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59.洞窟を目指そう

短めです。

 

 慎司が6日ぶりにギルドに顔を出すと、依頼を漁っていた冒険者やロビーで寛いでいた冒険者、受付カウンターにいる受付嬢の視線が一斉に集まる。


「おい、あの男……見ない顔だな?」

「ばっかお前、あの人はSランクだぞ!?言葉に注意しろ死にたいのか!?」

「うぇ!?まじかよ。あぶねぇ」


 そんな話をするのは剣士らしき男性とローブをまとった男性。


「ちょっと!ギルドマスターにシンジさんが来たって伝えてきなさい!」

「はいっ!行ってきます!」

「アナタはどこかに行かないように引き留めるのよ、いい?」

「ええ、私ですか!?無理無理無理ですよぅ!」

「いいからやる!」


 なんだか騒々しいギルド内の様子に面食らった慎司の前に、栗色の毛並みが美しい兎耳の受付嬢が進み出てくる。


 兎耳の受付嬢は何故か怯えた様子で、耳はペタンと伏せられている。

 受付嬢の身長は慎司の胸あたりまでしかなく、そんな彼女がビクビクしながら慎司を見上げているという構図は、少々犯罪臭がする。


「えーっと……何か用ですか?」

「ひぅ!ごめんなさい、食べないでください!」

「あっれー……?」


 慎司はなるべく優しく声をかけたつもりだったが、受付嬢は目の前に手を突き出してパタパタと振る。

 その手は慎司と自分の間に壁を作るようかに見えるが、怖がられるようなことは一つもした覚えがない。


「シンジ様、一旦出直した方が……」

「ああ、そうだな。またにしよう」


 コルサリアの提案に慎司は頷く。

 何が理由かはわからないが目の前の受付嬢は慎司に怯えている。

 受付嬢を無視して通るのもいいが、何故か気が引けた。


 慎司がコルサリアとアルテマを連れてギルドを後にしようと振り返った瞬間、慎司の腰に何かが巻きついてきた。


「うおっ!?なんだ!」

「行かないでくださいぃ!待っててくださいお願いしますぅ!」

「はぁ?なんだこれどういうことだよ……」


 慎司の腰に巻き付けられたのは、受付嬢の細腕。色素の薄い色白な腕が腰に巻きついた慎司は、受付嬢を無理やり振りほどくこともできずにただただ困惑していた。


「あっ!……その、食べないでくださいぃ!」

「いや、食べないから」

「え!?食べないんですか!?」


 受付嬢は酷く驚いた表情を浮かべると、くりくりとした瞳を慎司に向ける。

 まるで言葉の真偽をはかるかの様に向けられた視線は慎司の体を眺め回し、何か確信を抱いたのか受付嬢は軽く頷く。


「嘘じゃないみたいです……」

「俺が人を食べるようにでも見えるのか?」

「で、でも……Sランクの黒髪の奴は獣人を食べるって聞いたので……」

「変な噂もあったもんだなぁ」


 受付嬢が聞いた噂は、騙されやすい性格の受付嬢を面白がった一部の冒険者によるものだったが、この時点で慎司がそれを知るわけもなく、ただため息をつくだけだ。


 しかし、ようやくまともな会話が成り立つ様になったので慎司は受付嬢に、何故立ち去るのを引き止めたのか聞いてみた。


「なんか先輩が引き止めとけって言われたので……」

「ふーん。なんか用事でもあるのかね?」

「シンジ様、そこで私を見られても困ります」


 慎司にはギルドからの用事等心当たりがない。

 やがて何度か頭をひねるうちに、慎司は指名依頼について思い出す。


「あーえっと、君は……」

「ポーラですよ」

「ポーラさんは、俺に指名依頼があるとか聞いてる?」


 そう慎司が尋ねるものの、ポーラは首を横に振るだけであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 それから少し経った頃、少しやつれた様子のカレントがやってきた。

 ギルドマスターであるカレントは、いつもの軽薄そうな印象とは違い、かなり憔悴しているように見える。


「えっと……どうしたんです?」

「おお、聞いてくれるかい!?」

「ギルマス、長くなるのでその話は省いてください」

「あ、うん。わかった……」


 カレントは慎司の質問に勢いよく喋り始めようとしたが、隣にいた女性に叱られ小さくなる。

 どうやらその女性も受付嬢の1人らしく、ポーラと同じデザインの制服を着ている。


「怒られちゃったから手短に言うね。シンジ君、君には一つ受けてもらいたい依頼がある」

「はぁ、指名依頼ってことですか?」

「うん、そうだね。ギルドからの指名依頼だ」


 慎司はなんとなくコルサリアの顔をチラリと窺う。すると、コルサリアもこちらを向いてきてバッチリ目が合ってしまった。


「シンジ様、取り敢えずお話だけでも聞くのはどうでしょうか?」

「うーん、そうだなぁ……カレントさん、依頼は内容次第で受けるか受けないかを決めます」

「えー、まぁ、いいよ。それで」


 少し面倒くさそうな顔をカレントはするが、渋々と依頼内容を説明し出す。


 カレントが言うには依頼内容はある洞窟の調査だ。この洞窟は最近奥から変な声が聞こえるようになったらしく、原因を突き止めて欲しいとの事だった。


「あの、これぐらいなら俺じゃなくてもいいんじゃないですか?」


 慎司はカレントにそう言うが、カレントは首を横に振る。

 その様子はポーラとまったく同じ動作なのに、ポーラの方が何十倍も可愛かった。


「いや、単なる洞窟の調査ならそうなんだけどね。前に調査に向かったAランクパーティーがボロボロになって帰ってきたんだよ」

「Aランクパーティーが!?」


 慎司はSランク冒険者だが、それは上級魔族を1人で倒せるという化物じみた力を持っているからであり、冒険者の中のトップと言えばAランクがそうだ。


 その冒険者のトップ集団のパーティーが、単なる洞窟の調査でボロボロになって逃げ帰ってきたとは考えられない。

 恐らく、洞窟内には強力な魔物か何かがいるのだと推測される。


「そこで、Sランクのシンジ君の出番なわけだ。調査自体は1日で終わると思うよ 」

「はぁ、別に調査に行くのは構わないんですけどね。今はコルサリアが一緒にいるんですよ危険そうならすぐに帰ってきますよ?」

「うん、それで構わないよ。あくまで調査が目的だからね」


 カレントは相も変わらず道化師のように笑う。その掴みどころのない笑い方がコルサリアは苦手だった。

 無意識に握られた袖を見ると、慎司はコルサリアの手を握ってやる。


「それじゃ、調査とやらに行ってきますよ。あまり期待はしないでくださいね」

「ああ、楽しみに待ってるよ」


 慎司はそう言うと、コルサリアと手をつないだままギルドを出るのだった。

※誤字を修正しました

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