37.座学とお昼ご飯
魔法学校での授業は、朝に座学、それから昼休みを挟んで実習となる。
座学では詠唱の必要性から各属性の魔法についての基礎的な事項。
更には魔法陣まで教えてくれるのだとか。
全てシャロンに聞いたことである。
転入生であるため、慎司が魔法学校について知っていることは殆どない。
その知識の穴を、シャロンはしっかりと埋めてくれる。
「シンジ様、それでは授業が始まりますので私は失礼します」
「そうか、教えてくれてありがとな」
「これが仕事ですから」
授業が始まる寸前まで教えてくれていたシャロンは、そう言うと薄く笑う。
あどけない顔立ちのシャロンがそういう笑い方をするのは、少し背徳的な気分になる。
どちらかと言えば快活に笑って欲しいものだ。
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転入して最初の授業は、魔法を使用する際の詠唱についてだった。
先生曰く、詠唱を行うことにより体内に流れる魔力を整え、使用する魔法に適した魔力を練り上げるのを補助するのだそうだ。
先生が教壇で説明をしている。
黒板には詠唱のフレーズや、属性事の違う部分について書かれている。
────慎司は退屈だった。
理由は簡単。
慎司は詠唱を必要としないのだ。
《無詠唱》
魔法を使用する際、本来必要になる詠唱を行わなくても魔法が発動できるようになる。
必要なのは魔法のイメージのみとなり、格段に魔法の使用スピードが早くなる。
鑑定を使って得た情報を見ながら、先生の説明を聞き流していく。
ほかの生徒は皆真面目に話を聞いている。
聞いていないのは慎司だけだ。
「シンジ、ちゃんと聞いとかないと実習がキツいぞ?」
「ああ、すまない」
アレンに注意をされてしまった。
慎司は漏れでそうになるあくびを噛み殺しながら、退屈な授業を受けるのであった。
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10分の休憩を挟み、次の授業を受ける。
次の授業は属性事の違いについてだった。
これには慎司も大いに興味がある。
まずは火属性。
火属性は主に火力が高い魔法が揃っている。
初級魔法であるファイアボールでさえ、充分魔物に通用する威力を秘めている。
ちなみにこれはあくまでも普通の魔法使いの話であり、慎司の場合は高すぎるステータスのため、ただのファイアボールで魔物は消し炭になる。
次に水属性。
水属性は相手の妨害や味方の支援等の魔法が多く見受けられる。
そして風属性。
風属性は火力は低めだが素早く繰り出せる魔法が多いようだ。また、風を使った不可視の攻撃は風属性の特権だ。
四大属性最後は土属性。
土属性は守りに向いた魔法が多い。
土を固めたり、穴を開けたり、特殊な魔法が多いのも特徴だ。
「ほぉー、魔法ごとに特徴とかあるんだな……」
慎司の呟きが漏れる。
「そりゃあるぜ、俺は火属性が得意なんだけどさ、やっぱり補助魔法なんかは水属性に比べれば少ないぜ」
その呟きにアレンが小声でそう答えてくる。
アレンは何かとこちらに話しかけたりしてくるが、授業の方は大丈夫なのだろうか?
慎司は自分は集中しきれていないことを棚に上げてそう思う。
静かな教壇の中に、教壇に立つ先生の言葉が響く。
こうして慎司は魔法に関する知識を深めていくのであった。
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それから光、闇、回復の説明があり、座学の授業はそこで終了となった。
「それでは今日はここまでとします」
先生は最後にそう言うと教室から出ていく。
それで教室内は活気づく。
各々が仲のいい友人を誘い、昼食へと動き出す。
「ガレアス、食べようぜ!」
「む、アレンか。いいだろう」
アレンとガレアスが、いつもそうしているのだろう、2人で食堂へと歩いていく。
「リプル、行きますわよ」
「あっ、うん。でも……」
エリーゼに誘われたリプルが、こちらを振り返ってくる。
どうやらリプルは慎司の事を忘れないでいてくれたらしい。
それに感動していると、エリーゼも気づいたようで、こちらにやって来る。
「シンジ、あなたも一緒に昼食をとりませんこと?」
「ああ、良ければご一緒させてもらおうかな」
エリーゼの言葉に慎司は頷き、リプルの方に目を向ける。
「わ、私もシンジ君とご飯、食べたいなって……思います」
「そうか、ありがとう!」
「いえ、そんな……」
顔をやや赤くしつつ、顔の前で手を振るリプル。
やはりまだ男性に対する苦手意識があるのだろうか?そう慎司は思うが、アレンやガレアスに対しては普通に接していたことから、まだ出会って間もないからだろうと見当ををつける。
仲良くなれば、その内普通に接してくれる様になるはずだ。
「ではリプル、シンジ。行きましょうか」
「うん、エリーゼちゃん」
「よく分からないから案内は頼んだ」
「ふふ、頼まれましたわ」
慎司はエリーゼとリプルの後ろについて歩いていく。
エリーゼとリプルは何やら話をしているが、後ろを歩く慎司には聞こえない。
『シンジ、聴覚のブーストならできますが』
「しなくていいから。盗み聞きみたいになるし」
『そうですか……』
何故か盗み聞きを勧めてくるアルテマ。
勿論断っておく。
慎司には女の子2人の会話を盗み聞きするような趣味はない。
たまにこちらをチラリと振り返るエリーゼが妙に気になりはしたが、割って入って聞くのも何だか悪い気がしたので、結局慎司は聞かずに終わった。
