7.冒険者ギルドと初依頼
ブックマーク数とPVが物凄い勢いで増えており、若干焦っております。
とても嬉しく、喜びの舞を踊りました。
基本的には毎日更新を目標としておりますので、是非とも寛大な心で作者を見放さずに頂けたらと思います。
魔力というものが、慎司にはあまりピンと来なかった。
元いた地球でそんなものなど感じることは無かったし、そもそも使う必要性もなかった。
ただ、異世界であるこちらの世界では、魔力というものは当たり前の存在らしい。そもそも魔法等という技術がある時点から慎司の常識とかけ離れている。
そのため、リーティアに魔力回路を直してもらってから慎司は暇さえあれば魔法の練習をしていた。
「ふん……ぬぬぬ……」
右手に水の塊を生み出すイメージ。
これぐらいなら苦もなくできるが、さらにそれを攻撃に見合った形や規模にするのは難しかった。
今使える攻撃魔法は《火魔法》であるファイアボールだけ。リーティアが実際に見せてくれたこともあり、割と簡単にイメージできた。
これが火以外の属性となると、途端にイメージできなくなる。
「……はぁ。次だ、次」
今度は風を生み出してみる。風自体は生み出せるが、そこから先がやはり難しい。
土も同じで、サラサラとしたものしか生み出せなかった。
「うーん、上手くいかねぇな」
《火魔法》の練習を宿の部屋で行うことはできない。理由は簡単なもので、失敗した時に火事になるからである。
木造建築であろう宿屋は、一瞬で燃えるに違いない。
ああでもない、こうでもないと、慎司は試行錯誤を繰り返す。
そうしてグダグダと考えているうちに、朝日も上り、次第に外が明るくなる。
食堂も営業を開始したようで、朝食の匂いが若干だが漂ってくる。
「取り敢えず魔法は保留だな」
腹が減ってはなんとやらである。
慎司はアイテムボックスから服を取り出し着替え、食堂へ向かうのだった。
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今朝の朝食は黒パンに味付けの薄いスープである。少し硬い黒パンをスープに浸して食べるらしい。十分に量もあり、満足した食事ができた。
朝食をとった後は、本日のメインである冒険者ギルドへ向かうとする。
部屋の鍵を昨日の猫耳少女へ返却し、宿屋を後にする。
鍵を返す時少女が顔を赤らめながら名前を教えてくれたのだが、慎司は特に意味がわからず取り敢えず名乗っておいた。
ミリルと名乗った少女は、最後までこちらの顔をじっと見つめてきたが、適当に愛想笑いをしてそそくさと宿を出るのであった。
宿を出て通りに足を踏み入れる。
既に街の通りには人が賑わっており、商人と冒険者の値段交渉や、数人のパーティーの話し声があちこちから聞こえる。
「冒険者ギルドは、確かあっちだな」
事前に慎司が調べた情報では、冒険者ギルドは宿屋から東の方向にあるらしい。
ランカンの街は中央に教会があり、教会を中心に街が広がっている。宿屋は西門付近にあり、冒険者ギルドは東門付近にあるそうだ。
「うーん、これでこそ異世界だ」
がやがやとした雰囲気、ハリのある商人の声、武器を携えた冒険者。
地球では見られない光景である。
ちらほらと人間以外の種族も見かけるため、より強く異世界だと感じる。
期待に胸を弾ませ、慎司は早足で冒険者ギルドを目指す。
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「ふーん、ここが冒険者ギルドか」
慎司が立っているのは冒険者ギルドの目の前。木造の二階建てで、剣を交差させるような看板が目印となっている。
ドアは無いようなので、さっさと中に入る。
慎司が足を踏み入れた所で、こちらを誰も注目しない。チラッと一瞥し、すぐに目線を外すのだ。
見るからに駆け出しのような格好をしているのだから当然とも言える。
変に視線を集めなかったことに安堵し、慎司は受付らしきカウンターにいる女性に話しかけた。
「あのー、すみません。冒険者登録をしたいのですが……」
「はい、登録ですね。まずは仮登録となっていますが、よろしいでしょうか?」
慎司は構わないと告げる。
冒険者になれるのなら、大抵のことはやるつもりだった。
「では、まずは仮登録としてこちらをお受け取りください。次に、ギルド側から出す依頼を達成してきてもらいます。これに成功すれば登録完了となります」
「それぐらいできないとダメってことですね」
