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31.ランク昇格

いつも読んで頂きありがとうございます。

累計50万PVを達成することが出来ました。


これからもより良い作品となるよう頑張っていくので、応援よろしくお願いします。

 

 馬車はランカンから王都へ向けて走っていく。

 乗り込んでいるのは慎司とルナ、コルサリアにアリスの4人だ。

 御者台に座る男は、突然増えた2人を文句も言わず乗せ、お金も取らずに馬車を走らせてくれている。

 人が良すぎるのか、慎司の行動の何かが男を動かしたのか。

 それはわからない。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「……結構揺れますね」

「ああ、かなり揺れるな」

「まぁ、整備されていないのもあるでしょうけど、やはり馬車は揺れますね」


 ルナがガタガタと揺れる馬車に文句を言う。ただ、その声は当然小さい。

 慎司はと言うと、そんなルナの言葉に上の空で返事をしていた。


 揺れるのである。

 馬車ではなく、コルサリアの胸が。

 馬車の振動に合わせて、上下左右あらゆる方向へ、縦横無尽に動くそれは、まさしく兵器。

 幸いコルサリアは慎司の視線に気づいていないようで、呑気に馬車の旅を楽しんでいる。


「パパ?どこ見てるの?」

「どどどどこも見てないぞ!?」

「あはは、変なのー」


 アリスの突然の言葉にバレてしまったのかと、慎司は肝を冷やすが、どうやら単に気になっただけのようで、それ以上の追求はなかった。


 慎司はルナを見る。


 ────そこには平原が広がっていた。


 慎司の視線に気づいたルナが、首をかしげる。


「なんですか?」

「いや、なんでもない……」

「そうですか?気分が悪いとかならすぐに言ってくださいね」

「おうよ」


 今度はアリスを見てみる。

 言うまでもない。それはただの原っぱだ。


「なに、パパ?」

「ん、なんでもないぞ」


 ニッコリと笑顔でこちらを向いてくるアリスの頬を、むにむにと引っ張る。


「ひゃめへー」

「ごめんごめん」


 さて、次は本命のコルサリアを見てみる。


 ────山。


 その一言に尽きる。

 名付けるならばコルサリア山。


「……シンジ様?」

「い、いや!なんでもない!」


 コルサリアから向けられた視線に、なんだか悪い気がしてすぐに窓へと目をやった。

 窓からは既に王都へ行くであろう他の馬車がちらほらと見受けられる。


「お、そろそろ王都に着くみたいだな。案外早かったな」

「いや、3時間はかかってますからね?」

「もうすぐ王都に着くぜ!準備しときな!」


 馬車の旅も3時間。

 慎司達はランカンから王都へとたどり着いたのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 王都へは簡単な手続きで中に入ることが出来た。

 門にいる衛兵に冒険者証明書を見せると、すんなりと通してくれた。

 案外とあっさりした対応に、慎司は面食らったものの、他の人も特別な対応がある訳でもなくすいすいと人波が進んでいくため、流れに身を任せることにする。


「ご主人様、まずは冒険者ギルドに行くよう言われてましたよね」

「ああ、そもそもランク昇格のために来たからな。取り敢えずギルドに行くか。2人ともそれでいいか?」


 慎司は王都へ来た目的を知らないコルサリアとアリスに確認をとる。

 コルサリアは問題ないと頷き、アリスは人ごみに目を回していた。


「よし、んじゃ行くぞ」


 慎司は目を回しているアリスを抱えあげ、ゆっくりとした足取りで冒険者ギルドに向かうのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 冒険者ギルドにいる数は、女よりも男の方が断然多い。

