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気ままに異世界無双  作者: 塩をかけられたナメクジ
異世界での新生活
3/163

3.狼と精霊王と魔法

 慎司は、手に持つ木の実が何か得体の知れない物だとわかると、すぐに意識を切り替えた。


「俺はとても凄いものをもらったのかもしれないな……なんだ進化を促すって」


 木の実の説明を見る限り飲み込めばいいらしく、慎司は覚悟を決める。進化と言うのがどのようなものかはわからないが、特にこれといった害はないだろう。あったらその時はその時である。


「……味しねぇ」


 木の実はまさしく無味無臭、木の実自体もそれほど大きくないため簡単に飲み込めた。

 体には特に変化は訪れなかった。特定条件とやらをみたしていないのだろう。慎司はあまり深く考えずにおくことにした。


「さて、今度こそ探索をするとしよう」


 異世界での探索は鉄板なのではないだろうか。みんなするはずである。慎司は変な理屈の元に森をうろうろと歩き出す。

 生い茂る木々の根が所々土を盛り上げ歩きにくいが、そこは慎司の軍役中の経験が役に立った。山中での訓練など、何度繰り返したことだろうか、慎司は軽やかな足取りで森を練り歩く。


「さっきの狼に会ったらどうしようかねぇ」


 歩きながら、慎司は狼への対策を考える。太股にあった相棒は既にない。あんな大きさの狼を銃器なしには倒すことはできないだろう。

 それこそ魔法でも使わない限りには。


「魔法、使えるのかな……?」


 思いついてしまったからには、試さずにはいられないのが慎司の性格。早速魔法を使ってみようとする。


「ファイア!……サンダー!……」


 思いつく限りの呪文を唱えてみるが、魔法が発動する気配は微塵もない。

 もしかして魔法が使えないのだろうか、と慎司は少し沈んだ気分になる。

 しかし、大声をあげてしまったということは、周りに自分の存在を知らせてしまったということである。気づいた時には慎司の周りを3匹の狼が取り囲んでいた。


「グルルゥ」

「ちくしょう、やらかした!」


 狼たちは互いが等間隔になるよう囲んでおり、逃げ出す隙間は見つからない。頼みの魔法も発動する兆候すら見せないし、慣れ親しんだ拳銃や自動小銃たちはこの世界には存在しない。

 慎司が絶望的な状況の中なんとか活路を見出そうとするが、焦りが思考を邪魔する。


「ガァ!!」


 覚悟を決める暇もないまま、慎司が不格好なファイティングポーズを取ろうとすると、背後を見せた一瞬を突いて狼が飛びかかってきた。大きさは最初に見た狼よりは小さい。

 だが、その牙は紛れもなく獲物を仕留めるための武器だ。


「くそっ!」


 狼は直線的な軌道で襲いかかってくる。慎司は咄嗟に地面を転がり狼の攻撃を躱した。

 少将まで上り詰めたのは伊達じゃない。慎司は一瞬で覚悟を決めると狼の攻略法を探す。


「グルゥ……」


 じりじりと慎司を中心とした狼の包囲網が狭まってくる。このままだと慎司の体に狼の牙が届くのは時間の問題だろう。先程から咄嗟の判断で右に左にと躱しているが、それも長くは持たない。一刻も早く状況を打破する手を考える必要があった。


