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32.新居と召喚魔法

 

 ギルドを後にした慎司達であったが、次に向かう場所は決まっていた。

 拠点の確保である。


 今まではルナと2人であったため宿代も然程かからなかったが、コルサリアとアリスを仲間に加えた今、宿代は馬鹿にならない。

 将来的にも考えて、この広い王都のどこかに居を構えるのは、選択肢としてかなり有力である。


「というわけで、家を買いに行きます」

「どういう訳かわからないんですけど……」


 慎司が家を買うと言うと、ルナがそう反してくる。

 慎司は懇切丁寧にルナとコルサリアに自分の考えを説明する。


「なるほど、確かにそうですね」

「私はシンジ様がお好きなようになさればよろしいかと」

「コルサリアさん、それはダメですよ。節約は大事です」

「主人は俺なのに……なぁ、アリス?」

「んー、パパはパパだよ!」


 ルナの言葉に、自分ひとりだと破産しそうなのは分かっているため強く反論できず、なんとなくアリスで遊ぶ慎司。

 ちなみにアリスはよく分からない回答をしてくれた。


「まぁ、とにかく家を売ってる所に行こう」


 慎司はそう言うと、踵を返して冒険者ギルドに歩いていく。

 それに、ルナが疑問を浮かべて声をかけた。


「ご主人様?なんでまたギルドに?」


 その言葉に慎司はニヤリと笑って言葉を返す。


「場所聞いてくる!」


 自分で探す気等さらさら無いのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ギルドで家を売ってくれる場所を聞き出し、慎司達は即座に向かった。


 大通りに並ぶ大きな店を冷やかしながら、たどり着いたその店は、大きな看板と人の良さそうな店主が目を引いた。


「いらっしゃいませ、本日はどの様なご要件で?」

「はい、家を探してるんです。最近までは宿暮らしだったんですが、仲間も増えたこともあってここらで家でも買おうかなー、と」


 慎司の姿を見るなり、店主は声をかけてくる。慎司が要件を伝えると、店主は自分の顎髭を撫でつけながら、何かを思案する。


「……そうですねぇ、ご予算は如何程で?」

「ルナ、どれくらいなら大丈夫?」

「相場を考えると、金貨8枚までならいいと思います」

「それでしたら、丁度いい物件がありますよ」


 未だに金銭感覚が掴めない慎司にすれば、家に金貨8枚と言うのが高いのかはわからないが、この前の大氾濫で稼いだお金の約半分となると、少し尻込みする。


 ただ、ルナが提案してきて、それにコルサリアも異を唱えないとなるとそれぐらいが適正価格だったりするのかもしれない。


 慎司はその物件とやらを案内してもらうことにした。


 店から歩くこと15分ほど、大通りから少し離れ、店ではなく家が姿を現し始めたあたりに、件の物件は建っていた。


「こちらです。勿論中もご確認になられるでしょう?」

「はい、お願いします」


 外観は洋風、慎司の首元までの高さの塀に囲まれた中に、白を基調とした二階建ての建物が建っている。

 門を通り、大きめのドアまで歩く途中で見えた庭は、かなり広い。


「随分大きいのですね……」

「いえいえ、お客様が提示された値段を考えると妥当ですよ」


 慎司が思ったよりも大きな外観に声を漏らすと、店主は微笑みながらそう言った。


 店主が懐から取り出した鍵でドアを開けると、扉を開けて中に入る様に促してくる。


 慎司達が中に入ると、そこは広めの玄関。

 奥に続く廊下の先には、陽の光が煌々と差し込むリビングが見える。

 廊下にはリビングの他に浴室、洗面所、トイレに繋がる扉があり、キッチンはリビングと繋がっていた。


「すげぇな……広いぞ、かなり」

「ご主人様!お風呂があります!広いです!」

「キッチン……これはなかなかの設備ですよ……」

「パパー、明るいねー」


 各々がひとしきり反応するのを見ると、店主は二階に案内する。

 二階は主に寝室や個人の部屋となっており、長い廊下に六つの部屋が隣接していた。


「お客様、まだ庭もありますからね?」

「おいおい、優良物件過ぎだろ……」


 ニヤニヤと笑う店主についていき、リビングから覗く庭はかなり広い。

 初めに見たよりも広い庭には、ガーデニング用の花壇も見受けられる。


「ガーデニングなんかいいですねぇ」


 そう言うのはコルサリア。

 キッチンにも反応していたことから、家事なんかはかなり好きなのではないだろうか。


「お気に召しましたでしょうか?」

「ああ、かなりいい物件だ。ただ、申し訳ないんだが、ここまでいい話だと裏があったりすると思うんだが……」


 微笑みながら尋ねてくる店主に、慎司は唯一の懸念を聞いてみる。

 いい話には裏があるのが付き物だ。

 今回の物件も、欠陥があったり、よくある話では幽霊が住み着いてたりするかもしれない。


「なるほど、お客様の懸念も理解できます。むしろ、その様な確認を怠らない辺りはとても関心が持てると言っても良いぐらいです」

「と言うと?」

「欠陥なんかありませんし、訳ありでもないです。そうですね……宣誓の魔法を使用しても構いませんよ」


 店主は気を悪くすることなく答えてくれた。

 さらに、嘘を吐けばペナルティを受ける宣誓の魔法を使ってもいいとさえ言っている。

 慎司はルナ、コルサリア、アリスの全員が気に入ったということもあり、この物件を購入することにしたのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 金貨8枚を支払い、新たな拠点を確保した慎司達。どうやら家自体が金貨5枚、置いてある家具を金貨3枚で売ってくれたようだ。

