41.魔剣に注意
少し短いです。
エリーゼとの模擬戦が終わり、今は観戦をするだけとなった慎司は、1人考え事をしていた。
「我が手に集え、炎の力!」
模擬戦では今も魔法を詠唱し、それを相手にぶつけるべく狙いを定めている。
生徒が放ったのはファイアボール。
それもかなり小さいもので、ソフトボールぐらいの大きさだ。
「やっぱ不味いかな……」
慎司は無詠唱で魔法が使えるし、むしろ詠唱をしろと言われても詠唱を覚えていないので、できない。
魔法の威力も一般の生徒に比べれば雲泥の差がある。
慎司は別に目立ちたいがために魔法学校に入学した訳では無い。
無詠唱は仕方ないとして、魔法の威力については極力抑えていこうと思う慎司だった。
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「あらシンジ、ここにいましたの?」
「ん?……エリーゼか、なにか用か?」
「特に用はありませんけど、何か用が無ければ話しかけてはいけないですの?」
模擬戦をぼんやりと見ていた慎司に、エリーゼが声を掛けてきた。
慎司との模擬戦で汚れがついた制服は、生活魔法で綺麗になっている。
「いや、そうじゃないけど……」
「ふふ、意地が悪い言い方でしたわね。それより、シンジに聞きたいことがあったんですの」
「なんだ?」
「……そのですね」
エリーゼは、慎司から視線を外して自前のブロンドを指でくるくると巻きながら言いにくそうにしている。
少しして、エリーゼはこちらを見ると、
「どうやって私の魔法を打ち消したんですの?……冒険者は情報を隠すのが当たり前なのは知っていますけど、どうしても気になるんですの」
と言ってきた。
慎司としては非常に答えにくい質問である。
魔法を打ち消したのではなく、アルテマで吸収した訳だが、それを正直に言ってしまうと魔剣の存在が露呈してしまう。
魔剣を持っているとルナが知った瞬間、ルナは小躍りを決め込んでいたため、恐らく普通の冒険者は魔剣なんて持っていないのだろう。
「あー、それはだな。えっと」
取り敢えず慎司は誤魔化すことにする。
「スキル、みたいな?能力的な?そんな感じだよ」
「スキル……?よく分かりませんが、隠しておきたいことなのですね、それならこれ以上は聞きませんわ」
慎司はその言葉に衝撃を覚える。
エリーゼは、スキルを知らないような口ぶりだったのだ。
慎司には様々な恩恵のスキルがある。
例えば《剣術》スキル。
いつもお世話になっているこのスキルは、剣を使う戦闘のノウハウを知らなくても、知っているように体が動く。
最大レベルともなると、達人に迫るほどだ。
魔法系であれば《並列思考》スキル。
これは1度に出来ることが増えるだけでなく、魔法であればその複製ができる。
つまり、ファイアボールを何個も複製して50個作り出したり、フレイムランスをずらりと並べることも可能である。
慎司はスキルについてエリーゼに聞いてみる。
「エリーゼ、スキルって知ってる?」
「流石に知ってますわよ。ただ、覚えるのはとても難しいらしいですわね。剣術とかならある程度までは努力すれば習得できるそうですけれど」
「ふ、ふーん……そうか」
スキルを知らないのではなく、単に慎司の口振りに疑問を抱いただけのようだ。
前に森で依頼を受けた時に、ルナが専攻職について聞いてきたこともあった。
それならば、スキルについても知っていて当然と言われれば確かにそうだろう。
「あ、そろそろ模擬戦も終わりですわね。これが最後の1組ですわ」
慎司が1人で勝手に納得していると、エリーゼがそう言ってきた。
見れば、中央で最後の1組の男子生徒2人が視線を激しくぶつけあっている。
戦闘前からそんな様子の2人は、始まった瞬間、激しい攻防を繰り広げた。
「そこまで!」
どうやら決着がついたようだ。
決め手は最後に放たれたファイアボール。
それまでに幾度も魔法を飛び交わせていた2人は、結局魔力量の差で勝負が決まった。
「シンジ、リプル達と合流して戻りましょう」
「おう、わかった」
エリーゼはそう言うと慎司の前を歩き出す。
前を歩くエリーゼのブロンドの髪の毛が左右に揺れる。
黙っているのも変かと思い、慎司はエリーゼに話しかける。
「エリーゼの髪の毛って、綺麗だよな」