「ガァ!!」


 再び襲いかかってくる狼。

 慎司も慣れたもので、その場からあまり動かず攻撃を回避し、他の狼の追撃に備える。

 既に余裕はない。

 慎司は泥臭いが己の拳を信じることにした。


「グルルゥ……ガァ!!」


 目の前の狼が飛びかかってくる。それを右に体を逸らし回避し、すれ違いざま狼の顔に右の拳を叩きつける。


「うおおおお!!」


 腰の捻りが加わったいい一撃だと感じた。

 拳が狼の顔に吸い込まれるように向かい、ドパンッ!という音をあげた。

 渾身の右フックをカウンターでもらった狼の頭は吹き飛び、辺りに血が飛び散った。


 《体術スキルを習得しました》

 《レベルが上昇しました》


 頭によくわからないアナウンスが流れる。

 慎司には、そんな不可思議な現象より己の拳がもたらした惨状の方が大事だ。

 すなわち、ただのパンチで狼の頭を消し飛ばしたのである。

 これには慎司も言葉を失った。神様からもらった強靭な肉体とやらは、規格外過ぎて扱いに困る。


「ま、まぁこれでなんとかなりそうだ」


 思考も程々に、慎司は残った狼に向き直る。今なら恐怖は感じないどころか、倒してやるという高揚感さえある。


「来いよ、犬っころ。少将を舐めてんじゃねーぞ!あぁ!?」

「ガァ!!」

「グルルゥ」


 高ぶる気持ちのまま狼を挑発すると、二匹同時に攻撃してくる。

 アナウンスで流れた《体術スキル》のおかげだろうか。自然と体が動いた。

 先に迫る狼に右手を振り抜き、遅れたもう1匹に流れる様に裏拳を繰り出す。

 もちろん慎司の攻撃で狼は頭を消し飛ばされ絶命、完勝である。


 《体術スキルのレベルが上昇しました》

 《レベルが上昇しました》

 《レベルが上昇しました》


 再びアナウンスが頭の中に響き、慎司は勝利を確信した。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「意外となんとかなったな……なんだこの体。強すぎるだろ」


 およそ人間とは思えない威力のパンチ。それに身に覚えのない体捌き、少将として活躍してた頃にはあんな動きは出来なかった。白兵戦が苦手だった訳では無いが、先程の体術はそれとは違う、と慎司は感じていた。


「それに、レベルってなによ?ゲームか?」


 頭に響いた不思議なアナウンス。《体術スキル》とレベルの上昇が知らされた。

 現状、自身のステータスやスキル、レベルを確認する手段はわからない。これも後で調べる必要があるだろう。

 そう考えながら慎司は既に敵ではなくなった狼を瞬殺しては、アイテムボックスに放り込んでいく。アイテムボックスに入れる理由は単純で、街なり村なりにたどり着いた時、売れるかと思ったからだ。

 少なくとも慎司の知ってるウェブ小説では売れていた。


「これで50匹目だなぁ……狼多いな。ただ、あのでかい奴はまだ見てないが」


 あれから50匹は狼を狩っているが、最初に見た大きな狼は見つかっていない。もしかすると森の主なのかもしれない。慎司は少しの期待を胸に森の奥へと歩いて行く。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 どのくらい歩いただろうか、瞬殺した狼が300匹に差し掛かろうという時に慎司の耳に誰かの話し声の様なものが聞こえた。


「ニンゲンだ……」

「ニンゲンがいる……」

「なにしにきたのかな……」

「ニンゲン、聞こえてる……?」


 声は聞こえど、姿は見えない。

 その正体に慎司には心当たりがあった。

 精霊である。


「聞こえているぞ、姿は見えないがな」


 そう言葉を返してみると、まるで森が動揺したかのように木々がざわめきだす。


「すごい、ニンゲン聞こえてる」

「お話できる」

「知らせなきゃ、知らせなきゃ」

「ニンゲンには見えない」

「精霊だから、見えない」


 大当たりである。慎司は口の端が吊り上がるのを我慢出来なかった。異世界の定番である精霊とこんなに早くコンタクトが取れたのだ、喜ばずにはいられない。


『貴方には、私の声が聞こえますか?』

「あ、ああ。聞こえるぞ」


 慎司がつい喜びの舞を踊りだしそうになっていると、後ろから物凄く澄んだ声が聞こえた。余りにも澄んだ声のため、変に緊張して返事がどもってしまう。


『では、姿は見えますか?』


 そう言って、目の前に現れたのは薄いベールを身にまとった女性だった。淡い色のベールは素材のせいなのか半透明で、下に隠された女性の妖艶な肢体が透けて見える。その美貌は女神もかくやと言うべきか、言葉が見つからない慎司は惚けたように口をぱくぱくとした。腰まで届いている髪の毛は光の反射で色を変え、薄い緑色の瞳がこちらを見つめている。

