49.魔物討伐訓練②
魔物討伐訓練が始まるなり、周りの生徒は一斉に動き出す。
勿論慎司達も例外ではなく、森の中へと足を踏み入れる。
「さて、始まったわけだが……」
「魔物を倒すための作戦をまずは立てよう」
歩きながら、アレンとガレアスがそう提案してくる。
それにリプルとエリーゼも賛同し、まずはこの森に出没する可能性のある魔物の確認からしていく。
少し歩いた所にある木の影に座り、5人は作戦会議を始めた。
「この森に出没する魔物は、ゴブリン、ハウンドウルフ、ショックスパイダーの三種類で合ってるよな?」
「ええ、そうですわね。中でも危険なのは麻痺毒を持つショックスパイダーですわ」
アレンの言葉をエリーゼが補足する。
「ゴブリンは足が遅いし、攻撃も単調だ。特に問題はないだろうな」
「問題があるとすれば、ハウンドウルフとショックスパイダーですね……」
ガレアスとリプルが神妙な顔つきで唸る。
冒険者としてSランクの慎司からすれば、ゴブリンもショックスパイダーもあまり変わらないのだが、これが初めての実戦となる4人はハウンドウルフすらキツイだろう。
ゴブリンは足が遅く、攻撃方法は単調な棍棒の振り下ろしや力任せのパンチだ。
これぐらいなら誰かが注意を引きつけて、魔法の一撃で倒せるだろう。
次にハウンドウルフ。
この魔物はとても素早く、更に基本的には3体程で群れている。
攻撃方法は強靭な顎から繰り出される噛み付き攻撃。
1匹ずつ、確実に仕留めることが出来なければこちらが不利だろう。
最後にショックスパイダー。
ハウンドウルフ程素早くはないが、吐き出す糸での攻撃や、麻痺毒等、厄介な攻撃を仕掛けてくる。
火属性が弱点ではあるが、戦うのは得策ではないだろう。
「よし、作戦を立てるぞ。まずゴブリンだが、こいつは誰かひとりが適当に注意を引きつけて、その間に他のメンバーが攻撃だ。そして、ハウンドウルフは、なるべく1匹ずつ狙い撃ちにして連携を取らせないように戦おう」
みんなから出される案を聞いていき、アレンが作戦を立てていく。
慎司は何か穴があれば指摘するつもりではあったが、今のところはセオリー通りの作戦だ。
「そんでショックスパイダーだけど、不意打ちできるなら戦おう。けれど遭遇戦なんかになったなら迷わず撤退だ。麻痺毒が危険すぎる」
「ショックスパイダーも頑張れば倒せるんじゃないか?」
ショックスパイダーについての作戦をアレンが皆に伝えると、ガレアスが異議を申し立てる。
「確かに倒せるだろう。でも、それで疲弊したところを他の魔物に狙われたらひとたまりもないからな。余力を残せる戦い以外は挑むべきじゃない……と思う」
「ふむ、確かにそうだな。すまん」
「いや、分かってくれればいいんだよ」
2人のやり取りを聞いて、慎司は軽い驚きを覚えていた。
どちらかと言えば、アレンの方が魔物に積極的な言動を取り、それをガレアスが抑える様に思っていたのだ。
しかし、実際はガレアスの積極的な言葉に対してアレンが慎重論を唱えていた。
どうやらアレンは魔物との戦い1つよりも、もっと先を見据えて作戦を立てれているようだ。
「ねぇアレン、もし撤退するとなったらどうやって逃げるつもりなんですの?」
エリーゼの言葉に、アレンは腰につけたポーチを軽く叩いてみせる。
「煙幕を用意してある。3つしかないけど、これなら十分逃げれるはずだ」
「あら、用意がいいですのね」
「まぁ、必要になるかと思ってな」
そう言うとアレンは立ち上がると、拳を打ち付けて気合を入れる。
「よし、そろそろ魔物をぶっ倒しに行こうぜ!」
「ああ、そうだな。やってやろう」
「他の班には負けたくありませんですしね」
「が、頑張ります!」
「さて、頑張りますか……」
アレンに続き、ガレアス、エリーゼ、リプルが立ち上がり、最後に慎司が軽く肩を回しながら立ち上がる。
5人は魔物を討伐すべく森を進み出すのだった。
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森を歩き出して5分程経つと、先頭を歩いていたアレンが動きを止めた。
