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40.美味しいご飯

 

「姫!お待ちください!そこは段差があるから危ないですっ!」


 家の中にグランの焦った声が木霊する。


 姫とは、アリスのことである。


 主である慎司の娘ならば、それは姫だろうと、グランはそう呼んでいる。

 ステルもそれにならい、アリスを姫と呼んでいる。


「グランは心配しすぎなのー」

「しかし姫、万が一があるとなれば……って話の途中でどこかへ行かないでください!」

「グランの話長いもーん」

「ああっ、姫!」


 好奇心旺盛のアリスは、先日買ったばかりの家に興味津々だ。

 広いリビングを活発に動き回り、キッチンやトイレにまで足を向ける。


 アリスの護衛を命じられているグランやステルは、気が気じゃない。


 キッチンは火を使う場所だ。小さなアリスが誤って作動させることは、事故につながる。

 できれば近づけたくない。


 ────が、そんなことお構い無しにアリスは動き回る。

 気が向いた方へ、ふらふらと歩いていくのだ。


 グランは何度も注意をしようとするのだが、その度にアリスは逃げ出してしまう。


 何故逃げたり、困らせるような行動をとるのか?


 コルサリアには、その理由がなんとなくだが、わかっていた。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「グランー、パパはー?」

「主は現在魔法学校へ行っております。戻るのはもう少し後かと……」

「そっかー、わかった」


 昼前、アリスからの質問にグランは淀みなく答えていく。

 朝はあれだけ動いていたアリスも、家中を見て回ったためか、今は大人しい。


 グランはそわそわとしているアリスに声をかける。


「姫、どうかしましたか?」

「パパ、早く帰ってこないかなーって」

「我も早く主に帰ってきてもらいたいものです」


 アリスは、早く慎司に会いたい為。

 グランは、アリスが動き回らなくなる為。


 それぞれが違う理由で慎司の帰宅を待ち望んでいるのだった。


「アリスー、ちょっと手伝ってー!」

「わかった!」


 コルサリアが、キッチンからアリスを呼ぶ。

 彼女は、現在昼前ということもあり、昼食を作っている最中だ。


 作っているものはオムライス。

 慎司は最初オムライスがあることに驚きを示したが、すぐに表情を戻していた。


「コル姉、何すればいい?」

「アリスは味見をしてね。ちゃんとできてるかどうか、確かめないとだからね」

「ん、任せて!」


 コルサリアがアリスに味見を頼むと言うと、アリスは腰に両手をあててふんぞり返る。

 ふんす、と鼻息が聞こえるぐらいだ。

 とても可愛らしい。


「はい、どうかな?」


 コルサリアが、出来上がったオムライスを1口アリスに食べさせる。

 すると、アリスは小さな口いっぱいにオムライスを頬張り、頬に手を当てる。


「ん〜、おいしい!さすがコル姉!」

「それはよかった。じゃあ準備するからもう少し待っててね」

「あ、まって!コル姉!」


 コルサリアがそう言い、調理に戻ろうとすると、それをアリスが止めた。


「どうしたの?」

「グランとステルにも味見させてあげるの!」

「……ふふ、そうね」


 アリスはあっという間にキッチンから駆け出していき、リビングにいたグランを引っ張ってくる。


「ひ、姫?どうされたのですか?」

「いーから、来て!」

「はぁ、姫がそう仰るなら……」


 グランはアリスに引っ張られ、キッチンまでやって来る。

 アリスはステルも呼ぶと言っていたが、ステルの姿は見えない。


「あらアリス、ステルさんは?」

「え?いるよ。ステルー」


 コルサリアが不思議に思ってアリスに聞くと、アリスは虚空を見つめてステルの名を呼ぶ。


 すると、どこからともなくステルが現れた。


「流石姫、俺の隠形を見破るとは……」

「なんとなくわかる!」

「なんだと……グラン、俺はもしや隠れきれていないのか?」

「多分分かるのは姫ぐらいじゃないのか?……いや、主も分かるだろうな」


 少し自信を無くした様子のステル。

 それを慰めようとするグラン。


 そんな2人の前に両手でスプーンを持ったアリスが立つ。


「はい!食べてみて!」


 グランは甲冑を、ステルは巻いていた布を取り、コルサリア特製のオムライスを口に入れる。


「む!これは……」