 基本的に男は冒険者に憧れる傾向があり、女は浪漫を求めない人が多い。

 冒険者として名を上げて、富と名声を得るのは、確かに良い生き方だろうが、女は現実をよく見ている。

 富と名声を得る一握りの人間に自分がなれないとわかると早々にほかの仕事を見つけるのだ。


 だからこそ、男だらけのむさ苦しいギルド内に、18歳程度の慎司が金狐の美少女と銀狼の美女、さらに可愛らしい少女を連れて入ってきたのだ。

 途端にギルド内の冒険者達は騒ぎ出す。


「おい、なんだあいつ新入りか?」

「見たことないからな……」

「銀狼の女、すげぇ美人だなぁ」

「俺は金狐の子かな。あどけなさがそそる」

「なぁ、それよりあの黒髪の子だろ」

「衛兵に通報してくるわ」


 ルナは既に慣れたもので、冒険者達の不躾な視線にどこ吹く風だ。

 ただ、コルサリアとアリスは慣れていないようで、特にアリスなんかは怯えて慎司の腕に必死に抱きついていた。


「……手早く済ませてここを出よう」

「あまり居心地がいいとは思えないですからね」

「嫌な視線、です……」

「うー、早く出ようよパパ。ここ嫌い」


 各々が嫌な思いを抱く中、慎司は受付に向かう。

 受付には、猫耳が特徴的な女性が立っている。


「すみません、ランク昇格の件なんですが……」

「ギルドマスターからの手紙は持っているかニャ?」

「ニャ?……ええ、もらってます。これですよね?」


 慎司は見た目通りの語尾に苦笑しながら、ディグラスから貰った、Aランク昇格に関する手紙を手渡す。


「はい、受け賜りましたニャ!」

「これで昇格なんですかね?」

「いやいや、違うニャ。Aランクに昇格する時はここ、冒険者ギルド本部に来てもらってるニャ?それで、一旦ギルドマスターと会ってもらうニャ。そこで認められて初めて昇格ができるニャ!」

「なるほど、ありがとうございます」


 思ったよりも面倒臭い手順を踏まなければならないらしい。

 慎司はそこでふと、先程まで騒がしかった冒険者達が、皆一様に黙り込んでいるのを見て驚いた。

 何の気なしに後ろを見ただけだったが、皆慎司と受付嬢の話を聞いて冒険者達は必死に目を逸らす。


「シンジさん、ギルドマスターと会ってもらうニャ。こっちに来るニャ」

「あ、すみません。他に仲間がいるんですけど、一緒には行けないのですか?」

「んー……確か大丈夫だったはずニャ」


 慎司はその言葉を聞くと、ルナ達を呼び、受付嬢に案内されてギルドの奥へと向かった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 慎司達が奥へと消えていった後、残された冒険者達はにわかに騒ぎ出す。


「おい、Aランクとか何とか言ってたぞ」

「やべぇ、俺めっちゃ睨んじゃったわ」

「俺なんかあの男の女を見てたんだぜ?うわやべぇよこれ……」

「お前のことは覚えておこう」

「どれくらい?」

「ウルフの群れを前にしたゴブリンの余命程度だな」

「みじけぇ……」


 冒険者にはランクがある。

 新人はEから始まり、経験を積んで上がっていく。中でもCランクとAランクには壁があると言われている。

 まずCランク、いよいよ本格的な討伐依頼が張り出され、昇格するまでに力及ばず命を落とすものが多い。

 次にAランク、ここからは魔族の討伐であったり、劇的な戦果を上げない限りは昇格が許されない。

 そもそも魔族とはパーティー単位で当たるのが定石である。普通は低級でさえ単独で撃破することは叶わない。


 上級魔族を単独で撃破した慎司が、如何に非常識かが分かるだろう。


「魔族を殺せる奴に喧嘩売っちまうとは、俺も鈍ったものだな……」

「何言ってんだお前まだ若いじゃねぇか」


 冒険者達は、ガキが女を侍らせて冒険者ごっこをやってると思い、各々が視線をぶつけていたのだが、その相手が魔族をも倒せる格上だったと知り、恐怖を覚えるのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 慎司達は、猫耳猫尻尾の受付嬢の後ろに付いていく。