 正直かなり得をした買い物と言っていいだろう。


「いやー、このソファーすごいな。ふかふかだ」

「ふかふかー!」


 慎司はアリスと一緒にリビングで寛いでいた。

 ルナは部屋の更なるチェックを、コルサリアはキッチン周りの整理をしている。

 暇な2人は適当に時間を潰すしかないのだ。


「うーん、他に何か必要なものはあるかな?」

「何考えてるのー?」

「んー、アリスには難しいかなー」

「アリスお馬鹿さんじゃないもん!」


 慎司はころころと表情を変えるアリスの相手をしながら、しなければいけないことを頭の中で整理していく。


 そして、召喚魔法について未だ鑑定しかしていなかったことに気づいた。


「あー、召喚魔法。やってみるか」

「しょーかんまほー?」

「アリスは危ないかもだからここで見ててな?」

「うん?……うん!」


 慎司はわかっているのかどうか分からないアリスに一抹の不安を抱きながらも、アリスを庭に続くリビングの端に座らせ、自分は庭に出る。


「さて、召喚魔法だが……アルテマ、ちょっといいか?」

『なんでしょう、シンジ?』

「召喚魔法ってどうやって発動すればいいんだ?」

『自分が呼び出したい理由、それをイメージしながら魔力を込めればいいはずです』


 この点は魔法とは違うようだ。

 属性魔法は、自分の使いたい魔法が与える現実への影響をイメージ、それに魔力を乗せて発現する。そのため、魔法に関する知識がないと上手く発現しないものもある。


 ただ、召喚魔法は呼び出したい理由だけでいいそうなので、知識がなくても呼び出すことは可能だろう。


「よし、んじゃやってみるか」


 いざ召喚魔法を使おうとしてみると、頭にどうすればいいか、知識が流れ込んでくる。

 まずは召喚理由、これはこの家とアリス達戦えない仲間の守護。

 次に種族、これはアリスの事を考えるとできるだけ人族がいいだろう。

 後は魔力を込めればいいだけだ。

 取り敢えずこの後は予定もないためありったけの魔力を注いでみる。


「……サモン!」


 召喚魔法の魔導書に、書いてあった呼び出す時の掛け声の様なものを叫ぶと、目の前に大きな魔法陣が展開される。

 光り輝く魔法陣は徐々に光の強さを増し、慎司はアリスの視線を遮るように体を滑らせ、自分は腕で顔を覆う。


「眩しいな……これ」

『シンジ、そろそろ目を開けても大丈夫でしょう。魔力が安定してきました』


 アルテマにそう言われ、慎司が腕をどけて目を開けると、そこには2人の男が片膝をついて頭を垂れていた。


「ん?んん?」


 慎司はつい疑問の声を上げてしまう。

 思ったよりも弱そうなのだ。ありったけの魔力を込めたのだから、もっと強そうな外観の戦士が召喚されると思っていた。

 実際に召喚されたのは、騎士鎧を着用し、大きな盾と幅広の剣を持つ男と、軽装で顔を覆うマスクをした2振りの短剣を持つ男だ。


「取り敢えず頭を上げてくれないか?」

「はっ!」

「……!」


 慎司がいつまでも頭を下げられていては困るのでそう言うと、騎士鎧の男は鋭く返し、軽装の男は寡黙に顔をこちらに向ける。


「えーっと、俺はシンジだ。お前達の名前は?」


 なんとなくだが、下手に出るよりは上からの方がいいような気がした。


「はっ!私の名前はグランと申します。我が剣は主の障害を打ち砕き、我が盾は主に降りかかる危険を払いましょうぞ」

「なるほど……それはありがたい。んで、そっちの男は?」


 慎司の言葉に名乗りを上げたのは騎士鎧の男で、グランと言うらしい。

 堅苦しい言葉遣いではあるが、裏切りなんかは一切起こしそうにないその気概は好印象である。


「俺の名はステル。主の目となり耳となり、影からその武勇を支えさせて頂きたく馳せ参じた」

「ふむふむ、頼もしいね」


 次に名乗ったのは軽装の男、名前はステルと言うらしい。

 物凄く気配の薄いステルは、気を抜くと見失いそうになる。


 一先ず自己紹介を終えた慎司は、2人に鑑定をかけてみる。


 《グラン:人族》

 Lv.175

 HP9000/9000

 MP4500/4500


 STR900

 VIT800

 DEX500

 INT400

 AGI500


 《ステル:人族》

 Lv.150

 HP7500/7500

 MP6000/6000


 STR700

 VIT600

 DEX800

 INT600

 AGI900


 慎司は口をポカンと開けて固まる。

 できるなら数分前の自分を殴りたい。

 何が弱そう、だ。ステルは物凄く器用だし、素早さは一級品。

