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30.予測不可能

 

 翌朝、慎司はいつものようにルナより先に目覚め、朝日を眺めていた。

 空は雲一つない快晴。王都へ行く日にしては、絶好の天気であろう。


「王都ねぇ……」


 王都は、ランカンよりもかなり広く、多くの商品が街には出回っているらしい。

 食べ物や武器、雑貨に服。なんでも揃うと言うのが王都の魅力らしい。


 実際に見た訳では無いが、話を聞いていくうちに、慎司の中での王都への期待は高まっていった。


 なんでも揃うなら、宿ではなく家なんか買ってもいいかもなぁ。なんて考えながら、慎司は召喚魔法について調べてみる。


 《召喚魔法》

 使用者の魔力量により、召喚される者が異なる。獣であったり、或いはかつての英雄すら召喚することができる。

 基本的には使用者に従うが、命令次第で変わる。


 どうやら案外自由が効くようだ。

 取り敢えず使うのは後回しにして、ルナが起きるのを待つことにする。

 ルナはいつも早起きしようとするのだが、どうしても慎司が早すぎるために、慎司より後に起きることになる。


「んん……またご主人様より遅いです」

「おはよう、ルナ」

「はい、おはようございます。ご主人様」


 少し耳をペタンと倒しながら朝の挨拶。

 それも一瞬、ルナはすぐに寝間着から着替え出す。

 勿論外に出ていくなんてことはしない。


 そう、しない。じっくりと見る。


「ご主人様……あの」

「ん?ああ、気にせず」

「せめて後ろは向いてくださいね」

「あっはい」


 ニコリと微笑むルナの背後には召喚魔法が使えないはずなのに般若が見えたらしい。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ディグラスに教えてもらった馬車がある所に行くと、既に馬車の準備は出来ており、所謂客待ちの状態であった。

 昨日のうちに準備はしてあるので、二人は早速王都行きへの馬車を探す。


「すみません、王都行きへの馬車を探しているのですが……」

「ん?それなら俺が乗せていってやろう。代金はいらねぇぞ、その代わり護衛をしてくれりゃいい」

「ありがとうございます!」


 適当に話しかけた人が丁度よく乗せていってくれるというので、ルナと2人で馬車に乗り込む。

 相場は王都までだと銀貨20枚と聞いていたのだが、護衛をすればタダにしてくれるらしい。

 別にお金に困っている訳では無いが、ルナと立てた方針は質素倹約。

 抑えられる出費は抑えていくのだ。


 こうして王都行きへの馬車は緩やかに動き出したのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 馬車に揺られること1時間とちょっと。

