表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/163

54.騎士団

 

 魔物討伐訓練が終わり、その日は賞状と報奨を渡された後はすぐに解散となった。

 慎司はアレン達に別れを告げて、昼過ぎの王都を歩いていく。


「よぉ、そこのお兄さん。奴隷に興味はないかい?」

「間に合ってるんでな」


 王都では、様々な人が多種多様の商売をしている。今声をかけてきた様な奴隷商人もいれば、野菜を売る者や肉を売る者もいる。


 売られているのが人か野菜か肉かの違いであるだけで、どの商売もなかなかに繁盛しているようだ。


 道を歩けば商人や冒険者、さらに貴族も見かける。

 慎司は人混みにうんざりしながら大通りを歩いていく。


「なんでこんなに人が多いんだよ……」

『シンジ、恐らくあれが原因なのではないでしょうか?』


 群衆に愚痴をこぼすと、いつの間にかアルテマが実体化して騎士団の詰所がある方向を指さしている。


「うぉ、アルテマ……実体化するなら言ってくれよ」

「……申し訳ありません、シンジ」

「まぁみんな俺らの事を見てないみたいだからいいけどな」


 アルテマが実体化するのにかかる時間は一瞬で、少し光の粒子が零れるものの、注意を引くほどではない。

 だが、誰もいなかった空間に突然ゴスロリ風の衣装をまとった少女が現れれば、不思議に思われること間違いなしだ。


「どうせ詰所には行くつもりだったからな、見に行くか」

「わかりました。では──」


 歩きだそうとした慎司の目の前に、アルテマの小さな手が差し出される。

 慎司の胸のあたりまでしかない小柄なアルテマは、空色の瞳でこちらを覗き込んでくる。


「……なに?」

「……手を繋いでください、シンジ。私ではこの人混みの中を進むのは難しいです」

「あ、なるほど」


 アルテマの言う通り、確かに人混みの中を歩くのに、小柄な体は不便だろう。

 最悪の場合、人波に攫われてしまう可能性もある。


 慎司はアルテマの手を取ると、壊れ物でも扱うが如く優しく絡める。


「これでいいか?」

「はい、それでは行きましょう」


 2人は徐々に密度の増す人混みの中を歩いていった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「うおおおお!ルナちゃぁぁん!」