「きゅ、急になんですの!?」
「いや、なんとなく思っただけだが?」
慎司からすれば思ったことを口にしただけなのだが、エリーゼは顔を赤くしている。
エリーゼの髪の毛は、歩いている廊下を照らす照明の光を受けて、キラキラと輝いている。
エリーゼは背中の中程まで届いている髪の毛をゆったりと下ろしているため、慎司の目の前でゆらゆらと揺れるのだ。
「そうですの……でも今言うことですの?」
「まぁ、話のネタになればいいなと」
「男性のシンジが髪の毛について何か語れるんですの?」
「……それもそうか」
確かにエリーゼの言う通りなのだ。
慎司は別に女性について詳しく話せるわけでも無ければ、そこから話を発展させる程話が上手い訳でもない。
「いやぁ、一緒に歩いてて会話が無いのはどうかと思ってな」
「……それもそうですわね」
「だろ?」
そんな、どうでもいい会話をしていると、リプルの背中が見えてくる。
「あら、リプル1人ですの?アレン達はどこに?」
「あ、エリーゼちゃんにシンジ君。アレン君ならあっちにいるよ」
リプルは廊下をもう少し進んだ場所を指さす。そこにはアレンと共にガレアスもいた。
「アレン、ガレアス。一緒に戻ろうぜ」
「おう、いいぜ」
「シンジか、そう言えば聞きたいことがあったんだが……」
「あー、そういうのは後にしようぜ?早くしねぇと先生に怒られちまう」
慎司がアレン達に話しかけると、ガレアスが質問をしようとするが、後ろから歩いてくる教員を目ざとく見つけたアレンが先を急ぐように促す。
「さて、さっさと戻るとするか」
「怒られるのはごめんだからな」
「む、後でちゃんと質問には答えてもら──」
「ガレアス、いいから早く行くぞ!」
「……わかった」
渋るガレアスの背中をぐいぐいと押し、途中でエリーゼ達と合流して5人は教室へと戻る。
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今日の午後の授業は模擬戦で終わりらしく、教室に戻った慎司達は先生の話を聞くことになる。
「さて、今日の模擬戦だが。……クロキ、お前がフロストの魔法を打ち消した技。あれは一体どうやったんだ?」
先生からの模擬戦の評価の途中、慎司に対して質問をしてきた先生は、純粋に魔法を消した原理が知りたいだけらしく、澄んだ目でこちらを見てくる。
────さぁ、どうするべきか。
「アルテマ、魔剣を持ってるって言っても平気だと思うか?」
『この世界において、魔剣というのは非常に稀少な物です。Sランクの冒険者でさえ、持つ者は少ないです。魔剣を持っていると言えば周囲から畏敬の目を向けられると同時に、魔剣を狙われる可能性も浮上します』
「つまり?」
『オススメしません』
慎司は咄嗟にアルテマと相談するが、慎司の至った結論とほぼ同じ回答が返ってくる。
そこで慎司はエリーゼに言ったのと同じで、スキルの効果ということにする。
「あー、それはですね。とあるスキルの効果ですよ。詳しくは話せないですけどね」
「そこをなんとか……と言いたいが冒険者なら切り札は隠したいものか。しかし……」
魔剣の効果をスキルに置き換えただけで、別に嘘を言ってる訳では無い。
魔剣について知られると面倒事を抱え込むことになる様なので、これぐらいで勘弁して欲しい。
まだ少し悩んでいた先生ではあったが、慎司についてそれ以上質問することはなく、模擬戦の評価、講評を進めていった。
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午後の授業も終わり、今日の所は終わりとなる。
「それじゃ、また明日な」
「ええ、また明日」
「じゃーなー」
「その、シンジ君。また明日……」
「シンジ、質問に答えてくれるのではなかっ──」
別れの挨拶をすれば、エリーゼ、アレン、リプルが返事を返してくれる。
ガレアスが何か言っていたが、気にせず帰ることにする。
別れていた時間は長くはないが、早く帰ってルナ達と過ごしたい気持ちが湧き上がる。
「さて、まずは騎士団の詰所に行かないとな」
ルナが騎士団の所で訓練を受けているはずなので、まずはルナを迎えに行かなければならない。
慎司は普段より早足で帰り道を歩くのだった。