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「リプル、珍しいですわね。あなたが男の子と一緒に昼食をとるなんて」
「そ、そうかな?たまには、そういうこともあるんじゃないかなっ?」
エリーゼが、歩きながらリプルに尋ねる。
エリーゼの言葉通り、今まで男性が苦手だったリプルは友達であるエリーゼや他の女生徒以外とは昼食を共にしたことが無かった。
それがまたどうして慎司を誘うような素振りを見せたのか、どうしてもそれがエリーゼが気になった。
エリーゼだって女の子である。
恋とか愛とかの話には敏感なのである。
「ふーん?たまには……。と言いましてもリプル、あなたこれが初めての男性との食事ですわよ?」
「うっ、確かにそうだね……」
チラリ、と後ろをついてくる慎司を振り返る。
エリーゼの視線に気づいた慎司は、軽く笑ってくるだけで、話については詮索してこなかった。
────あら、なかなか弁えてますのね
慎司は話の内容が自分の事についてだと気づいたはず。
それでも話について聞いてこないのは、女同士の会話に踏み込むのは良くないと思っているからなのだろう。
エリーゼはそう思い、慎司に対する評価を上げる。
「それで?なんでシンジを誘ったのかしら?」
「そっ、それはね……なんだか困ってるみたいだったから……」
「困ってる?」
エリーゼはリプルの言葉に疑問を浮かべる。
リプルはエリーゼの言葉に頷き────
「そう、シンジ君、なんだか困ってるように見えたの。多分お昼ご飯を一緒に食べる人がいなかったか、どうすればいいか分からなかったんじゃないかな……?」
「あなた、良く見てるのね……」
エリーゼの言葉に、リプルは顔を赤くして反論する。
「えっ、その、見てるっていうか……!」
「ふふ、まあいいわ。そろそろ食堂よ」
「あ、そうだね」
食堂につくことによって、2人の話はそこで終わる。
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食堂。
そこには沢山の生徒が集まっていた。
弁当を持っている生徒は教室で食べるか、天気のいい日は中庭なんかで食べたりする人もいるらしい。
エリーゼがそう言ってた。
この食堂では、基本的には出てくる料理日替わり定食だけらしい。
たまに限定メニューが出たりもするらしいが、それはすぐに売り切れるのだそうだ。
これもエリーゼに聞いた。
「エリーゼ、今日は何があるんだ?」
「昼食の内容は出てくるまで分かりませんの。お楽しみってやつですわね」
慎司が待ちきれずにエリーゼに聞くと、エリーゼはいたずらっぽい笑顔を浮かべるのだった。
列に並ぶこと数分、カウンターらしき場所で受け取った昼食は、とても美味しそうだった。
ふわふわのパンに、熱いスープ。美味しそうに肉汁が溢れているサイコロステーキ。
慎司はつい喉を鳴らしてしまう。
「これは、随分と美味しそうだな……!」
「あら?そうですの?普通だと思いますけど」
「は?……って、ああそうか」
贅沢極まりない料理を目の前にして、どうして平然と普通の料理と言えるのか、一瞬慎司はエリーゼの言葉に理解が追いつかなかったが、エリーゼの顔を見た瞬間に理解する。
そう、別に畏まったりしなくていいと言われてはいるが、それでもエリーゼは侯爵家の令嬢なのだ。
これぐらいの贅を尽くした料理等、食べ飽きているのだろう。
少し悔しく思いながらも、今の生活に満足している慎司は、目の前の料理に舌鼓を打つのだった。
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「そういえば、シンジ。あなたの得意な属性は何属性ですの?ちなみに私は風なのですけど」
「わ、私は水属性が得意です!」
昼食時、唐突にエリーゼがそう聞いてきた。
ついでとばかりにリプルも自分の得意属性を教えてくれる。
「ん?ああ。得意属性ってのはまだ分かんないな……闇属性以外は使えるし、今まで剣ばかりで戦ってきてるからさ」
慎司は隠す必要もないため、2人にそう言った。
現在慎司が使えるのは火、水、風、土、光属性。闇属性はスキル自体は覚えているが、魔法に対するイメージが簡単に浮かばないため、スキルがあれど魔法自体は使えない。
そんな慎司の言葉にエリーゼとリプルは目を見開く。
リプルなんかは、手に持ったパンを落としそうになっている。
「今、なんて言いましたの……?」
「闇、以外?」
「え、ああ。そうだけど?」
レイシアの時もそうだったが、どうやら5属性使えるというのはやはり異常らしい。
「やっぱ変か……?」
「普通はそんな人いませんけど、変なことはありませんわよ。昔には全属性を使える魔導王なんてものもいたらしいですしね」
「それに、そんな事でシンジ君のこと変だなんて思わないよっ!」
慎司が不安になって尋ねてみると、2人は笑って言う。
もしかしたら、全属性が使える魔導王の専攻職を持っていることも、魔導王の指輪を嵌めていることも黙っていた方がいいのかもしれない。
そう思う慎司であった。
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さて、昼食を食べたら残るは実習である。
「実習って、具体的には何をするんだ?」
慎司は教室に戻ると、隣に座るアレンに聞いた。
「ん?ああ、魔法の実演だったり、魔力制御の練習だったり、模擬戦なんかもあるな」
「模擬戦かぁ……」
慎司はアレンの言葉にそう呟く。
模擬戦となれば、まだ見ぬ魔法にお目にかかれるチャンスもあるだろう。
慎司は未知の魔法に対する期待を胸に秘め、実習の開始を待つのだった。
※一部修正をしました。




