の生徒に慎司は居心地の悪さを感じながらも、アレンたちの所へと近づく。
「よっ、みんな早いな!」
精一杯の元気を出して明るい声で挨拶をする。
いつもなら、ここでアレンかエリーゼが挨拶を返してくれるはずだ。
だが、その2人は押し黙り、何かを考え込んでいる。
「お、おい?どうしたんだよ?」
何かがおかしいと思い、慎司が声をかけると、アレンが顔を上げて、真剣な表情で口を開いた。
「……シンジ、エイブリット陛下とお知り合いってほんとか?」
「……は?」
なんだか話の雲行きが怪しくなり、疑問の声をあげる慎司であった。




