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76.神様とか王様とか

 

 地上、海中、空中、世界を構成するあらゆる場所からかけ離れた所で、神は(わら)う。


「ねぇテミス。なんだか面白いことになってきたよ?」

「そうみたいね。人間の王国は滅びることは無かったみたいだけど」

「そう、それなんだよ!……いやぁ、あの魔族も惜しかったねぇ。あとちょっとで王様か王女様を殺せたのになぁ」


 心底悔しそうに話す様子を見て、テミスはうんざりとした顔をする。

 テミスは法と掟を司る神だ。目の前にいる、楽しさだけを追求して無秩序に世界を引っ掻き回す神が目障りでもあった。

 そんなテミスの思いを知ってか知らずか、楽しげに鼻歌で何処かの歌をなぞらえる神は下を見下ろす。


「しっかし、シンジくんは強いねぇ。もう彼、敵なしなんじゃないのかな?」

「強くあることは大事よ、強さを伴わない主張は負け犬の遠吠えと同じ。成し遂げたい願いがあるなら、押し通す力を身につけなければいけないわ」

「ほぉ……テミス、今日はやけに饒舌だね?何かいい事でもあったの?」

「いえ別に。ただ、面白くなってきたことは否定しないわ」


 いつもより饒舌なテミス。その口が回る理由には慎司が更に力をつけたことに起因する。

 テミスは賭けに勝ってから、ある計画を進め始めたのだ。

 目の前でカラカラと笑う原初の神、アイテールを殺すための計画だ。

 計画は順調に進んでおり、まだ初期段階とはいえ、期待が持てる。

 気分も高揚して饒舌にもなるものだ。


「テミス、またルガランズ王国に魔族とかけしかけてみていいかな?」

「ダメよ、掟を破ることになるわ」

「相変わらず厳しいね、君は」

「アナタがダメダメなだけよ。他のみんなはちゃんと掟を守るもの」


 何度目の言葉だろうかと肩を落とすテミス。

 そんなテミスの様子を見て、アイテールはまた笑うのである。


「まぁまぁ、僕がダメダメなら君がちゃんと見張っといてくれよ。いつ掟を破っちゃうかわからないからね」

「そうね……目を離したらすぐに世界を引っ掻き回すに決まってるわ。楽しければいいって訳じゃないのよ?」

「あーわかってるわかってる」


 はぐらかす様に手をひらひらと振るアイテール。

 額に青筋が浮かびそうになるのをテミスは抑えつつ、もう一度念を押す。


「ほんとにわかってるのかしら?掟破りはもう庇えないからね」

「うーん、わかったよー」


 明らかにわかっていない反応をするアイテールの背中を冷たい視線で見つめながら、テミスはほくそ笑む。


(警告はしたわよ……)


 テミスの計画は未だ順調である。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 フラミレッタに連れられて慎司は廊下を歩く。

