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86.指導者

 

 バルドたち4人を部屋に案内してもらってから、慎司はライアンの元へ訪れていた。


 ライアンは庭に出ており、日課なのだろうか、担いでいた大剣で素振りをしている。

 両手で握った大剣を、上から下へ鋭く振り下ろすその動作はとても流麗で、長年磨かれてきたライアンの技術を窺わせる。


「952……953……」


 規則正しく上下する剣は、1つ前に描いた線をなぞる様に、寸分の違いもなく振られる。

 まるで機械のような、ライアンの鍛錬の様子に慎司は目を奪われていた。


(すげぇ……剣が全然ブレてない。それに凄い速さで振ってるのに、ピタッと止まってる)


 なまじ自分がアルテマという魔剣を使うために、慎司にはライアンの凄さが人一倍伝わってくる。

 ライアンの素振りが1000回目に達したところで、慎司は声をかける。


「ライアン、鍛錬中悪いな。ちょっといいか?」

「おあ?シンジの旦那か。……キリもいいし、構わねぇぜ」


 額に滲んだ汗を拭い、ライアンは大剣を壁にたてかける。

 隆起した筋肉を見るとどうしても暑苦しく感じるが、慎司は大事な話があると切り出した。


「大事な話だ?」

「ああ、ライアンは剣を教えることができるだろう?今日買ってきた奴隷たちの内、望む者に剣を教えてやって欲しいんだ。俺は我流だから教えたら逆効果になりそうだし、その点ライアンなら問題ないだろ?」

「まぁ、そいつは構わねぇが。なんで奴隷に剣を?冒険者にでもならせるのか?」


 ライアンの言葉に慎司は首を振って否定する。


「冒険者稼業ならいくらでも俺がこなせるよ。奴隷たちには、アリスの……俺の娘の友達兼護衛になってもらいたいんだ」


 ライアンは合点がいったとばかりに、左手の手のひらに握った右手をポンと打ち付ける。


「あー、そういうことか。旦那もなかなかに子煩悩なんだなぁ?」


 ニヤニヤと笑いながら近づいてくるライアンを軽く蹴って追い払う。


「うるせぇ、可愛いアリスに何かあったら困るからな。当然の事だ」

「いやいや、それが子煩悩──いてっ!いてて!旦那は力が強いんだから蹴られたら痛いって!」


 救いようのない親バカぶりを発揮しつつ、慎司はライアンの脛を的確に蹴っていく。

 痛みにピョンピョン飛び跳ねるライアンは、なかなかにおもしろい。


「まぁ、そういうわけだ。俺の予想では2人ほどお前の所に行くと思うぜ。残念ながら男がな」

「旦那ぁ!蹴っといて可愛い嬢ちゃんすらいないって損ですって!」


 おどけた様子を見せるライアンに対し、慎司は目を細めて強めに蹴りを放つ。

 ゴスッという鈍い音がし、ライアンは太腿を押さえてうずくまる。


「ぬおおおお……あー折れたわ。これ骨折れてるわ!」

「ほらよ、エクスヒール」

「少しは慌てて?淡々と治されると俺が馬鹿みたいじゃないすか」


 半眼でエクスヒールをかけてやった慎司に、ライアンが文句を言ってくるが、慎司はその全てを無視して話を進める。


「まぁ、よろしくってことで。俺はこの後レイラのとこにも行かなきゃだからな」

「指導は明日からでいいんですよね?取り敢えずは2人分の準備をしておきますよ」

「おう、頼んだわ」


 なんだかんだで引き受けてくれるライアンに手を振り、慎司はレイラの元へと向かった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 レイラはというと、食堂でワインを楽しみながら、つまみとして燻製肉や軽い料理を食べていた。

 部屋で魔導書でも読み込んでいるのかと思えば、ただの酒好きの女として行動していたため、思わず慎司の言葉も強いものになる。


「……何してんの、お前?」

「むっ、この濃厚な魔力はシンジ様ね?……何って、お酒飲んでるんだけど?」

「それは見たらわかるわ。魔導書とか読んでたりしないのか?」


 あっけらかんと言い放つレイラに肩をガクッと落としながらも、慎司はたまたま酒を飲んでいただけだと希望を抱いて質問する。

 しかし、レイラの答えは慎司の予想を斜め60度ぐらいにぶっ飛んだものであった。


「……魔導書?あれ難しいから全然読まないわ」


 流石にその返事は予想していなかったため、慎司は思わずアルテマを呼び出してしまう。


「アルテマ、ちょっと出てきてくれ」

「……なんですか、シンジ」


 光の粒子とともに現れたアルテマに、慎司はいくつか質問をしていく。


「魔法って魔導書読まなくても習得できんの?」

「可能です」

「じゃあなんで魔導書あるんだよ」

「独学で魔法を習得するのは難しく、魔導書には魔法の習得を助けるために、魔法の理論や効果などを詳しく記しています。そのため、魔導書を使って魔法を習得する方法が普及されています」


