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75.目が覚めて

思ったよりも話が進まなかった……

 

 腹に圧迫感と両手を拘束されている感覚に、寝苦しさを感じた慎司は目を覚ます。


「……知らない天井だ」


 開いた目に入ってきたのは、見知った天井ではなく見るからに豪華そうな壁紙の貼られた天井。

 慎司は、自分がフラミレッタを庇って意識を失ったということを思い出す。


(俺がベッドなんかに寝てるってことは、なんとかなったんだな……)


 そこまで考えて、圧迫感の正体を突き止めるべく視線を体の方へと動かす。

 そこには想像していた通り、アリスが心地よい寝息をたてて慎司の体に抱きついていた。


「腕は……ルナとコルサリアか」


 慎司の両腕にはルナとコルサリアが、体全体を絡めるようにして抱きついている。

 そのお陰で慎司の両腕には柔らかい感触が二つの方向から押し付けられている訳だが、慎司は小さくため息をつくだけだった。


「はぁ、寝込みを襲うのは紳士じゃないからなぁ」


 柔らかいベッドに体を預けて呟く慎司の言葉に、抑揚のない声で誰かが反応する。


「無理やり唇を奪うのは紳士なんですか?」


 慎司はその声を聞いて体を固まらせる。

 いつの間にか実体化したアルテマがベッドの脇に立っている。

 改めて当人から聞くと、自分のしでかした事の重大さに気づいたのだ。

 慎司は冷や汗をかきつつも返事をする。


「あ、あれは……そう。高ぶっちゃって?」

「そうですか。シンジは高ぶるとあのような紳士にあるまじき行為をするのですね?」

「あっ、そういうわけじゃなくて……いや、そうなんだけど。違くてだな」

「まぁいいです。それよりシンジ、体に異常はありませんか?」


 アルテマの質問を受け、慎司は自分の体を見回す。

 痛みもなく、不調もない。

 感じるのは両腕の幸せな感触と腹の重みだけだ。


「いや、特にはないけど?」

「……嘘は良くないですよ。体の関節が痛かったり気分が悪かったりするでしょう?」

「いやしないけど」


 強い口調のアルテマだが、本当に痛みもないし気分は睡眠あとなので爽快ですらある。

 それを伝えると、アルテマは怪訝そうな顔をする。


(初めてこんなに表情が変わったな……)


 そんな事を思いつつ、慎司がアルテマの反応を伺っていると、アルテマは大きなため息をついた後、肩を落とす。


「……シンジ、アナタは本当に人間ですか?」

「そうだと思うぞ……多分」


 慎司はつい言葉を濁す。

 なぜなら前にステータスを確認した時の、種族の欄には『人間』ではなく『超人』と書かれていたのだから。


「何故、多分なんですか?」

「いやぁ、俺もよく分かんないしなぁ」

「シンジは鑑定があるでしょう?それで自分を見れば良いのでは?」

「うん、そうだね。見るね」


 そう言うと、慎司は自分の体に鑑定の力を向ける。

 人間であって欲しいと思って見たステータスだが、ステータスは変貌していた。そして表示される数値を見て、慎司は驚愕した。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 《黒木慎司:超人》

 《専攻職》剣聖/魔導王

 《加護》精霊王の加護


 Lv.255

 HP99999/99999

 MP99999/99999


 STR:9999

 VIT:9999

 DEX:5000

 INT:9999

 AGI:5000


 《スキル》

 武道:剣術MAX 体術MAX


 魔法:火魔法MAX 水魔法MAX 風魔法MAX

 土魔法MAX 光魔法MAX 闇魔法MAX

 回復魔法MAX 転移魔法MAX


 耐性:打撃耐性 斬撃耐性 火耐性 麻痺耐性


 特殊:召喚魔法 並列思考 完璧な体 手加減

 値切り 魔力障壁 指揮 教育


 《称号》超越者 最強のその先へ 魔剣の契約者

 限界を超える者 後継者 聖者

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 慎司は一度目を閉じ、深呼吸をしてからもう一度自分のステータスを見る。