「そういうことです。冒険者とは、常に危険と隣り合わせの職業です。そのため、実力の無い者が無残に命を失うことがないように、とのことです」
まぁ、何も出来ない子供や老人がなれる程甘い職業ではないということだろう。
仮登録の依頼というのも簡単で、薬草を取ってくるだけのようだ。
「詳しい説明は、本登録後となっております。それでは、依頼の達成頑張ってください」
「わかりました」
慎司はそう言うと、受付の女性から1枚の紙を受け取る。これに依頼内容が書かれているようだ。文字が読めない場合は、代わりに読んでくれるらしいが、特に問題なく読むことが出来た。
「よし、さっさと終わらせよう」
防具は特にいらないだろうし、武器なら魔剣がある。スピード重視でいこう。
慎司は薬草が群生していると言う北の森に向かうべく北門へ歩き出す。
残念な冒険者の初心者狩りに会うこともなく、あっさりと北門に辿り着く。
門にいる兵士に依頼のことを告げると、がんばれよ!と声をかけられた。
随分と気さくな兵士のようで、好感が持てた。
「森……ってあれか」
北門から街の外に出るとすぐに森は目に入った。徒歩5分ぐらいの位置に森の入口があるようだ。いくらなんでも近すぎだろうと思ったが、文句を言う相手もいないので、慎司はやや出鼻をくじかれた様子で森へと向かった。
依頼の目的である薬草の名前はヒールグラスと言うらしい。安直な名前に感じたのは慎司だけであろうか。
ただ、採取できる森には魔物も出るらしく、遭遇した都度撤退か戦闘を選択しなければならない。要は、彼我の実力差を見極める訓練にもなっているようだ。
魔物と聞いて慎司は襲ってきた狼のことを思い出した。
「あの狼、魔物か……」
慎司は野生の動物だと本気で思い込んでいたのである。
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森に入ると、すぐに薬草は見つかった。色んな所に生えているらしく、その分指定された量もそれなりに多い。
ぶらぶらと薬草を探しながら森を探索する慎司。鑑定で見分けているので間違いはない。いちいち依頼書と比べたりする必要が無い分、そのスピードはとても早かった。
「……こんなものか」
30分ぐらいして、ようやく規定量の薬草を手に入れることが出来た。
初依頼がこんなに簡単で良いのかと慎司は思ったが、自分のチートじみたスペックを思い出し、実際はバランスの取れた依頼だと考え直す。
「グギャ!」
「ギャギャ!」
こうして魔物に出会う度に、素人の場合は全力で取り組まねばならないのだから。
ただ、慎司は魔剣でゴブリンの頭を切り飛ばし、アイテムボックスに収納する。
「異世界では討伐報酬とかあるらしいからな」
目当ては当面の資金。
討伐部位についてはまだ教えて貰ってないのでわからないが、アイテムボックスに保存しておけば特に問題はないように思える。
「ギャ!」
「グギャ!」
スパスパとゴブリンを切り裂き、アイテムボックスに放り入れる。既にその一連の流れは作業と化していた。
あまり早く帰りすぎると不正を疑われるかもしれないと思った慎司は、こうして時間つぶしをしているのだが、その間に倒した魔物の数は計り知れない。
ゴブリン、ウルフ、スライム。とにかく何でも倒した。慎司のスピードについてこれる魔物はおらず、その力に耐える魔物もまたいなかった。
「いい感じの時間になったろ、そろそろ帰るか」
慎司は街を離れてから5時間ほど経ったあたりで、帰ろうとした。
だが、あまりに魔物を狩りすぎたのだろうか、慎司の目の前には森の中でも一番強いボス級の魔物が現れていた。
「おいおい、もう魔物はいらねぇっての」
現れたのは巨大な熊。その爪は鋭く、牙が見える口は獰猛に歪められている。
慎司が呆れたように声を出すのを、熊は怯えととったのか、一気に距離を詰めてくる。
「うーん、狼の方が強いな」
振り下ろしてきた爪を左手で受け止めると、慎司は右手の魔剣を突き出した。
魔剣は抵抗なく熊の体を突き破り、絶命させる。
「ま、金にはなるだろ」
慎司は手際よく巨大熊をアイテムボックスに収納すると、再び森の出口へ歩き出した。
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北門に戻ってみると、声をかけてくれた兵士が話しかけてきた。
「おい、依頼終わったのか?随分とはやいじゃないか」