 ギルドマスターの部屋は、ランカンと同じで階段の先にあった。


「ここニャ」

「案内ありがとうございます」

「仕事の内ニャー」


 慎司は軽くドアをノックする。


「あ、入っていーよー」


 物凄く軽い感じで返された。

 慎司は自分の顔が引き攣るのを感じながら、扉を開ける。


 中に入ると、そこで待っていたのは1人の男性。ただ、軽い調子の声からは想像出来ない程の威圧感がその目には宿っていた。


「君が今回Aランク昇格の冒険者だね?」

「はい、クロキ・シンジです」

「……ホウトウの出身者か、珍しいね。僕の名前はカレントだ。よろしくね」


 まただ。慎司が名字まで名乗ると必ず話題に上がる『ホウトウ』という国。

 後でルナにでも聞いてみようと慎司は思う。


「ま、自己紹介はいいとして。君は魔族を倒したんだってね?」

「はい、低級と上級を1体ずつですが」

「そりゃ凄い!上級を1人で倒せる者は見たことも聞いたこともないよ」


 勝てた理由の殆どが自分の力ではないため、少し申し訳なく思い、慎司は謙遜する。


「いえ、装備が充実していましたので勝てたまでですよ」

「……君は何もわかっていないね。上級魔族ってのはね。Sランクの冒険者が束になってやっと勝てるぐらい強いんだ」


 慎司をじっと見つめながら、カレントは語る。


「それを1人で倒してしまうなんて、君は正直Aランクなんかには到底収まらない」

「……何が言いたいのですか?」

「単刀直入に言うと、君にはAランクではなくSランクに昇格してもらう。僕は実力に合ったランクであるべきだと思うんだ」


 Aランク昇格の話をしに、王都へ来れば何故かSランクまで上がってしまいそうだ。

 慎司は少し慌ててカレントに言葉を返す。


「そんな一気にポンポンランクって上げていいんですかね?」

「ああ、構わないよ。なんせ僕が全ての冒険者ギルドの頂点に位置する役職についてるからね。僕が認めるのなら、それは絶対だ」

「Sランクですか……何か面倒事は御免なんですが、そこの所はどうなんでしょう?」


 慎司としては、手の届く範囲が守れればそれでいいのだ。必要以上に力を得て、枷をされるのであればたまったものではない。


「ああ、心配しないでいいよ。別に今まで通り好きなように行動すればいいさ」

「それならば俺は別に構わないです」

「そうそう、Sランクになればかなり融通が効くようになるよ。買い物の値段なんかは変えられないけど、魔法学校の入学金は取られないし、高級な奴隷商でも断られることはなくなるだろうね」


 慎司はカレントの言葉に目を見開く。

 魔法学校の入学金がタダ。これはかなり良い特典である。


 レイシアに聞いた話では、王都には魔法学校がある。そこでなら、今まで上手く使えなかった魔法が、ちゃんと使えるようになるだろう。

 是非とも入学したいものである。


「なるほど、かなり良い待遇なんですね」

「それだけSランクは凄いってことさ。君には期待してるよ、頑張ってくれたまえ」

「期待に応えれるかは分かりませんが、仲間を守れるぐらいには頑張りますよ」


 こうして慎司はBランクから一気にSランクに昇格が決まったのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 元の場所に戻ると、早速ルナが話しかけてくる。


「ご主人様、Sランクになっちゃうなんて凄いです!」

「シンジ様は凄い方だったんですね……」

「パパすごーい!」


 ルナに続き、コルサリアとアリスも凄い凄いと褒めてくる。

 勿論その声は周りの冒険者達にも聞こえるわけで、今では慎司と目を合わせないように必死になっている。


「ま、用も済んだしさっさと出るか」

「はい、ご主人様」


 用もなく居座り、冒険者達を恐怖で縛り付けるのは良くないと思ったので、慎司は早々にギルドから退散することにしてのであった。


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