 何度見ても変わらない、以前とはかけ離れたステータスを見て慎司は空いた口が塞がらない。


「シンジ……?どうしたのですか?」


 アルテマの訝しむ声に頭では反応するものの、口が上手く動かない。


「け、け……」

「け?」


 アルテマは突然壊れた機械のように繰り返す慎司に駆け寄ってくる。

 以前であればそんなことはなかったが、それ以上に慎司の中では大きすぎる驚愕が心を支配していた。

 そして、ついにその驚愕を声に出す。


「け……桁が違うじゃないかっ!!」


 慎司は以前森で受けた衝撃よりも、さらに大きな衝撃を受け、心の底から叫ぶ。

 何に衝撃を受けたか。

 まずはステータスの数値だ。軒並み桁が一つ上がっているその数値を見れば、超人という種族にも納得はできる。

 ただ、999であれ程の強さを誇ったにも関わらず、今の慎司のステータスは9999と9が一つ多い。

 そのステータスの差は9000。以前の慎司が10人いたとしても敵わない差だ。


「どういうことだよ……称号のとこも変わってんなぁ。あれぇ……」


 何度言っても返事を返さずうわ言を繰り返す慎司を見て、アルテマは諦めた様にして黙っている。


 慎司はそんなことは気にせず、新しく追加されている称号について意識を向ける。

 新しく追加されている称号は三つ。内一つは前からあったものが変化したものだ。

 意識を向け、称号についての情報を整理していく。


 《限界を超える者》

 ステータスの上限を超えた者に贈られる称号。

 ステータスの上限が解放される


 《後継者》

 意思を継ぐ者に贈られる称号。

 継いだ意思の重さによってステータスに補正


 《魔剣の契約者》

 魔剣に選ばれ、契約を交わした者に贈られる称号。

 交わした契約の種類によってステータスに補正


「アルテマァ!?」

「はい、なんでしょうかシンジ」


 称号の詳しい説明を見た慎司は、つい大きな声をだす。

 対してアルテマはいつもの様に抑揚のない、無感情な声で返してくる。


「なんでしょうか、じゃない!なにこのステータス!?アルテマのせいなの!?」

「はぁ……何の事を言ってるかは分かりませんが、シンジの力が増しているのは確かに私と契約を交わしたからです」

「やっぱりな!」


 腕と体を拘束されて動けない慎司は、寝たままの情けない体勢でアルテマに発話する。


「なんでこんなステータスになってんの?」

「さっき言ったじゃないですか。シンジが私と契約を交わしたからです。普通はもっと控えめなのですが、シンジが無理やり力を奪っていった形になったので、通常よりも得た力は大きくなっていますが」

「大きくなりすぎてるから!こんなの持て余すよ!」


 慎司は確かに藍色に支配された空間でアルテマから提示された『守る力』と『壊す力』と『癒す力』の三つの全てを欲した。

 その結果が、人間を超えたよりも更に上のステータスだ。

 慎司はついに頭を抱え出す。


「シンジ、何を悩んでいるのかは分かりませんが、悪いのは全てシンジですよ。アナタが無理やり契約を交わさなければ、ここまで酷いことにはなりませんでした」

「おう、そうか……」

「無理やり、私の、唇を奪って……手の甲で良かったのですよ?」


 話していく内に、顔を赤らめていくアルテマを見て慎司は動揺する。


(あれ?アルテマってこんな表情変わる子だったっけ?)


