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26.魔物の大氾濫

 

 慎司は、ランカンを囲む壁の上に立っていた。

 近くには魔法を使える者が集まっており、その全員が押し寄せる魔物の軍勢を睨みつけていた。


「おいおい、なかなか多いぞ」

「何?怖気づいたの?」

「は?バカ言うなよ、名を上げるチャンスだろうが。俺はやってやるぜ」


 そんな会話をして緊張を解そうとする者もいれば、ひたすら瞑想して集中力を高める者もいる。

 魔法使いというものは基本的には近接戦闘が苦手である。

 魔法の習得、練習にかける時間が膨大なため、体を鍛える時間がないためだ。


「おい!見ろよ、ゴブリン共の影に隠れてるけど、ゴブリンメイジが何体かいるぞ」

「よし、弓使いの奴らに知らせろ!放っておくとめんどくさい事になる!」

「わかったぜ!」


 冒険者達はゴブリンの大群の中に、魔法を使えるゴブリンメイジが混じっているのを見つけると、すぐに弓使い達がいる方へ伝令を送った。

 ゴブリンメイジの使う魔法はせいぜい初級魔法程度であるが、それでも近接戦闘部隊にとっては近づく前に攻撃されてしまうため、面倒極まりないのだ。


 徐々に近づいてくる魔物達。

 それを見て多くの冒険者はタイミングを図って詠唱を開始する。

 魔法の基本的な射程は弓よりも長い。

 視界内であれば魔法使いは魔力次第でどこへでも攻撃できるのだ。

 詠唱時間を考えると、魔法は連射が効かないため弓よりは継戦能力においては負けるが、火力と射程で勝るのだ。


「よし、叩き込め!」


 誰かがそう言った。

 それを合図に冒険者達は様々な魔法を放つ。

 火、水、風、土。基本の四属性が殆どであったが、中には光や闇属性の魔法も見受けられる。


 《闇魔法を習得しました》


「お?闇属性もちゃんと習得できたみたいだな……」


 頭の中に響いたアナウンスが、慎司に闇魔法の習得を知らせる。

 これで六属性が揃ったわけであるが、今はそれを喜んでいる場合ではない。

 手早くスキルポイントを割り振り闇魔法のスキルレベルを最大まで引き上げる。


「くそっ、まだ全然残ってるぞ!」

「うるせぇ!しゃべる暇があったらさっさと詠唱しろ!」


 冒険者達の魔法は、確かに魔物を多数屠ったのだが、それでも魔物の数はまだ多い。

 慎司は、比較的魔物の数が多い所へ魔法を放つことにする。

 使う魔法は上級魔法の中で唯一扱える火属性上級魔法だ。


 詠唱はいらない。

 慎司には《無詠唱》のスキルがあるからだ。

 自分の中にある魔力を練り上げていき、頭上に巨大な火球を生み出す。


「……メテオフレイム!」


 生み出した火球の大きさは半径3メートルは優に超える。

 慎司はそれを魔物達にぶつけた。

 激しい轟音と共に立ちのぼる火柱。火球は凄まじい熱量を持って魔物を焼き尽くしていく。


「おお……」

「あれ、上級か?使える奴なんていたのかよ」

「上級魔法が使えるなんてかなりの凄腕だな」


 慎司の凄まじい威力を誇る魔法を前に、冒険者達にどよめきが起こる。

 慎司の魔法は大草原を埋め尽くしていた魔物達の数をかなり減らした。


 慎司はと言うと、思っていたよりも凄まじい威力の魔法にドン引きしていた。


「うわぁ……なにこれ……」


 こうして魔物に対する第一陣の攻撃は、魔物側に多大な被害を与えることに成功したのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 第一陣の攻撃により、かなりの数が減った魔物であったが、依然としてその数は冒険者達を上回る。