 突然馬車が止まった。


「どうかしましたか?」

「ああ、いや……あれを見てくれ」


 そう言って男が指さすところに目を向けると、そこには魔物に襲われている馬車があった。

 襲っているのはウルフの群れ。

 どうやら御者台に座っていた男は既に食い殺されたらしく、馬車内に残った者が怯えて固まっていた。


 馬車内には1人の女と幼い少女。

 馬車の周りにはみすぼらしい服を着た、顔立ちは良い女が赤黒い血を撒き散らして転がっていた。


 慎司は、ルナを馬車の防衛に残し、狼狽する男に助けに行くことと、防衛にルナを残すことを伝え、一気に駆け出した。


 幸い、ウルフ達が馬車内の女を襲う前に体を割り込ませることが出来た。


「大丈夫ですか!?」

「は、はい!」

「今こいつらを片付けますから、動かないでくださいね!」


 馬車内で、幼い少女を守るように抱いていた女は、慎司の言葉に緊張の糸が切れたのか、その場にぺたりと座り込む。


 慎司は、虚空からアルテマを呼び出し、片手剣の状態で構える。

 まずは右からウルフが攻めてきた。

 ウルフは馬車を半円状に取り囲んでおり、10匹の内、2匹が飛び出してきたのだ。


『シンジ、右です』

「ああ、見えてる!」


 先に突撃してきた方を袈裟斬りの要領で切り裂き、続くもう1匹を切り返した刃で討ち取る。


 残りは8匹、今度は慎司が仕掛ける。


「ファイアボール!」


 生み出した火球は5つ。

 それを左側に展開しているウルフ達に放つ。

 追尾性能のあるファイアボールは吸い込まれる様にウルフに当たり、その瞬間魔法連鎖した《ブラスト》がその身を焦がした。


 これで残りは3匹。

 ウルフは仲間の7匹が一瞬で倒されたことに警戒し、その場から一気に逃げ出した。


『シンジ、倒さないのですか?』

「今は馬車内の人を助けよう」

『良い判断だと思います』


 慎司はアルテマをしまい、馬車内で腰を抜かした女性に近づいていく。

 女性は酷く怯えており、その腕に抱かれた少女は、固く目を瞑っていた。


「ウルフは追い払いました、もう大丈夫ですよ」


 慎司がそう言うと、女性は張り詰めていた表情をいくらか綻ばせる。

 女性の髪の毛は輝く銀髪、その上にふさふさした耳が乗っていた。銀髪は腰のあたりまで伸ばされている。

 所謂銀狼族である。

 両の瞳にはめ込まれた真紅の瞳が、不安に揺れている。


「えっと、俺はシンジと言います。襲われていたところを助けに来ました。貴女の名前は?」

「コル、サリア……です」

「ではコルサリアさん、一旦俺達が乗ってきた馬車で話をしましょう。ここだと落ち着いて話ができないでしょうから」

「はい……」


 慎司は手を差し出し、コルサリアを立ち上がらせる。コルサリアは幼い少女を片腕で抱いており、その少女は未だに口を開くことも、目を開けることもなかった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 御者に説明をし、了承を得たところで慎司はルナと一緒にコルサリアの話を聞いていた。

 辛いなら話さなくていいと言ったが、コルサリアは殆ど話してくれた。


 曰く、親から奴隷商に身を売られ、王都で買われたらしい。馬車内にいたのは全部で5人、全員が奴隷だったそうだ。

 御者台に座っていた男に連れ帰られる所を運悪くウルフの群れが襲撃、男と奴隷仲間は殺されてしまったらしい。

 唯一生き残ったのは、コルサリアと少女1人だけ。死ぬのも時間の問題だと思ったところで、助けてくれたのが慎司だったというわけだ。


「それは、なんとも……」

「ご主人様……」


 できれば、なんとかしてやりたいと思った。

 ただ、彼女らは奴隷なのである。

 奴隷については、慎司もルナも明るくない。

 人の奴隷ならば、勿論手を出すことはできないだろうが、既に主人は死んでいるのだ。

 そこの所の扱いがよくわからないため、慎司は迷っていた。


「あの……シンジさんは何を悩んでるのでしょうか?」

「ああ、コルサリアさんを助けるにはどうしたらいいのかな……と」

「助ける、ですか?」

「ええ、ただコルサリアさんは奴隷なのでしょう?それなら俺達の仲間にはできないんじゃないかなって思いまして」


 すると、コルサリアはぽんと手を叩き、ある提案をしてきた。


「よろしければ、シンジさんが新たな主人になってもらえないでしょうか?」

「え?でも既に主人がいますよね?」

「ああ、主人が死んでしまった奴隷は基本的に契約が外れます。ですから、今ここでシンジさんの奴隷になることは可能なのですよ」

「なるほど……ですが、俺が主人なんかでいいのですか?」


 問題はそこである。別に奴隷とならずとも開放され、自分の人生を歩むことも選択肢にはあるはずなのだ。


「私は見ての通り銀狼族です。獣人は奴隷となるか冒険者となるか、安月給で使い潰されるかのどれかです。それに私は戦闘が苦手ですので、奴隷として召抱えられた方がお役に立てます」


