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29.神様と贈り物

 

 下を見下ろしながら、男は笑う。


「おい見ろよ、記憶がなくなって壊れるかと思ったら……くくっ、街を救った英雄になっちゃったよ」


 笑うのは、慎司を送り込んだ本人。

 隣では、困ったような顔をする女性がいる。

 彼らは、雲の上の存在。或いは神様と呼ばれる身でありながら、その性格は極めて悪い。


「はぁ……いい加減にしたらどうですか?彼で遊び過ぎると世界が壊れますからね?」

「わかってるわかってる。でも面白いんだから仕方ないだろう?まさか記憶をなくしても立ち直るなんてねぇ……。ちゃんと大切な記憶から消していってあげたのにね」

「ほんと性格悪いわね、あなた」


 男は、ケタケタと笑いながら思案する。


 ────次は何してあげようかな。


 そんな悪どい顔を見て、慎司に同情した女は、ある一つの能力を慎司に与えてやった。

 個の力があったとしても、数の力の前には負ける場合もある。

 手助けになるかは分からないが、どうか壊れない様にと、女は思う。


「あはははは!この狐の少女……面白いねぇ。彼の支えになってるのか。壊すのも……」

「それはダメよ、彼は理から外れているけども、その少女は理の中にいる。干渉は禁じられてるわ」


 男の言葉にしかめっ面をした女がそう返すと、男は拗ねる様に口を尖らせる。


「ちぇっ……わかってるよ」

「ほんとにそうかしら。時々あなたが怖いわ」


 男は笑い、女はため息をつく。

 二人を知覚出来るものはおらず、不可侵の存在である二人はただ世界を眺めるのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 慎司が目を覚ますと、目の前には可愛らしい少女の顔があった。

 昨日、そのまま抱き合って寝たのだから当たり前ではあるが、意識の外にあったものが急に近づいた様に思える分、胸の高鳴りは増す。

 早まっていく鼓動を感じながら、慎司は静かにベッドから抜け出る。


「……いい朝、だな」


 まだ少し暗い空は、夜の名残を残したままで、上る太陽と薄らぐ月。

 二つが幻想的な光を生み出していた。


「……アルテマ」

『なんでしょう、シンジ』

「俺は、間違ってないよな?」

『質問の意図がわかりませんが』

「俺もわかんね。なんでもない」

『そうですか』


 何に対して『間違っている』のか、生き方か、在り方か、はたまた記憶か。

 慎司には何もわからなかった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ルナが起きてくるのを待って、二人はいつものようにギルドへ向かった。