 アリスと同じぐらいに見えるその小さな背中を追いかけていくと、謁見の間とは違うが、これまた豪華そうな部屋へと案内された。


「やぁ、待っていたよシンジ」


 そう言って片手をひょいとあげて見せるのはエイブレット王だ。

 謁見の間での威厳ある態度を目にしていた慎司からすれば、少々軽薄にすら感じる。

 しかし、例えそう見たとしても相手は一国の王だ。慎司は即座に跪いて頭を垂れる。

 すると、エイブレットは苦笑しながら慎司に声をかける。


「あー、よいよい。ここではそんなに堅苦しくする必要はないんでな」

「はぁ、そうなんでしょうか……」

「うむ。いつもの様に話してくれて構わぬよ」


 慎司からすれば、堅苦しい態度を続けるのは疲れるだけなのでありがたいが、だからといって尊大な態度で話すのは良くない。

 ある程度の礼節を弁えて話すべきだろう。


「エイブレット陛下、何故私を呼んだのでしょうか?」

「おお、それか。まずは先日のアルテオ伯爵の反逆──いや、魔族アルバジルの襲撃から儂と娘のフラミレッタを助けてくれたことについてだな。感謝する」

「あっ、いえ。私は別に当たり前のことをしたまででして」


 軽くだが、王が頭を下げたことによって近くにいるフラミレッタが目を見張る。

 慎司は勝手に体が動いてしまっただけであり、恩を売るなんてことは一切考えていなかったのだ。

 狼狽する慎司を見て、顔を上げたエイブレットが笑う。


「ははは、まぁ素直に受け取ってくれ。命の恩人に頭を下げない等、王族の誇りが許さんのだよ」

「まぁ、そういうことなら……」

「うむ。それでだ、シンジ。儂は現在アルテオ伯爵が持っていた領地や屋敷の処遇に困っているのだ」

「……はぁ、それと私の呼ばれた理由に何の関係が?」


 話の真意を図りかねる慎司が首を(かし)げる。

 フラミレッタは既に話を聞いているのか、慎司の顔を見ているだけだ。


「つまりだな。シンジ、お前にその財産の一部を褒美にやろうという訳だ」

「……褒美ですか?何に対する?」

「儂を救ってくれただろう?それで前回の貸しは返してもらった。……だが、お前はフラミレッタも助けてくれた。流石にチャラというわけにはいかないのだ」


 1人で話して1人で納得するエイブレット王の言葉に慎司は翻弄されるばかりだ。


(は?褒美?……屋敷とかもらえるのか?お金は、困ってないしな……なんか話がでかくなってきたぞ)


 どんどん膨らんでいく話の中で、慎司は冷や汗をかいていた。

 背中を伝う不快な感覚を無視して慎司はエイブレットに言葉を返す。


「えーっと、屋敷とかを与えてくれるってことでしょうか?」

「端的に言えばそうだな。儂がお前に与えようと思っているのはこれだ」


 エイブレットは1枚の紙を差し出してくる。

 そこには、慎司に与える褒美が色々と書かれていた。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 ・アルテオ伯爵が所有していた屋敷の内、一番大きなものを与える。

 ・アルテオ伯爵の所有していた財産の半分を与える。残りの半分は国庫に保管する。

 ・アルテオ伯爵に雇われていた者の内、信頼のおける者を屋敷の使用人とする。

 ・爵位は与えない

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 褒美の内容を見て慎司は度肝を抜かれた。

 屋敷と使用人については百歩譲って良しとしても、伯爵の財産を半分と言ったら、正直遊んで暮らせるだけの大金だ。

 それに加えて、爵位を与えられないということは、大金と屋敷だけ手にして貴族の重責やしがらみには囚われないということになる。


(なにこれ褒美もらいすぎじゃね?なにか裏があるに違いない。じゃないと財産半分とか言わないだろ普通は)


 慎司は何か裏があると睨み、それを明かさないまま褒美を受け取るのは危険だと考える。

 ここで褒美を受け取って、後から働かされるとかは嫌だった。


「あのぉ、流石にこの褒美じゃ……」

「足りぬと申すか……。フラミレッタを助けてくれたわけだし、儂はもっと多くしろと言ったのだ。しかし大臣がものすごい形相(ぎょうそう)で止めてきてなぁ……」

「え?あの……は?陛下は足りないとお思いで?」

「勿論だ。財産なんぞ全部持っていきたまえ!……と言いたいが大臣は怖いのでな。すまないが、半分で我慢してくれぬか?」

「ありがたく受け取っておきます」


 慎司の深読みだったようで、どうやらエイブレットはもっと多くの褒美を与えるつもりだったらしい。

 それを周りの大臣が止めたらしいが、大臣は仏なのだろうか。つい拝みたくなるほどに理知的な人物に違いない。

 大金を手にしたところで慎司は困ってしまう。


(名前も知らない大臣さん、ありがとう……)


 慎司は目を閉じてこっそりと礼を言うと、差し出された褒美の内容をもう一度見て、問題ないことを確認するとサインをした。


「うむ、これからも我が国のために尽力してくれ」

「お任せ下さい、陛下」


 こうして、『お金を持て余す』という贅沢な悩みは発生する前に霧散したのだった。

神様の名前とか出してみました。

神話とか詳しくはないんですけどね……



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