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34.探そう魔法学校

 

 新たな拠点の二階は、寝室となっている。

 部屋割りは、慎司、ルナ、コルサリアとアリスの3組。

 アリスはまだ1人で寝るのは難しいようなので、コルサリアが添い寝をするようだ。


 くーくー、と寝息を立てるアリスをベッドに寝かせ、後はコルサリアに任せておく。

 慎司も、お腹が膨れ、眠気がやって来ている。抗えない眠気に目を擦りつつ、手早くシャワーを浴びると、その日はすぐに眠りに落ちてしまった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 翌朝、目が覚めると隣には誰もいなかった。

 部屋を分けているので当たり前の事だが、何だか少し寂しいと慎司は思う。


 布団を跳ね除け、ベッドから抜け出す。

 今日も太陽はまだ上っておらず、淡い光で照らされた空が綺麗だった。

 薄闇に支配された空は雲が所々見受けられる。


「……今日も1日頑張りますか」


 慎司は誰にでもなく呟くのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「ご主人様、今日の予定はどうするのですか?」


 朝食時にそう慎司に尋ねたのはルナ。

 ちなみに朝食は早朝に慎司とコルサリアが食材を仕入れに行った。


「今日は魔法学校に行ってみようかなーと」

「シンジ様、魔法学校に行かれるのですか?」

「パパすごーい!」


 慎司がそう答えると、コルサリアとアリスが驚き、賞賛の声をあげる。

 コルサリアは魔法が使えないらしい。

 ただ、俗に言う生活魔法は使えるらしいので、使えないのは攻撃や支援魔法になる。


 ちなみに、ルナは魔法が使えるかどうかは分からないが、本人曰く、魔法を使うより剣の方が早いのだそうだ。

 ルナは素早さが突出しているため、確かにそのとおりだろう。


 アリスはそもそも戦闘に参加出来ない。


「アリス、褒めてくれるのは嬉しいけど、いい加減口元の汚れに気づいてくれ……」

「……んにー」


 慎司は苦笑しながら、アリスの口元に付いたソースを拭ってやる。


「でもご主人様、魔法学校ってどこにあるんでしょうか?」

「……歩いてたら見つかるだろ。学校ならわかりやすいと思うし」

「つまり分からない……と」


 ルナの質問に、慎司は言葉を濁す。

 ただ、学校と言うぐらいなのだから、それなりに大きな校舎等で目立つだろう。

 慎司はそう思い、アリスの口元に注意を払いつつ朝食を片付けるのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 朝食後、慎司はルナを連れて2人で街を散歩している。

 散歩と言っても、魔法学校を探しているのではあるが。

 ちなみにコルサリアとアリスはお留守番である。護衛にはグランがいるため、慎司は安心して外に出られる。


 たくさんの種類の店が並ぶ中、慎司とルナはキョロキョロと辺りを見回しながら歩いていく。

 慎司の左手とルナの右手はしっかりと繋がれており、周りからはやや生暖かい視線を向けられている。


「魔法学校、ないな……」

「ないですね……」


 そんな視線に気づかない程、2人はがっかりしていた。

 どれだけ探しても魔法学校が見つからないのだ。


 家を出たのが10時頃で、現在の時刻は12時前。つまり約2時間は歩きっぱなしなのである。


「ルナ、俺はそろそろ疲れてきたぞ」

「私もです、ご主人様」

「騎士団の詰所に行くか。頼れって言われたしな」

「私もそう思っていたところです」


 流石に2時間も歩くと足が疲れてくる。

 2人は重い足を引きずりながら、騎士団の詰所を目指すのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 10分程歩いたところに、詰所はあった。