 慎司は考える。コルサリアと少女を助けることによって発生するメリットとデメリットを。

 メリットは単純に人手の増加だ。

 デメリットは守る対象の増加。


「……わかりました。それでは俺と契約しましょう。今から俺がコルサリアさんの主人となり、守ります」

「いえ!そんな守るなんておかしいですよ!せいぜい愛妾ぐらいで良いですので」

「愛妾!?何言ってるんですか!」

「だって、あちらの方と……その、お付き合いされてるんですよね?」


 無論、ルナのことである。

 慎司は返答に困ってしまった。

 確かに慎司はルナのことが好きだし、ルナも慎司を好いてくれている。

 ただ、はたして付き合っているかと問われると、答えは難しい。


「まぁ、確かにルナは俺の『大切』ですけど、俺はコルサリアさんも仲間となった以上、ぞんざいに扱うことはしないですよ」

「ありがとう、ございます……お優しいのですね、シンジ様は」


 慎司は、そんなことない、と言いながら、抱かれている幼い少女の方へ目をやる。


「さて、コルサリアさんは問題ないとして、そちらの子は?」

「ええ、この子はアリスと言います。アリス、もう大丈夫だから目を開けていいわよ」


 コルサリアがそう言うと、アリスはゆっくりと目を開けて、周りをキョロキョロと見回す。

 アリスは慎司と同じ黒髪だが、やや焦げ茶色に近い色合いをしている。

 長い髪の毛は二つに結ばれ、下に垂らされている。

 瞳はダークブラウン、くりくりとした目はとても可愛らしい。

 コルサリアもそうだが、アリスもかなりの美少女であることは間違いない。


「コル姉……ここどこ?」

「私たちを助けてくれた人の所よ。ほらご挨拶して」


 アリスはルナを見て、ぺこりと頭を下げる。


「えと、アリス……です。よろしくお願いします」

「えーと、ルナです。こちらこそよろしくね、アリスちゃん」

「うん、ルナ姉って呼んでもいい?」


 その言葉にルナは大きく仰け反った。

 顔は紅潮して、鼻を抑えている。


「い、いいよアリスちゃん。どんどん呼んでね!」

「……?」


 何故か興奮するルナにアリスは困惑気味である。

 ルナは暫く顔を赤くしたままニヤニヤとしていたが、少しするといつもの様に戻った。


「アリス、ルナさんもだけどシンジ様にも挨拶をしないとだめよ」

「うん?……うん」


 コルサリアの言葉にアリスは頷き、ようやく慎司の方に目を向ける。

 先ほどと同じようにぺこりと頭を下げるので、こちらも何となく頭を下げる。


「アリスです、よろしくお願いします」

「ああ、シンジだ。よろしくな、アリス」

「うん、えーっと……あ、髪の毛の色、一緒!」

「そうだなぁ、目も一緒だな」

「おおー!一緒!」


 何故か共通点を見つけてはしゃぐアリス。

 慎司はそんな様子に頬を緩ませていたのだが、次の瞬間、アリスから飛び出た言葉により慎司だけでなく、ルナとコルサリアも驚愕し、一瞬時が止まった。


「一緒!一緒だから、パパ!」


 ────どうしてこうなった……。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 それから、何度かシンジ兄さん等に呼び直させようとするとだが、アリスは決してパパを譲らなかった。あれ程懐いていたはずなのに、今ではコルサリアではなく慎司の腕に抱かれて楽しそうにしている。


「アリスちゃん、おそるべし……私もご主人様にって、いけないいけない」

「アリス、大胆なのね……」


 その様子を見てルナは嫉妬を、コルサリアは少し天然気味な思いを抱いていたのだった。


「なぁ、アリス。パパってのはやっぱりやめない?」

「やめない!うー、パパはパパだもん」

「まぁ……うーん。でもなぁ」

「ご主人様、諦めましょう……?」


 悩む慎司の肩にルナはぽんと手を置く。

 そして、両手をサムズアップするのである。


「はぁ……しょうがないのかねぇ」


 こうして、半ば無理やりパパ認定されてしまった慎司は、コルサリアとアリスという新しい仲間を得たのだった。


新たな仲間が増えました。

アリスちゃんのパパ発言ですが、詳しくはまたの機会にということで。


銀狼族は、基本的に戦闘種族ですので、戦闘ができないことに本来なら驚くのですが、主人公は無知故にスルーしてます。

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