「いやまぁ、薬草が運良くまとまって見つかったもので」
「おぉ、そいつは良かったじゃないか!てことは、これから冒険者になるんだな!」
「そうですねぇ、規定量は採取したので大丈夫のはずです」
我がことの様に喜んでくれる兵士に挨拶をし、慎司は冒険者ギルドに戻った。
そこでも、依頼達成を告げると驚かれたが、運良く見つかったと言えば、運も実力の内と納得してくれた。
「依頼達成、おめでとうございます。それでは、こちらが本当の冒険者のギルドメンバーカードとなります。説明は必要でしょうか?」
「お願いします」
してくれるなら、聞いておこう。と慎司は先を促す。
「このカードですが、冒険者としての実績やギルドへの貢献度、それと持ち主の名前とランクを表示します」
随分とすごい機能がついているようだ。魔力を流し込んで個人登録をするため、偽装はできないとのことだ。
「ランクについてですが、下からE、D、C、B
、A、AA、S、SSとなっています。駆け出しである貴方はEランクということですね。Aランク以上ともなれば、様々なサービスをギルドから受けることができます。これについてはAランク到達時にまた説明させていただきます」
「ランクは貢献度ってので上げるのですか?」
「はい。ギルドへの様々な貢献によりポイントを得ることが出来、必要なポイントを所持しており、尚且そのランクに適していると判断されればランクが上がります」
慎司は自分の考えが大方間違っていないことを確認しながら、魔物の討伐報酬について聞いてみた。
「討伐報酬ですが、魔物ごとに決められた部位を持参していただければ、規定の金額を支払わせていただきます」
「それじゃあゴブリンとウルフ、スライムの討伐部位を教えてもらえないでしょうか?」
「ゴブリンなら目玉、ウルフなら牙、スライムなら核が討伐部位となっております。もしかして今回の依頼で討伐された魔物がいるのですか?」
慎司は何も言っていないのに、受付の女性は魔物を討伐したことを見抜いてきた。長年の勘と言っていたが、20代前半にしか見えないため説得力はゼロである。
ちなみに、チートなことにアイテムボックスには解体機能がついており、既に討伐部位の剥ぎ取りは済んでいる。
「そうなんですよ、買い取ってもらっていいですかね?」
「少々お待ちください……」
女性が奥に引っ込んでから数分後、慎司の前には不可思議な箱が置かれていた。
受付の女性が言うには、この箱に討伐部位をいれると魔物毎にカウントしてくれるらしい。
少し前に導入された魔道具だそうだ。
「それじゃ、入れますね」
そして、慎司はゴブリン250体、ウルフ100匹、スライム150体の計400体もの魔物の討伐部位を魔道具にぶちまけた。
最初は驚いた顔をしていた女性も、100体を超えたあたりから顔を青くしてプルプルと震えていた。
「これで全部ですね、金額はどれくらいになるんですか?」
「は、はい!えーっと……ゴブリンが1体で銅貨1枚、ウルフが銅貨2枚、スライムが銅貨1枚ですので、えー……銅貨600枚となります」
女性は夢でも見ているかの様な表情で言葉を紡いでいる。慎司としては、そんなものか。というぐらいの感情しか湧かないのだが、おかしいのは誰がどう見ても慎司である。
「あ、ついでになんか馬鹿でかい熊も倒したんですけど、あれはどうなんですかね?」
「そ、それはもしかして……ファングベアーだったりしませんか?」
「……あ、はい。そうですそうです」
間が空いたのは、アイテムボックスで名前を確かめていたからである。討伐部位は名前にもある爪だ。
それを女性に手渡す。
「た、確かにファングベアーです……北の森の主のため1体で金貨1枚となっています。さらに別途で討伐依頼が出ているためさらに金貨2枚です……」
「おお!」
慎司はつい声をあげてしまった。ゴブリン等とあまり変わらず瞬殺したので、安いのかもしれないと思っていたのだ。思いがけずに大金が手に入り、ついつい口がにやける。
「そ、それでは報酬の金貨3枚と銀貨6枚となります……」
ちなみに、受付の女性は白目を剥いていた。
慎司は瞬殺しましたが、ファングベアーは実際ものすごく強いです。駆け出しの冒険者なら相手にならず瞬殺されてしまいます。
大金を手に入れた慎司ですが、彼はこれからどう行動していくのでしょうか。
次の話でやっとヒロインが登場する予定です。
※魔物の討伐数を修正しました