 2人が詰所に近づいていくと、昨日ハーヴェンの部隊にいた男がこちらを見つけ、声をかけてきた。


「よぉ、アンタらは昨日トルクを助けてくれた人だよな?なんか用か?」

「えーっと、魔法学校ってどこにあるか分かります?結構探し回ったんですけど、どこにも見当たらなくて」

「あー、魔法学校はなぁ……ありゃ案内人がいねぇとわかんねぇ位置にあるからな。見つからないのもしょうがない」


 男の言葉に、慎司達は肩を落とす。

 あれだけ歩き回っておいて、それが無駄な事だったと分かったのだ。

 落胆するのも仕方が無いことだろう。


 初めから騎士団を頼っておけば良かった、と慎司は思いながら、慎司はその男に案内を頼んでみる。


「それじゃあ、魔法学校まで案内とかしてもらえるか?」

「あー、してやりたいんだが、生憎と今は仕事中でな。……そう言えばこの時間ならトルクが休憩に入るはずだったな。呼んでくるからトルクに頼んでくれ」

「そうか、悪いな」

「これぐらいは仕事の内さ」


 男はそう言うと詰所の奥へと走っていくと、程なくしてトルクを連れてきた。

 トルクはこちらの姿を見つけるなり頭を下げてくる。


「昨日は危ないところを助けていただき、感謝している」

「昨日も言ったとおり、気にするなって」

「いや、恩にはきちんと報いなければならない。魔法学校への案内だったか。勿論引き受けさせてもらおう」

「ほんとか?それは助かるよ」


 トルクはどうやらかなりの恩を感じているようで、恩返しとして案内を引き受けてくれた。

 情けは人のためならず、とはまさにこの事だな、と思う慎司であった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 トルクに案内してもらった場所は、確かに分かりにくい、入り組んだ道を抜けた先であった。