「どうした?」
「前方にゴブリンだ、数は……1体」
ガレアスが聞くと、アレンは声を潜めて森の奥を指さす。
慎司は既に魔力感知で探り当てていたのだが、すぐに教えてしまっては訓練にならない。
索敵はとても大事な事だ。
これを怠ってしまうのは良くないだろうという慎司の配慮だ。
「どうしますの?相手は気づいていないみたいですわよ」
「奇襲、ですか?」
エリーゼとリプルが奇襲をするようにアレンに言う。
アレンもそう思っていたようで、それに頷き、詠唱を始める。
アレンが選択したのは《ファイアボール》。
ガレアスは《ストーンエッジ》、エリーゼは《エアブリッツ》、リプルは《ウォーターショット》を選択した。
まずゴブリンのがら空きの背中に火球が直撃し、その後に石の礫が頭を打ち付け、圧縮された空気の弾丸がゴブリンの右手を穿ち、最後に水の塊が振り返りかけた横顔に直撃した。
「グギャァァァ!」
4つの魔法をぶつけられたゴブリンは大きく苦悶の声をあげると、ゆっくりと倒れていき、そのまま動かなくなった。
「……まずは1体、だな」
慎司がそう呟くと、4人は見るからに脱力する。初めての実戦ということもあり、かなり緊張していたのだろう。
「それじゃ、討伐部位を剥ぎ取ろう」
「それは俺がやろう、みんなは警戒を頼む」
慎司は自分に任せろと言い、腰からナイフを引き抜く。
ゴブリンの討伐部位は目玉だ。
慣れた手つきで目玉をくり抜き、アイテムボックスの中に収納する。
「よし、終わったぞ」
慎司がそう言うと4人は警戒を解き、再び魔物を探して歩き出すのだった。
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ゴブリンを倒したので、幾らか成長しているのではないだろうか。
慎司ではなく、アレン達の話ではあるが。
そう思い、慎司はアレン達に鑑定を使ってみた。
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《アレン:人間》
Lv.15
《ガレアス:人間》
Lv.14
《エリーゼ:人間》
Lv.17
《リプル:人間》
Lv.12
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ステータスについては今は重要ではないので覗いていない。
レベルだが、意外にも1番高いのはエリーゼであった。
逆に1番低いのはリプル。
それでも12はあるのだが、果たしてそれが高いのかどうかはわからない。
『シンジ、駆け出しの冒険者という者は基本的にはレベルは5程度です』
「なら結構高いんだな」
『はい、しかし冒険者とは違ってレベルが高くても状況判断能力が劣るのでしょう』
「レベルが全てってわけじゃないしな」
レベルの目安をアルテマが教えてくれる。
どうやらアレン達は駆け出し冒険者よりは力だけならあるようだ。
「さて、どんどん狩っていこうか」
慎司はそう呟くと、ニヤリと笑うのだった。
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最初のゴブリンを倒してから1時間。
5人はアレンの立てた作戦通りに動き、無理のない狩りを続けた結果、15体のゴブリンを倒していた。
「いやー、順調だなぁ。これならハウンドウルフでも大丈夫かもな?」
「おいアレン……最初の慎重さはどこいった……」
ゴブリンを15体も倒すことによって気を大きくしたのか、アレンが気楽そうに言う。
慎司はその様子に少し心配になるが、初めての実戦でかなり調子よく魔物を討伐できたのだから、調子に乗るのも仕方が無いだろう。
「アレン、慎重さに欠けるのは良くないのではなくて?」
「大丈夫、わかってるよ。これからも方針は変えない。基本的にはゴブリンで数を稼ぐぞ!」
「は、はいっ!」
アレンは元気に声を出しているが、リプルだけが少し疲れているように見える。
「……?」
魔物討伐訓練はまだ始まって間もない。
できれば誰かが怪我をしたりしないようにと、慎司は願うのだった。