「美味い……!」


 電撃が走ったかの様な感覚。

 オムライスを食べた瞬間、2人の口には芳醇な卵の香りがふわりと広がり、中に包まれたライスが新たな味を提供する。


 高級店にも負けないその味に、2人は驚愕していた。


「ねー?おいしいでしょー?コル姉、凄いんだから!」

「これは、ほんとに凄いですな、姫」

「ここまで美味いもの、初めて食べた……」


 あまりの反応に、コルサリアは苦笑している。

 ここまで褒められると思っていなかったのだ。


「えっと、取り敢えずグランさんとステルさんは食器を並べてください」

「承知した!」

「任せろ!」

「アリスも何かやるー!」


 グランとステルは物凄い勢いで昼食の準備を進めていく。

 アリスも何かしたいと言うので、グランと一緒にスプーンやフォークを並べてもらう。


 ただ、コルサリアは1人思う。


 ────いつになったら鎧とか脱ぐのだろう?


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 結局、グランとステルは昼食時には鎧や防具を脱いだ。

 脱いだというよりは、鎧や防具が光の粒子となって消えたという方が正しいだろうか。


 コルサリアがそれについて聞いてみると、魔力で形成しているため消したり着用するのは一瞬でできる、との事だ。


「おいしい〜」

「姫、急いで食べなくてもオムライスは逃げませんぞ?」

「はむ、んぐ!がつがつ……」

「ステルは急いでるよ?」

「姫!見てはいけません!あぁ、真似してもダメです!」


 昼食途中、あまりの美味しさにがっつくステルをアリスが真似して食べ始め、それをグランが焦って止める等といったハプニングはあったものの、概ね平和な時間が過ぎていった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「もうおなかいっぱい……」

「む、姫。寝るなら寝室へ行きましょう!」

「んー、むにゃ……」


 昼食を食べ終わると、アリスが眠気を訴えてくる。

 朝にあれだけ動いたのだから、眠くなるのも必然なのか。はたまた、お腹が膨れて眠気に襲われただけなのか。


 グランには分からなかったが、取り敢えずどうしたものかとコルサリアを仰ぎみる。


「グランさん、アリスを寝室まで運んで貰えますか?」

「承知した、責任を持って運び届け致す!」


 グランはそう言うとアリスを横抱きに──所謂お姫様抱っこをして二階の寝室へと運んでいった。


 階段を上がり二階へ、ドアはステルが開けてくれる。


 アリスの小さな体を、壊れ物でも扱う手つきで優しくベッドへ横たえる。

 やわらかなベッドがアリスの体を包み込む。


「おやすみなさいませ、姫」


 グランは最後に布団を掛けてやると、優しく声をかけて部屋を出るのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 リビングに戻ると、グランにコルサリアが声をかける。


「グランさん、ありがとうございます」

「礼を言われる程ではありません。当然の事ですので」

「ふふ、そうですか」


 グランには、アリスを守ることも、アリスの世話をすることも、同じことである。


 同じ、自分の使命である。


 コルサリアは、それでも──と前置きして、


「アリスは、グランさんとステルさんにはかなり懐いています。それこそ出会って間もないとは思えないほどにです。アリスは、甘えてるんだと思います。グランさんや、ステルさん、それにルナさんやシンジ様にも」

「そうであろうか?」

「はい、そうです。アリスは意外と鋭いとこのある子なんですよ?きっとグランさん達が本気で守ろうとしてくれてるから、こんなに早く気を許すようになったんだと思います」


 コルサリアは言葉を続けて────


「だから、これからもアリスをよろしくお願いします。……振り回されることばかりでしょうけど」


 腰を折り、頭を下げるコルサリアは、言葉の最後に小さく舌を出し、茶目っ気を含ませて笑いかける。


「ハハッ、確かに姫はお転婆ですからな。ですが、そこは我らの腕の見せどころ。体力には自信がありますからな」

「あら、頼もしいですね」


 2人はどちらともなく笑い出す。


 お互いの距離が縮んだ様な気がした一時であった。

年末は忙しくなるため投稿が遅れるかも知れません。

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