 広い王都ではあるが、基本的には大通りがあるため、そこに隣接する形で店を構える。

 しかし、この魔法学校は、大通りから裏道に入り、いくらか進んだ先の場所に建っていた。


 勿論校舎は大きく、それなりの格式の高さは伺うことができるが、何故ひっそりとした場所に建てられているのか。それが分からない。


「それでは、案内も済んだことだし私はこの辺りで失礼させてもらおう」

「おう、ありがとな。トルク」

「礼は不要だ。貰ったものを返したに過ぎないからな」


 最後まで堅苦しい言葉遣いをしたままだったトルクが帰っていくのを見送り、その姿が見えなくなった所で慎司とルナは魔法学校の敷地内へと入っていく。


 大きな門を潜り、レンガのような物で固められた道を歩いていく。

 正直入っていいものか迷ったのだが、門の前で待ちぼうけする訳にもいかないので、取り敢えず中に入ってみることにしたのだった。


「ご主人様、勝手に入ってもいいんですかね?」

「ダメなら誰か来るでしょ。それとも門の前でずっと待ってる?」

「……行きましょう」


 ルナも納得したようで、2人は校舎目指して歩いていく。

 すると、校舎まで後30メートル程の場所で、アルテマが話しかけてきた。


『シンジ、結界です。私たちの存在が誰かに露見しました』

「結界?ああ、侵入者対策か」

『誰か来ます、敵対する意思は無いようです。ですが注意を怠らないでください』


 心配性なアルテマに内心で苦笑しつつ、慎司はその誰かを待つ。

 ルナも何かに気づいたようで、狐耳をピクピクと動かしていた。


「お?誰か来たぞ。エルフ……か?」


 慎司が待っていると、校舎から1人の女性が姿を現した。

 特徴的なのは横に尖った耳。所謂エルフという種族だろうか。

 ルナと同じ金髪のようだが、どちらかと言うとルナよりはくすんだ色をしている。


 慎司が何も言わずに待っていると、目の前までやってきたエルフの女性は、柔和な笑顔を浮かべて話しかけてきた。


「こんな時間に来客とは珍しいですね。貴方達はどの様な理由でここへいらしたのですか?」


 澄んだ声が耳に心地いい。


「王都には魔法学校があると聞き、魔法を習いたいと思いここへやって来ました」

「あらあら、なるほど。入学希望の方でしたか。入学されるのはお二人ともですか?」


 慎司が理由を話すと、エルフの女性はルナを見ながら訪ねてきた。


「ああ、いえ。入学は俺だけです。彼女は付き添いとして来ています」

「そうでしたか、それでは中でお話をさせて頂きたいと思いますので、私についてきてください」


 今回入学するのは慎司だけである。理由は単に魔法を使えるのが慎司だけというのもあるが、短剣を使った高速戦闘に磨きをかけたいという、ルナの希望でもある。


 前を歩くエルフの女性についていきながら、慎司は校舎内を見ていく。

 壁にかけられた謎の肖像画。高級そうな壺に、高い技術で描かれた絵画。まるで貴族やその子孫でも通ってるんじゃないかと思う程の贅沢ぶりであった。


 やがてたどり着いた応接間の様な部屋に、エルフの女性は入ると、横並びにされた2つの椅子を指し示し、座るように促してきた。


 そして、自分はテーブルを挟んだ向かい側の椅子に座ると、魔法学校についての説明を始める。


「私、この学校で学校長を務めさせて頂いている、レストア・レイフォードと申します」

「俺はクロキ・シンジと言います。出身はホウトウです。こちらはルナで、俺の仲間です」


 レストアがまず名乗り、それに慎司も応じる。慎司がルナをついでに紹介すると、ルナはぺこりと頭を下げた。

 お互いの自己紹介が済んだところで、レストアは説明を続ける。


「この学校では、魔法の素質があるものがその才能を開花させる為であったり、或いは魔法を極めるために様々な援助を行っています。基本的には魔法に関する授業が中心となっていますが、貴族様のご子息ご息女もいるため、通常の学校としての授業も行っています」