 アルテマは動揺する慎司を置いてけぼりにして言葉を続ける。


「契約もそうです。三つ全てを手にして無事だなんて普通はありえないです。正直一番不思議なのはそこです。どうして無事なのですか?」

「いや、それを俺に言われても困るなぁ。やっぱりおかしいのか?」

「はい、おかしいに決まっています。普通は一つ手にするだけで死に至ります」


 突然明かされる契約時の死の危険性に、慎司は目を見開く。

 アルテマの胸倉を掴みたい気分になるが、残念ながら両腕は未だに拘束されている。


「ちょっと待て!死ぬ可能性あったのか!?」

「はい、力を得るのに代償は必要でしょう?」

「え!?なんか契約しないと俺は死ぬみたいな言い方してたよね?」

「……はい。しましたけど?」

「するしかないじゃんそんなの!脅迫じゃん!」


 慎司は声を大にしてアルテマに言い放つが、アルテマは特に気にした様子もなく返事をする。


「契約をしなければ確実に死んでいました。しかし、契約をして力の反動に耐えれば生き長らえることが出来ました。選択肢はないでしょう?」

「いやいや、大事なとこ聞かされてなかったんだけど?」

「言ったところでシンジは契約を交わしたと思いますが?」

「いやそうだけどさ。うーん……」


 淡々としたアルテマの言葉にすっかり丸め込まれてしまった慎司。

 流石に言い合いに勝てないと悟ったのか、慎司は気になった称号について聞くことにする。


「それじゃあ、この《後継者》って称号はなんなんだ?」

「ああ、それなら──」


 そこでコンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 ルナたちに囲まれ、アルテマと話していることで慎司はすっかり忘れていたが、ここは知らない場所なのだ。

 慎司にベッドを貸してくれた誰かが声を聞きつけて来たのかもしれない。


「──話はここまでですね。それでは」


 最後にそう言ったアルテマが実体化を解いて藍色の粒子と共に姿を消す。

 それを見た慎司は、体を拘束されたままノックに応じて、「どうぞ」と声をかける。

 ドアに鍵がついていないのは跳ね上がった視力でわかった。


(魔力感知でフラミレッタ様ってのも分かってるしな)


 慎司が声をかけると、ドアの奥でピクリとしたのがわかった。

 それから二秒後、ゆっくりとドアが開く。


「失礼します」


 鈴を鳴らすような可憐な声で部屋に入ってきたのは慎司が庇い、守ったフラミレッタ王女。

 フラミレッタは慎司の顔を見て、花が咲いたような笑顔を浮かべるが、その体に抱きつくルナやコルサリア、アリスの姿を見て驚いたような表情を浮かべた。


「えーっと、こんな格好で申し訳ないです。王女様」

「いえ、それは構わないのですが……。そちらの方々は、奴隷なのですよね?」

「ええ、そうですけど?」

「随分と仲が良いんですね。私、奴隷はもっと……その、待遇が酷いと聞いていましたので、驚いてしまって」


 そう語るフラミレッタの目は、少し悲しげだ。

 見た目はアリスとそこまで変わらないが、言動がやや大人びているフラミレッタを見て、慎司は優しい目つきになる。

 王女と聞いて畏まっていたが、その正体はまだ子供なのだと知って、少し接し方を考えさせられる。


「……んん、ご主人様ぁ?」

「はぁむ……シンジ様……」

「おはよう二人とも、起きたなら離れてくれ。後噛まないで」


 アルテマとの応酬とフラミレッタとの会話で、流石に目が覚めたのかルナがぼんやりとした目で慎司を見上げる。

 反対側のコルサリアは寝ぼけて腕に噛み付いた。

 そんな様子を見て、フラミレッタがぽつりと言葉を零す。


「仲良すぎですよ。家族みたいです」

「そうですかね?そう見えたら嬉しいですけど……っと、二人は顔でも洗ってきたら?」

「それならすぐに用意させましょう。オルネリア、おねがいできますか?」


 寝起きの乱れた髪の毛を急いで直し出す二人を見て慎司が提案すると、フラミレッタは優しく微笑んで扉越しにメイドを呼んだ。


「少ししたら戻ってくると思います」

「王女様にこんなこと頼んで申し訳ないです」

「そんなこと気にしなくてもいいですよ。あ、そうだ。シンジさんにはお話があるので、この後別室についてきてもらえますか?」

「話?それは誰からですか?」

「私のお父様です」


 意識が戻ったところで、魔族とは別の厄介事に巻き込まれそうな雰囲気を感じる慎司であった。

※脱字を修正しました

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