 近接戦闘部隊として、南門から出てすぐの場所に待機している冒険者達は、慎司の放った魔法を見て騒ぎ出す。

 上級魔法というものはそもそも使える人が少なく、あまり目にすることがない。

 それに、上級魔法が使える程の人物ならば無名な訳がない。

 慎司が上級魔法を使えることは知られていないため、冒険者達からすれば、放たれるはずが無かった魔法なのである。


「すげぇな、魔法ってやつは」

「ああ、誰か知らんがとんでもない奴が紛れているようだな」


 そんな声を聞いて、ルナはほくそ笑んでいた。

 慎司と一緒にいると言ったルナであったが、魔法は使えないため、こうして近接戦闘部隊にいるのだ。

 ルナには、あの巨大な火球を放ったのが慎司だという確信があった。


「流石はご主人様です……!私も頑張らないと!」


 主人があれだけ大きな魔法を行使したのだ。奴隷である自分も頑張って役に立たなければならない。ルナはそう思うのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 魔法の詠唱が再び始まり、その隙を補うように弓使い達から鋭い矢が飛んでいく。

 じりじりと攻めてくる魔物達が、ついに弓使いの間合いに入ったのである。

 ただ、それは魔物達も同じであり、ゴブリンの中でも弓を扱えるゴブリンアーチャーや、ゴブリンメイジから散発的に攻撃が繰り出される。


 近接戦闘部隊は、まだ動かない。

 彼らの役目は削りきれなかった魔物が街に入るのを防ぐことであり、一先ずの攻撃は弓使いと魔法使いの役目であるのだ。

 ただ、そのまま何もしないのでは攻撃を受けてしまう。

 そこで、大きな盾を持ったパーティーの前衛を担っているであろう者達が前に出る。

 冒険者達はその屈強な肉体と強固な鎧や盾を持って魔物達の攻撃に耐える。


「よし、交代だ!」


 ダメージ無しと言うわけにはいかないため、ある程度時間が経つと冒険者達は入れ替わる。

 回復魔法が使える者が、運悪く大きなダメージを受けてしまった者を癒していく。


 慎司は何度か魔法を放って魔物を攻撃したが、その数は一向に減らない。

 むしろ増えているのではないかとすら思える。


「うん?増えてねぇか?」

「お前もそう思うか、増えてるよな?こいつら」

「いいから詠唱しろって!」


 魔法部隊は門の上に陣取っているため、地上の部隊よりは魔物の数が増えていることに気づくのが早かった。


 慎司も、明らかに怪しいと思い、原因を探ろうとする。

 だが、こちらの知識の少ない頭ではいくら考えても原因がわからず、慎司は思考に行き詰まる。

 すると、剣状態であったアルテマが話しかけてきた。


『シンジ、大草原の奥に巨大な魔力反応があります。恐らく魔法陣によるものでしょう。それを壊さない限り、恐らく魔物は増え続けます』

「ほんとか!?それで魔法陣ってどうやって壊せばいいんだ?」

『簡単な話です。私を魔法陣に突き立ててください。そうすれば私が魔法陣から魔力を抜き取り無効化することができます』

「よし、それなら大丈夫そうだな。後はどうやって魔法陣まで辿り着くかだけど……」


 アルテマの話では、魔法陣を壊せば増殖は止まるらしい。だが、魔法陣までの道には魔物がたくさんいる。

 それに、勝手に壊しに行っては周りの冒険者達が不審に思うだろう。

 最悪元凶と間違われる可能性もある。

 まずはここを離れる理由が必要であった。


『シンジ、ワイバーンが接近してきます。上空からの滑空攻撃です。撃ち落としてください』

「くそっ、忙しいなぁ!」


 慎司は自分の周りにバスケットボール程度の大きさのファイアボールを生み出す。その数は50個、勿論《並列思考》のスキルがあってこそできる芸当だ。


「おい!上からワイバーンが来るぞ!」

「ダメだ、間に合わん!」

「ちくしょう!」


 慎司は周りに大声でそう言って、ファイアボールを打ち出した。

 飛んでくるワイバーンは100体以上。ファイアボールでは数が足りない。

 そこで、慎司は1週間の特訓のおかげで新たに習得したスキルを発動する。


「爆ぜろ!」


 慎司がそう叫ぶと、ワイバーンにぶつかった火球が膨張し、その場で爆発を起こした。

 《連鎖魔法》というスキルで、ファイアボールからブラストという魔法に繋げたのだ。