 その説明で、やたらと豪華な置物や絵が飾られていた理由が判明する。

 レストアは続けて────


「入学金についてですが、1人金貨10枚となっています。これは、Sランクの冒険者であったり、国からの援助があるならば、問題ないのですが……」

「ああ、これでも一応Sランクなのですよ」

「ふむ……確かに。それでは入学金については必要ないです。この学校をSランク冒険者として広めていただければ結構ですので」


 Sランク冒険者がお金を払わなくていい理由は、広告料みたいなものらしい。

 レストアは差し出した冒険者証明書を見せると頷き、返してくる。

 続けてレストアはある魔道具を取り出した。


「まずは、入学希望者全員にやってもらっているのですが、簡単な魔力テストをさせて頂きます。これには魔道具を用いるのですが、それがこれですね」


 そう言って、レストアは大きな水晶玉の様なものを差し出してくる。


「この魔道具に手をかざしてみてください」

「わかりました」


 慎司は、差し出された水晶玉に手をかざす。

 すると、水晶玉は赤から青へ、さらに緑色から黄色、白に黒、そして最後にひときわ大きく輝いたかと思うと、虹色に淡く輝きながら、その変化を止めた。


 色鮮やかに変色していく水晶玉を不思議に思いながら、慎司はかざしていた手をどける。


 向かいに座っているレストアは信じられないと言った表情で慎司と水晶玉に視線を行ったり来たりさせている。


 やがて、口をパクパクとさせながら、


「全属性……?それとも、故障とか?」


 等とぶつぶつと言い出した。


 少し怖いなと思いながら慎司は声をかけてみる。


「あのぉ?どうかしました?」

「あっ、いえ。何でもないです。シンジさん、1つ宜しいでしょうか?」

「なんでしょう?」


 すぐに元に戻ったレストアは慎司を真剣な目で見つめて、質問をしてきた。


「使える魔法の属性を教えていただけないでしょうか?」

「はぁ、別に構わないですが……四大属性と光、それに回復と召喚魔法ですかね」


 慎司が不思議に思いながらそう返すと、レストアは遠い目をした。

 綺麗な顔立ちが、なんだか一気に老けて見えた。


「そ、そうですか。……本物か」

「何か言いました?」

「いえ!何も。そうそう、こちらをお渡ししておきます」


 レストアはそう言うと、慎司に1つの小ぶりなメダルを渡してきた。


「これは?」

「このメダルを持っていると、結界に引っかかることがなくなります。所謂学生としての証みたいなものです」


 慎司は手に持ったメダルを鑑定してみる。


 《学生のメダル》

 微弱な魔力を込められたメダル。

 これを持っていると特定の結界をすり抜けることができる。


 鑑定してきた道具の中で、チート性能ではなかったのは、これが初めてではないのだろうか。

 慎司は謎の感動に包まれながら、今度はレストアを鑑定してみる。


 《レストア:エルフ族》

 Lv.200

 HP5600/5600

 MP9000/9000


 STR500

 VIT400

 DEX600

 INT850

 AGI600


「は?グランより強いぞこれ……」

「シンジさん?どうかしましたか?」

「ああいえ、こちらの話です」


 慎司はつい漏らしてしまった声を誤魔化しながら、レストアの強さに驚いていた。

 レストアはどうやら近接戦闘は得意ではないようだが、魔法に関するステータスが軒並み高い。


 レベルもグランより高いため、魔法戦ならば、無類の強さを発揮するのではないだろうか。


「さて、せっかく来てもらっておいて申し訳ないのですが、今日は既に授業の半分程度を消化しています。シンジさんの紹介もしなければならないので、また明日お越しくださいますか?」

「ええ、わかりました。それで時間は何時頃に来れば?」

「朝の8時には来ていただければ助かります」

「では、明日の朝8時頃にまた来ます」


 転入生という扱いになるのだろう。

 それに、今日いきなりやって来て直ぐに授業を受けれるとは思っていなかった。

 そのため、慎司は明日の朝に来ることを約束し、今日は魔法学校を後にしたのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 家への帰り道、慎司はある考え事をしていた。

 無論、慎司が学校へ行っている間のルナ達についてだ。

 コルサリアとアリスは、基本的には留守番で構わないだろう。アリスがまだ小さいため、グランとコルサリアで彼女を守るのだ。それに、コルサリアには家事をしてもらわなければならない。


 問題はルナである。

 依頼を受けてもらうのでもいいが、それだと何があるかわからない分少し怖い。

 できればどこかの訓練所みたいな所で技を磨いてくれたりすると、慎司としては安心できる。


「なぁ、ルナ。俺が学校に行く間、ルナはどうする?」

「できることなら、騎士団の方々に戦闘について教えて頂きたいと思っています。私はまだ弱いですから、少しでもご主人様のお役に立つよう強くなりたいのです」


 どうやらルナは既に考えていたらしく、騎士団の下で特訓をしたいと言い出した。

 確かに騎士団のレベルは高いし、彼らの下で特訓をするとなれば、強くなることは可能だろう。


 ただ、強くなることだけが役に立つかというと、話は変わる。

 慎司は既に記憶を無くした重荷を背負ってもらっていることに充分感謝しているし、別にこれ以上何かをしてもらいたいとは思わない。


「別に、強くならなくてもルナは充分役に立っているよ?むしろルナがいない生活には耐えられない」


 慎司がそう言うと、ルナは酷く優しい笑顔を慎司に向けて────


「私が、強くなりたいんです。ご主人様のためにも、私自身のためにも」

「そうか……」


 慎司には、何を思ってルナがそういったのかは分からなかったが、自分のため、と言ったルナの言葉に心が動かされた。


 今まで慎司のための行動はしていたが、ルナがルナ自身のために行動をすることは無かった。

 初めてのルナからの希望。

 それを断るほど、慎司は自分の思いを押し付けたくはなかった。


「ルナがそうしたいなら、そうするといい。きっとそれが最善だろう」

「……ありがとうございます、ご主人様!」


 慎司が許可すると、ルナは嬉しそうに笑うのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 騎士団に話をしてみると、ルナが訓練に参加することはあっさりと認められた。

 参加する時間は慎司が学校へ行っている間。

 終わりは帰りに慎司が騎士団に寄って拾っていく感じだ。

 訓練の最中は、騎士団の仕事にも参加させられるようで、騎士団の仕事を手伝った分については、給金が出るという好待遇だ。


「良かったな、訓練、参加できるみたいで」

「はい!頑張ります!」

「ああ、頑張ってくれ」


 慎司は気合い充分!といった様子のルナの頭を撫でながら、笑いかける。


 その日は予定もないため、直ぐに家へと2人は帰ることにする。お金についてはまだまだ余裕はある。

 最悪慎司が依頼をこなせばいいだけの話だ。


 慎司は沈み始めた太陽を眺めながら、コルサリアとアリスの待つ家へと急ぐのだった。

冒険者編はここまでとなります。

少し脇道に逸れて次はアリスに関する話になります。

それが終わると魔法学校編が始まります。


魔法学校編でも、応援よろしくお願いします。

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