「いいぞ!やれ!」

「男のくせに逃げてんじゃねぇぞ!」

「行けルナちゃん!今日の酒代がかかってるんだ!」


 人混みを掻き分けながら進んだ先では、騎士団の男とルナが戦っていた。

 その周りを取り囲むようにしてラフな格好をした騎士団員と、一部の王都の冒険者がヤジを飛ばし、観戦していた。


「アルテマ、これなんだと思う?」

「恐らくはただの模擬戦でしょう。賭博の方は勝手にやってるだけにすぎません」

「なるほどなるほど、ちょっとルナの相手を見てみるか」


 ルナの相手をしている、若い騎士団員を慎司は《鑑定》で見てみる。


 《エルネスト・ストレイン:人族》

 Lv.58

 HP:850/2300

 MP:1200/1500


 STR:420

 VIT:400

 DEX:370

 INT:200

 AGI:350


「ふむふむ。レベル58かぁ……ルナにはちょっとキツイか?」

「いえ、シンジ。よく見てください。優勢なのはルナの方ですよ」


 エルネストのレベルを見て慎司はルナが不利だと思ったが、実際にはルナがエルネストを翻弄している。


 エルネストが幅広の大剣を使っているのに対して、ルナは短剣を使っている。

 筋肉質なエルネストの大剣の一撃を、ルナの短剣では受けることができないであろう。


 それを分かっているのか、エルネストは大剣のリーチを活かしてルナを寄せ付けないように立ち回っている。


 しかし、ルナは大剣が通る場所が見えているかの様にして大剣の一撃を避け、エルネストに攻撃を繰り返している。

 上段からの振り下ろしを体を捻るだけで避け、横薙ぎの一撃を地面スレスレまで体を沈めてくぐり抜ける。


「くそっ!……スラッシュ!」


 攻撃を全て回避されることに苛立つエルネストは、大剣術スキル《スラッシュ》を発動させる。

 《スラッシュ》は横一閃の切り払いだが、その速度は普通に剣を振るうよりも格段に速い。


 高速で振るわれたエルネストの大剣がルナの体を捉えたと思われたその瞬間、ルナの体が掻き消えた。


「影渡り!」


 ルナが発動させたのは短剣術スキル《影渡り》。相手の影に一瞬で移動するこのスキルは、その強力な効果故に制限がある。

 一つは相手と3メートル以内の距離にいること。もう一つは影を認識していること。つまり、夜間では発動しにくいのだ。


「出た!影渡り!」

「決めろぉ!」

「やっちまえ!俺の酒代のためにも!」


 取り囲む群衆は、決定打に繋がるルナの《影渡り》に大騒ぎだ。

 ルナも期待に応えるように、でエルネストの影に移動し、その背後に飛び出した。


「スタンエッジ!」

「ぐぁっ!!」


 《スラッシュ》で大剣を振り払った直後では、ルナの素早い動きについていくことができず、エルネストはルナの《スタンエッジ》を受けてしまう。


 あまりダメージが無いように見えるが、《スタンエッジ》の効果でエルネストは体の自由が効かなくなっており、ルナがその首元に短剣を突きつけると、審判役をしていた騎士団員が大きく叫んだ。


「戦闘終了、勝者ルナ!」


 審判役の声に、沸き立つ観客。

 口々にルナを賞賛する声を投げかけ、エルネストには健闘をたたえる声が届けられた。


 それを、ルナは照れくさそうにして、エルネストは悔しそうに歯噛みしながら受け取っていた。


「ルナ、あんなに強かったか?てかなんだあのスキル」

「情報なら送ったはずですが?」

「あー、いつの間にルナがあんなスキルを使えるようになったのかなって思ったんだよ」


 戦闘に関する事なら、基本的にアルテマが知識を教えてくれる。それも一瞬で。


 慎司が気になったのは、いつの間に短剣術スキルを使いこなすようになったのかだ。


 今度はルナを鑑定してみる。


 《ルナ:金狐族》

 Lv.85

 HP2500/2500

 MP650/1450


 STR:500

 VIT:350

 DEX:450

 INT:280

 AGI:600


「レベルめっちゃ上がってるんだけど。ねぇどうなってんのこれ?」

「恐らく慎司のスキルの効果ではないでしょうか?」

「そんなスキルあったっけな……?」


 慎司は自分のスキルを調べていき、やがて一つのスキルに思い至る。


 《教育》

 自分の下につく者に成長ボーナスを与える。


「このスキルの効果か……にしても、強くなりすぎだろ」

「それはひとえにルナの努力の賜物でしょう」

「だな。頑張ってるみたいでなによりだ」


 エルネストを圧倒したルナは、耳をピクピクとさせると、辺りの匂いを嗅ぎ出した。


「何してんだあれ?」

「さぁ、なんでしょう?」


 突然の行動に慎司とアルテマが困惑していると、ルナはこちらに顔を向ける。

 そして、慎司の姿を見つけると尻尾をぶんぶんと振り回しながら駆け寄ってきた。


「ご主人様!どうしてここに?学校は終わったのですか?」

「ああ、今日はもう解散だとよ。模擬戦見てたぞ。随分強くなったんだな、ルナは」

「いえ……まだまだです。未だに教官には勝てません」


 自分の実力に驕らず、謙虚な態度を見せるルナの頭を慎司は撫でてやる。

 すると、模擬戦で見せていたような鋭い表情は蕩け、ただ甘えるような視線を慎司に向けるようになる。


「ルナは頭を撫でられるのが好きなんだな」

「……はいっ、ご主人様の手は大きくてとっても気持ちいいんです……!」

「ふーん、そんなものか。良くわかんねぇな」

「ルナはよく分かっているようですね」

「何がわかってるって?」


 傍にいるアルテマがルナの言葉に頷いていたが、抜けていた主語について問いかけても、何でもないと答えるのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 折角なので、慎司はいつもの騎士団の訓練の風景を見せてもらうことにした。