 慎司は口を閉じて気を取り直し、見えていると返事を返した。


『驚きました。ニンゲンが私達精霊を知覚できるだなんて。私は精霊王のリーティアと言います。ニンゲン、貴方の名前は何と言うのですか?』

「……俺は黒木慎司だ」

『クロキ・シンジ……。覚えておきましょう、私は此度の出会いを忘れることは無いでしょう。シンジ、貴方はどうしてここに来たのですか?』


 矢継ぎ早に質問してくるリーティアに、慎司は少し押され気味だ。ただでさえ女性との接点が少ないのだ。軍では男ばかりつるんでいたための弊害である。

 ただ、優しい声音のリーティアに質問されると不思議と緊張は和らいでいった。


「特に理由はないんだ。気がついたらこの森にいた。それで、身を守るために狼を倒していたらいつの間にかこの場所に着いたんだ」

『なるほど、シンジは謎めいていますね。質問なのですが、どうしてシンジはそんなに魔力を抑えているのですか?』


 リーティアの言葉には引っ掛かる箇所があった。慎司は別に魔力を抑えている訳では無い。それどころか魔力自体を知らないのだ。

 その事を告げると、リーティアは怪訝そうな顔をして慎司に近づいてきた。緑色の両の瞳が嵌め込まれた整った顔が間近に迫る。


『シンジ、少し体に触れてもいいですか?気になることがあるのです』

「ああ、それは構わないが……気になることってなんだ?」

『私達精霊は相手の魔力をオーラとして感じ取ることができます。しかし、相手がそれを隠している場合、オーラは見えなくなるのです。これがシンジの言う通り隠していないとなると、考えられるのは魔力回路の接続不良となります』


 リーティアはそう言いながら慎司の胸に手を置く。暫らくするとやっぱり、と言いながら慎司の顔を見つめてきた。


『シンジ、やはり貴方の魔力回路は乱れています。私なら正常に戻すことが可能ですがどうしますか?』

「悪いけど、やってもらっていいか?」

『少し痛むかも知れませんが、我慢してくださいね』

「え、痛むのか?」

『強引に回路を接続し直すのです。多少は痛みますよ。ただ、魔力量にもよるのでそこまで心配はいらないと思いますよ』


 ニッコリと笑いながらリーティアは慎司の胸に両手を当て、目を閉じた。何かを探るようにした後小さく、始めますと言うとリーティアは回路の接続し直しを始めた。


「お?なんか温かいな」


 と慎司が気を抜いた瞬間、体が引き裂かれるような痛みが慎司を襲った。


「があああああああああ!!!!」

『我慢してください、もうすぐですから』


 リーティアがそう言うが、慎司は痛みが酷すぎてまるで聞こえない。とにかく体が真っ二つになるような痛みに、関節が焼けるように痛むのだ。到底我慢できるものではない。暴れだそうとする体を必死に意志の力で押さえ込む。


「ぐううううっ!」

『後少しです!』


 意識を手放しそうになる。脳を痛みだけが支配する。


『終わりです……大丈夫ですか?』


 声をかけられたことに気づくが、痛みがひどくてまともに喋れない。それどころか未だに痛みは続いている。


「大丈夫、だ……」


 この一言を発するのに3分もかかった。やっと痛みも引き、脳もまともに働き出す。

 意識の外にあった体の状態を認識すると同時に、体内を流れる魔力という物が知覚できるようになる。


「これが、魔力ってやつか」

『そうですね。ただ、シンジはニンゲンにしては多すぎる気がするのですが……』

「誤差だろ、誤差」


 魔力を感じられるようになったことで、慎司は大事なことに気づく。今なら魔法が使えるのではないだろうか。


「リーティア、初歩的な魔法を教えてくれないか?」

『魔法ですか?構いませんよ。ファイア!』


 リーティアが鋭く呪文を唱えると突き出した腕の指先に真っ赤な炎が現れた。


「おおお!すげぇ!魔法だ!」

『これくらいならシンジにもできるはずですよ?指先に火を出すイメージをしてください。強くイメージするのがコツです』

「よしわかった、ふん……!」


 慎司は炎をイメージする。赤く、燃え盛る猛き焔を、強く、強くイメージする。


 《火魔法を習得しました》

 《無詠唱を習得しました》


 またアナウンスが響いたかと思うと、慎司の指先にバスケットボールぐらいの火球が生み出された。慎司の予想をはるかに超えて大きい。


「あれっ?思ったより大きいぞ」

『シンジ、初めての魔法の割には詠唱も無しにさらりと成功させましたね。魔法の素質があるのかもしれません』


 これが神様の言う素質なのだろう。チート様々である。


「ありがとう、リーティア。おかげで魔法を習得できた」

『いいのです。私も私を知覚できる者と話すことが出来て嬉しかったのです。精霊王たるこの身と話すには非常に強力な魔力の持ち主でないといけないのです。シンジ、ありがとうございました。また話せることを願っています』

「ああ、その時を楽しみにしてるぜ」

『では、再会を願って貴方には加護を与えておきましょう』


 《精霊王の加護を得た》


 また、頭にアナウンスが響く。慎司はリーティアに礼を言い、その場を後にした。

 新しく手に入れた魔法、さらに精霊王の加護。異世界の鉄板を一気に二つである、慎司は満足した気分でさらに奥へと進んでいくのだった。


※一部人物の描写に修正を加えました

※誤字の修正をしました。

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