74.あの人の元へ
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門のところにいた男を先頭にして、ルナたちは城内を歩いていく。
灯りに照らされた廊下は至る所に装飾が施されていて、ルナやコルサリアは装飾に触れないように気をつけて歩く。
見ただけで高価だとわかる絵画や壺などの芸術品が、二人の精神をすり減らしていく。
「うぅ……歩くだけで疲れますよぉ」
「そ、そうね。壊したりなんかしたら……」
「考えただけで恐ろしいです……」
城門に辿りついた直後は、慎司が傷を負ったと聞いて取り乱していたが、先頭を歩く男から話を聞いていくうちに二人は冷静さを取り戻し冗談混じりに話すことぐらいはできるようになっていた。
意識が戻っていないのは心配な二人であったが、命に関わる問題ではないと聞いて胸を撫で下ろしたものだ。
「そろそろ目的の部屋に着きます」
「あっ、わかりました」
5分ほど歩いて、漸く目的の慎司が眠っている部屋へと到着した。
扉の前まで男は案内をすると、ゆっくりと礼をしてその場から立ち去った。
ルナとコルサリアは顔を見合わせて小さく頷くと、二人で両開きの扉を押し開く。
軋む音さえあげずに滑らかに開いた扉の奥には、簡素ながらもセンスの良さが伺える調度品が置かれた部屋が広がり、真ん中に置かれたベッドの上には穏やかな寝顔をする慎司が寝ていた。
「……気持ちよさそうに寝てますね」
「……そうね。私たちの心配はなんだったのかしら」
「パパもう寝てるのー?まだゆーがたなのにねー?」
「我が主は未だ目覚めていないか……」
慌てて駆け込んできたルナたちに比べて心地よい寝息をたてる慎司の様子を見て、ルナとコルサリアは半眼で、アリスは不思議そうに首をかしげ、ステルは悲しみに目を伏せて、口々にそう言った。
だがすぐに表情を緩めると、ルナとコルサリアは寝ている慎司の傍らに寄り添うようにしてベッドに腰掛ける。
ルナが右手側、コルサリアが左手側だ。
「もう、無茶はしないでくださいって言ったじゃないですか……」
ルナがしょうがないと言ったような顔をして、慎司の黒髪を手で梳く。
その手つきは優しく、口調こそ咎めるようだが、その実無事を喜んでいる。
「仕方ないですよ、シンジ様ですから」
「ふふふ、確かにそうですね。ご主人様はほんとに……もう……」
頬を膨らませるような、ポーズだけの怒りを見せるルナにコルサリアは笑いながら言う。
一歩引いた位置でアリスを抱えるステルは、そんな二人の様子を愛おしげに見つめる。
まるで昔を懐古するような目に気づいたのはアリスだけだったが、幼いアリスにはその目の真意には思い至らなかった。
「ステルー、アリスもパパのとこに行きたい」
「わかりました、姫」
「ありがとー」
「いえいえ」
アリスの言葉に従い、ステルはアリスを床に下ろしてやる。
とてとてと言った擬音がしっくりくるような、そんなたどたどしい足取りでベッドに近寄るアリスは、思ったよりも高かったベッドの高さによじ登れず、結局ステルの方をジッと見つめてくる。
「……仰せのままに」
慎司の足側から、ステルに持ち上げてもらったアリスは慎司のお腹へとのしかかる。
とは言っても幼いアリスの体重はそこまで重いわけではなく、慎司は寝苦しそうに顔を顰めただけだった。
「いつまで寝てるんですかぁ……早く起きてください」
「起きたら怒らないと、ね?」
「ええ、そうです。無茶ばっかりして心配をかけるご主人様には一度ガツンと言わなきゃダメだと思うんです!」
両手の拳を握って力説するルナを見て、コルサリアは微笑む。
「ほんとに怒れるのかしら?」
「もう怒ります、絶対怒ります。そう決めました、今!たった今!」
怒ったと言うものの、その目は優しいままだ。
慎司が傷を負った時に真っ先に駆けつけようとしたのはルナであり、そのことからも本気で怒ってないことなど丸わかりであった。
「早く起きるといいですね」
「ええもちろんです」
「そうですねぇ」
「うん!」
何気なく発した声に反応する三人を見て、ステルは思う。
(結局、みんな我が主を慕っているではありませんか……)