 グランに至っては上級魔族をステータスでは軽く超えている。


「なんだこいつら強すぎだろ……」

「どうされた主よ」

「あー、何でもない」


 手を振りながら、慎司は2人に関する対応を考える。

 そして、取り敢えずは当初の予定通り家と自分以外の仲間の守護に付いてもらうことにした。


「さて、グランにステル。お前達を呼び出したのには勿論理由がある」

「はっ、何なりとご命令を!」

「……何でもやる」


 ちなみにグラン、かなりのイケメンである。

 甲冑から零れる金髪はキラキラと輝き、青の瞳は意志の強さを感じさせる。

 残念ながらステルは顔が見えないが、声はかなり渋い。

 そんな2人を従えてるとなると、なんだか気分がいい。


「まぁ、任務と言っても簡単だ。この家と俺の仲間を危険から守って欲しいんだ。どうしても俺1人じゃできない部分もあるからね」

「……承知しました!」

「お任せを」


 同時に頷く2人。

 その様子に満足感を覚えていると、後ろで庭先に座っているアリスが話しかけてくる。


「ねぇパパお話おわったー?」

「ん?ああ、終わったぞ」

「この人たちだれ?」


 アリスは無邪気に慎司に笑いかけながら、グランとステルを指さす。

 すると、グランとステルはその相貌を崩すことなくアリスに名乗る。


「自分はグランと申します、以後お見知りおきを」

「ステルと言う、よろしく頼みます」

「アリスはアリスって言います!よろしくお願いします!」


 グランはいつも通り堅苦しい挨拶、ステルは敬語が苦手なのか、ややおかしな挨拶を、それに対してアリスは元気いっぱいに挨拶を返した。


「おお、アリスはちゃんと挨拶できるんだな。偉いぞ」

「きゃはは、くすぐったーい」


 慎司は親バカ気味の発言をしながらアリスの頭を撫でてやると、アリスはくすぐったそうに身をよじる。


「主よ、そちらのお方は娘であられるのか?」

「あー、うん。そんな感じ。ちゃんと守ってやってくれ」

「無論!この身命にかけて!」


 命を賭け出すグランに若干重さを感じながら、慎司はアリスにルナとコルサリアを呼んでくるように頼んだ。


「はーい、まかせてー!」


 アリスはそう言うと、駆け出そうとする。なので走らないように釘を指してから二人の元へ行かせた。


「今呼びに行って貰ったけど、残りの二人とも挨拶をしてもらうことになる。いいか?」

「私を気遣うような言葉、感謝します。ですが、私は主の為に存在しているのです。主のためならどんな苦痛も受け止めて見せましょう」

「俺も、問題ない」


 グランとステルはかなり忠誠心が高いようだ。これもたくさん込めた魔力量のお陰だろうか。


 召喚を維持するのに必要な魔力量は一時間あたりに二人合わせて100の消費だ。

 ちなみに慎司は一時間あたりに1000程度魔力が回復するため、実質無限に召喚できるのである。


 程なくして、アリスがルナとコルサリアを連れてくる。

 ルナは既にチェックを終えたようで、普段着に着替えている。コルサリアは何故かエプロンを着用していた。しかし、サイズが合っていないのか胸の部分がはち切れそうになっている。

 慎司はあまり見ないようにする。


「お、2人とも来たな。この2人がこれから家を守ってくれるガーディアンだ」

「グランと申します、全身全霊をもって務めさせていただきます」

「ステルと言う、よろしくお願いする」


 慎司がグランとステルを紹介すると、ルナは呆れた表情を、コルサリアは驚きの表情を浮かべた。


「ええ、ご主人様なら召喚魔法もパパーッと使っちゃうとは思っていました。ですが……」

「1度に2人召喚するとは、桁違いの魔力量ですね」


 どうやら、魔力を込めすぎたらしい。

 その後、ルナとコルサリアも自己紹介をし、取り敢えずの対面は完了する。


「んじゃ、任務頑張ってくれ」

「はっ!」

「任された」


 そう言うなり、グランは表の門付近に立ち、ステルは気配を消して何処かへ溶け込んでいった。


 慎司は消えたステルをキョロキョロと探すアリスを抱き上げて、リビングに戻る。

 ルナとコルサリアも付いてくるが、コルサリアはそのまま再びキッチンに篭ってしまった。


「ルナ、今日は何を食べようか?」

「うーん、コルさんに聞いてみるのはどうでしょう?」

「コル姉のご飯!おいしいよ!」


 ゆったりとした時間が流れ、心が休まる。

 慎司はアリスから好評のコルサリアの作るご飯を楽しみに思いながら、傾いている太陽を眺めるのであった。

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