 街を歩く時は、なんとなく手を繋いでいた。

 ルナは尻尾をぶんぶんと振って喜びを示していたことから、慎司は胸に温かい何かが灯るのを感じつつ、足を進めて行くのであった。


 ギルドに入ると、中にいた冒険者達は一斉にこちらを見る。

 その視線はほとんどが好意的なものであり、ニヤリと笑ってくる者までいる。


「よぉ、シンジ!昨日は大活躍だったじゃねぇか!」

「はは、そうでもないさ。全員が頑張ったからだろう?」


 そう言って話しかけてきたのは、防衛中には見かけなかったグリッドである。


「そういえば、グリッドはどこにいたんだ?」

「俺らは遊撃隊だったんでな」


 グリッドは近接戦闘部隊には属していなかったらしく、どうやら遊撃隊だったらしい。

 魔法使い部隊にレイシアがいなかったのも、それが理由だ。


「まぁ、とにかくお前が頑張ったのは変わりねぇからな。よくやったと思うぜ」

「……ありがたく受け取っとくよ」


 慎司に話しかけてきたのはグリッドだけであり、他に殆ど知り合いもいない慎司は、直ぐに依頼を探そうとする。

 すると、受付にいたミーシャが声をかけてきた。


「シンジさん、ちょっといいですか?」

「はぁ、なんでしょう?」

「ギルドマスターがお呼びですので、案内をさせて頂きます。よろしいですか?」


 何かしただろうか。慎司は何も悪いことはしていないと思うのだが、呼び出される理由がわからない。

 そんな困惑した表情を浮かべていると、ルナが袖を引っ張ってくる。


「ご主人様、多分1人だけ戦果が凄まじいからだと思いますよ?」

「あー……あ?そんな凄いことしてない……」

「してます。とてもしてます」


 慎司は、正直薙ぎ払っただけであまり苦労はしていないので、凄さがわからないが、ルナ曰く凄いことらしい。

 とにかくミーシャに案内され、前にも入った部屋へと足を踏み入れる。


 そこには、前と同じようにディグラスがいた。

 向けられた両の瞳は、こちらを見透かそうとしている様に感じる。


「さて、早速だが本題だ」


 慎司とルナが椅子に座るのを待ってから、ディグラスは口を開いた。


「今回の魔物の大氾濫において、君たちの活躍は凄まじいの一言に尽きる。主にシンジ君……君は本当に人間かね?」

「そのつもりですけど……」

「冗談だ。まず魔物の増殖が突然止まったことだが、魔法陣……だったか?どういうことなんだね?詳しく頼む」


 果たして話しても大丈夫なのか。

 一瞬悩むものの、隠すことでもないため素直に話していく。


「魔物たちの奥にですが、大きな魔法陣がありましてね。それを無力化したら止まりました」

「なるほど……魔法陣には守りとなる魔物はいなかったのか?勿論いたんだろう?」


 ディグラスが鋭く質問をしてくる。疚しいことをしているわけではないので答えるが、その度に自分の非常識さを指摘されている気分になるのだ。


「上級魔族がいました」

「じょ……上級と言ったか?それは本当か?」

「ええ、ちゃんと『確認』しましたからね。間違いなく上級魔族でしたよ」

「それで、戦ったのかね?いや……君のことだし戦ったのだろうな」


 なんだかディグラスは頭を抱えだした。

 隣にいたルナは既に固まっている。


「ええ、まぁ戦って勝ちました。それで魔法陣を無力化できたわけですね。そこからは、魔物たちを後ろから殲滅していったわけです」

「そ、そうか……上級魔族と1対1で倒したというのかね。そうか……」

「まずかったですかね?」

「あー、いや問題は無い」


 それならどうしてディグラスは頭を抱えているのか。慎司は不思議に思いながら隣にいるルナの尻尾に手を伸ばす。

 ふさふさの尻尾を弄りながら、ウンウンと唸るディグラスを待つ。


「……上級魔族を1人で倒すんだ、それならもうAランクに上げても問題ないだろう。というわけでシンジ君、君には王都まで行ってもらいたい」


 どういうわけなのか。

 慎司がAランクに上がることと王都に行くことになんの関係があるのだろう。


「なんで王都に?」

「ああ、冒険者ランクがAに上がる時には、王都にある冒険者ギルド本部に行って手続きをしなければならないんだ。Sランクに上がる時もそうなるね」

「はぁ……面倒臭いんですね」

「そう言うな、これも決まりだからな」


 ディグラスは笑いながら言ってくるが、慎司は笑い事ではなかった。

 とにかく情報が足りないのだ。

 王都までの行き方、王都についての情報、全てがわからない。

 そう、困っていると、ディグラスから嬉しい言葉がかけられた。


「王都までなら、馬車が出るはずだから、それに乗っていくといい。確か明日の朝からの馬車があったはずだ」

「なるほど、ではそれで行ってこようと思います」


 こうして、王都に行く方法は判明。

 あとは明日の朝になるまで待機となる。


 慎司は馬車がどこから出るかをディグラスに聞き、お礼を言うと固まっていたルナを再起動させて、一旦宿へと帰るのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 帰り道。

 隣を歩くルナが慎司に話しかける。


「ご主人様、ほんとに凄いですね。上級魔族を1人で倒しちゃうなんて……」

「凄いのか?上級魔族と言っても少し強いぐらいだったと思うんだが……」

「ご主人様、普通の冒険者は上級魔族と対峙した時点で命はありません」


 上級魔族強すぎるだろう。

 そう慎司は思って、ルナに反論する。


「いやいや、それは流石にないだろ」

「……それ本気で言ってますか?私じゃ間違いなく勝てませんよ」

「そうなのか……」


 自分の非常識さに項垂れながら、ふと気になったのでルナを鑑定してみることにする。


 《ルナ:金狐族》

 Lv.37

 HP680/680

 MP450/450


 STR120

 VIT100

 DEX150

 INT85

 AGI200


 思っていたよりも強かった。

 冒険者になってそこまで日は経っていないはずだが、見てないうちにかなりの数の魔物を倒したのだろうか。


「ルナ、強くなったんだな」

「へ?なんですか急に」

「あー、なんでもない。気にするな」

「……気になりますよ」


 ルナはなんとか聞き出そうとしてくるが、独り言を聞かれて恥ずかしかった慎司は、結局言わなかった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 そんな他愛もない話をしながら宿へ帰ると、机に1冊の本が置いてあった。


「なにこれ?魔導書か?」

「ご主人様の持ち物じゃないのですか?」

「ルナのでもないか……えーと」


 本を手に取り、表紙を確認すると、『猿でもわかる召喚術』と書かれていた。

 なんだかバカにされたような気がしてならないが、気にしないことにした。


「ルナ、念のため下がっていてくれ」

「は、はい」

「よし、開けてみるぞ」


 もし何かの罠が仕掛けられているのなら、近くにいるのは危ない。そう考えて慎司はルナを遠ざける。

 そして、表紙をめくり十分な注意をしながら中身を見ると、そこには罠も何もなく、ただ召喚術について記されていた。


 《召喚魔法を習得しました》


 頭の中に響くアナウンス。どうやら本当にただの魔導書だったようだ。

 慎司はササッとスキルポイントを割り振ってレベルを最大にしておく。

 必要なさそうであれば上げないが、今回の召喚魔法は何かと便利そうである。

 もし使えないとなれば、レベルを下げれば問題ない。


「ご主人様……大丈夫ですか?」

「うん、問題ない。ただの魔導書みたいだ」


 召喚魔法は、是非とも試したいものだが、あいにくと明日に向けて準備がある。

 明日にでも試せばいいかと、慎司は後回しにしてその日は準備を終えただけで、夕飯とシャワーの後はすぐに寝たのであった。


※誤字を修正しました

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