 慎司は、アルテマの話を聞いてもう一度レイラの方をまじまじと見る。


「……お前凄いんだな?」

「失礼ね、私はこれでもかなり高位の魔法使いなのよ?ていうか、シンジ様の隣の子、だれ?」


 鼻を鳴らしたレイラだったが、いきなり出てきたアルテマに興味を引かれるようで、チラチラと見ながら慎司に聞いてくる。

 慎司はどう説明したものかと悩むが、面倒くさいのでありのままをそっくりそのまま説明することにする。


「アルテマはな、俺の魔剣だ。そんで、魔剣が人の形を取って実体化した姿が、この子だ」


 随分バッサリとした説明だったものの、レイラは納得したようで、「ほえー魔剣持ちだったのね」などと呟いている。


「まぁアルテマはどうでもいい」

「私を蔑ろにしないで下さい、シンジ」


 慎司の言葉に、すかさずアルテマが異論を差し込む。


「……どうでもいいことはないが、その話をしに来たんじゃない」

「ほえ?そうなの?」

「ああ、そうだ。レイラには明日から俺が買ってきた奴隷の指導を行って貰いたい。頼めるか?」


 レイラは慎司の言葉を受けて数秒考えて、1度頷くと親指を立てた拳を突き出してきた。


「おっけーよ!魔法の道を進もうとしている人へは協力を惜しまないつもりなの!」

「おお、ほんとか!ありがとうレイラ。指導は明日からになると思うから、よろしく頼むな」

「まっかせっなさーい!師匠としてしっかりと大魔法使いに育て上げてあげるんだから!」


 ない胸を張り、ドンと叩くレイラを見て、慎司はなんだか不安になりながらも、上級までの全ての魔法を使いこなすというレイラを信じることにした。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「……うーん。問題はリフレットだな。弓を使える奴なんていたかな?」


 慎司は特に意味もなく大部屋の中を歩き回りながら、余ってしまったリフレットについて考えていた。


 バルドは剣、そして恐らくラスティも剣を、ニアは魔法を習うことになるが、リフレットの弓については指導者に心当たりがない。

 どこかの先輩冒険者に頼む、というのも1つの手だと思うが、アリスと親睦を深めるためにもできれば家の中で行動して欲しい。


(そうなると、また誰か雇うことになるのか?……ルナに怒られるかなぁ。節約は大事だからなぁ)


 お財布の紐を握っているルナは、慎司が無駄遣いをしないように厳しい目で見張っている。

 基本的には口出しをしないものの、明らかに無意味な買い物だったり、浪費が目立つようだと小柄な体を精一杯大きくして怒ってくるのだ。


(いや、別に可愛いしいいんだけど。怒らせるのは悪いからな)


 甘い思考に溺れかけつつ、慎司がうろうろしていると、そんな様子を見かねたのかステルが現れた。


「我が主、お困りの事について俺ならなんとかできるかと」

「お、ほんとに?ステルって弓とか使えんの?」


 渡りに船とばかりに慎司はステルの話に飛びつく。

 ステルはどうやら斥候の様な技術は殆ど持ち合わせているようで、短剣や弓等は充分に扱えるとのことだった。


「いやー、それならリフレットの件も安心だな。ステルに頼んでいいよな?」

「はい、お任せを。短剣や弓の指導ぐらいならば、ルナ様やコルサリア様たちを陰ながら護衛するのにも支障はきたしません」


 なんとも心強いステルの言葉に、慎司は感激して諸手を上げて喜ぶ。


「おお!流石ステル!頼りになるなぁ」

「ありがたきお言葉。誠心誠意努めさせて頂きます」

「おう、頼んだ!」


 悩み事がなくなり、機嫌のよくなった慎司はルナかコルサリアにちょっかいでもかけるべく、鼻歌を歌いながら大部屋を出ていくのだった。

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