 効果は絶大で、ファイアボールに当たらなかったワイバーンも、空中で起こる爆発に巻き込まれ倒れていく。

 しかし、50個のファイアボールに対してブラストを繋げたのだ。

 慎司はその分のつけで酷い頭痛と共に味わっていた。


「くぅ……少し無理があったか」


 魔法は基本的に脳が処理を行う。魔法の構築から発動までのプロセスを脳が行うため、無理な魔法の行使は負担がかかるのだ。

 《並列思考》のスキルがあっても軽減しきれない痛みに耐えながら、慎司は被害がないか周りを見渡す。


 なんとかワイバーンを倒しきれたか、と安堵した束の間、運悪く残っていたワイバーンが1人の女性冒険者に襲いかかった。

 頭痛のせいで魔法が使えない慎司は咄嗟に体を滑り込ませようとした。


「グオオオオオン!」

「あぐっ!」


 だが、ギリギリの所で間に合わず、その冒険者はワイバーンに体当りされ、空中へ投げ出された。

 体当りをしたワイバーンはそのまま空中で身動きの取れない冒険者に追撃をかけようとしている。

 そこで、慎司は自分も身を投げ出し空中で引き寄せることによってワイバーンの牙から冒険者を救い出す。

 ついでにワイバーンにはアルテマの一撃をお見舞いしてやる。

 だが、それは同時に門の上から飛び降りる事と同義であり、重力に従って慎司は女性冒険者を抱えたまま落下していった。


「うおおおおお、落ちる!」

「きゃああああ!」

『シンジ、足に魔力を込めて蹴ってください。そうするしか、そこの女を助ける方法はありません』


 慌てる慎司に、アルテマが抑揚のない声で助言をする。

 慎司だけなら別に落ちても少し痛いぐらいで済んでしまうのだが、女性冒険者はそうはいかない。慎司の意を汲んだアルテマは、きちんと助ける方法を提示してくれる。


「足に!?」

『はい、魔力で板を作るイメージです』

「やるしかねぇなっ!」


 慎司は、言われるままに空中に板を作るイメージで空を蹴った。


 《空中歩行を習得しました》


 いつものアナウンスと共に、慎司に何かを蹴る感覚が伝わる。

 すると、落下していた体がふわりと浮かび、また落下を始める。

 何度か空を蹴り、落下の勢いを殺した上で慎司は地面に着地する。


「ふぅ……危なかった……」

「あ、あの……」

「ああ、大丈夫でしたか?」

「ええ、はい……」


 慎司の腕に抱えられた女性の冒険者は、信じられないと言った様子である。

 慎司が地面に下ろしてやると、女性は頭を下げてくる。


「あ、ああ、ありがとうございましたっ!」

「ああ、いえ気にしないでください。ここは危ないですから早く戻ってください」

「はいっ!それでは!」


 目に涙を浮かべながらも、女性はしっかりとした足取りで門へと走っていく。

 死の恐怖を感じても戦おうとする気概は、素直に尊敬できた。


 まったく想定していなかったが、慎司は合法的に持ち場を離れることが出来た。

 これなら最悪の事態になっても先ほどの女性が庇ってくれるかもしれない。


『シンジ、魔法陣を目指しましょう。距離はそう遠くありません』

「ああ、さっさと行くとするか」


 慎司はアルテマの言葉に頷くと、魔法陣がある場所目指して剣を片手に走り出すのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ルナは酷く動揺していた。先程女の冒険者と共に主人が門から落ちていったのである。どうやらワイバーンの攻撃から守ろうとしたみたいだったが、門から落ちたのでは、人間は助からない。


「ああっ!ご主人様!?」


 ルナは一気に駆け出そうとした。自分のスピードなら落ちる前に落下地点に回り込める。そう思ったのだ。

 周り込めれば、自分をクッション代わりにして、慎司を生かすことが出来る。

 そう思ったのだ。


「今行きます、ご主人様……って、なにあれ?」


 ルナは自分の目を疑った。

 落下していく慎司が、唐突に浮いたかと思うと、跳ねるようにして空を飛んでいたのだ。

 そんな有り得ない光景を前にして、ルナは思った。


 ────流石ご主人様!


 慎司ならなんでもできると思い始めたルナであった。


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