 ルナが教官と呼ぶ人物に色んな場所に連れていかれて、訓練の内容についての説明や、誰が秀でているか等を教えられる。


 教えてもらった中でも、騎士団の部隊編成と各部隊長についての情報はとても有益であった。


 騎士団は全部で10の部隊で編成されている。

 第一部隊の隊長は、以前にも聞いていたがハーヴェン・ハウンドが務めている。

 第一部隊は基本的に魔物の討伐や、盗賊の退治などが主な仕事のようであり、かなり重要な役割を担っているらしい。


 第二部隊の隊長はジルベール・クルシオン。

 第三部隊の隊長はシプリアン・ブリッツ。

 この二つの部隊は、王族の護衛や他国の重要人物の護衛を仕事としているらしい。


 第四から第八部隊までの五部隊は、街の警備を担当しているらしく、五部隊をまとめる隊長は、ジスレア・オルタンスという女性だ。


 女性の騎士団員は珍しく、全体の3割程度らしい。

 その中で、五部隊をまとめる隊長に就任しているジスレアはかなりの実力者なのだろう。


 第九部隊の隊長はクラソロ・レフスキー。

 諜報活動に対する粛清や、スラム街の管理をしているらしい。


 第十部隊の隊長はホルガング・ターナルト。

 騎士団の食料関係や住居に関する仕事を一手に引き受ける部隊らしい。

 その信頼は厚く、すべての部隊がお世話になっているんだとか。


 騎士団はかなり大きな組織らしく、ルガランズ王国でも屈指の実力者揃いのようだ。


 そんな猛者たちの訓練についていっているのだから、それなりにルナも強くなるのもわかる。


「そういえばシンジさんだったか。貴方はルナよりも格段にお強いのだとか」

「え、嫌だなぁ……そんなに強くないですよ?」

「謙遜なさるな。Sランク冒険者が弱いわけがないだろう」


 バレている。

 教官は物腰こそ柔らかいが、その目はかなり鋭い。

 慎司は慌てて教官のステータスを鑑定してみる。


 《ディラン・クリューエル:人族》

 Lv.200

 HP5000/5000

 MP4500/4500


 STR:800

 VIT:500

 DEX:750

 INT:600

 AGI:870


 ディランのレベルは200とかなり高レベルである。力と素早さが特に突出しており、正直慎司は戦いたくない。


 だが、どうもディランの方は戦いたいと思っているらしく、露骨に模擬戦に話を持っていこうとする。


「た、たまたま魔族を倒せただけの新人ですよ」

「魔族はたまたまで倒せるほど弱くはないのですよ?やはり貴方は強い」

「い、いやぁ……」


 ディランは渋る慎司にめげずに話しかけてくる。

 やがて、ディランの話を断るのが面倒になってきてしまい、遂に受けてしまおうかと思い始めた頃。


 黙っていたアルテマが慎司とディランの間に割って入り、感情を映さない瞳でディランを見上げる。


「なんだね、嬢ちゃん。今はそこのシンジさんと話をしているのだが……」

「貴方ではシンジに勝てません」

「なっ、何を言うかと思えば……これでも私はかなりの実力があると自負している。魔族の討伐なら私だって経験しているんだ。それでも負けると?」


 無礼極まりないアルテマの言葉にディランはプライドを傷つけられたのか、苛立ち混じりに返答する。


「はい、貴方は負けます。恐らく私にすら勝てません」

「ははっ、面白いジョークだね。私が君に負けると?有り得ないだろう、ふざけるのも大概にしてくれ」


 売り言葉に買い言葉。

 ディランは少女にしか見えないアルテマに挑発されて、つい強い言葉を選んでしまう。


「ふざけて等いませんが。……そうですね、試してみますか?」

「なに……?」

「貴方が私に勝てたのなら、シンジに手が届くかも知れませんね。まぁ、勝てないでしょうが」

「ふん、いいだろう。その挑発に乗せられてあげよう」


 アルテマは淡々と言葉を並べるが、対するディランは怒りから言葉の端々が刺々しい。


 ついにディランはアルテマの誘いに乗ってしまい、模擬戦を行うことになる。

 慎司としては、かなり不安である。


 アルテマは魔剣であり、本来は戦う能力などないだろう。

 ランカンでの魔物の大氾濫の時に見た魔弾も、恐らく通じないだろう。


 それなのにアルテマはディランを挑発した。何か勝算でもあるのだろうか。


「おい、アルテマ……お前、戦えるのか?」

「愚問ですね、シンジ。私を誰だと思っているのですか?」

「勝てる、んだよな?」

「そうですね、丁度いいですし私の単独戦闘能力をお見せしましょう」


 アルテマは無感情に言い放つと、ディランに向かって歩き出す。


「さて、ディラン……でしたか。戦闘のできる場所に案内してください」

「ああ、ついてこい」


 ディランは苛立ちを隠しもせずにぶっきらぼうに言うと、歩き出す。

 アルテマもそれについて行ったため、慎司は不安に思いながらも慌てて後を追うしか無いのだった。

実は戦えるらしいアルテマさん。


※ルナのスキル《影縫い》を《影渡り》に修正しました。

※ジスレアの受け持つ部隊数を四から五へ変更しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