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22.ドラゴン討伐─後編


「うおおお!」


 グリッドが、両手で持った大剣をドラゴンに叩きつける。

 竜殺しの付与魔法がかけられた一撃は、ドラゴンに絶大な威力を誇る。


「グルルアア!」


 眠りを妨げられたドラゴンは、痛みに悶え吠える。

 グリッドは深追いすることなくバックステップで下がり、代わりにマルクが前に出る。

 マルクは、大きな盾を持っており、それを巧みに操りドラゴンの攻撃を防ぐ。


「ふんっ!」

「マルクさん!」


 大きな鉤爪の一撃は重く、受けるだけで精一杯だ。それはマルクも変わることはなく、反撃には転じられない。

 そこで、後方で詠唱をしていたレイシアの魔法が発動。

 マルクとの短いやり取りで、見事な連携を発揮する。

 マルクがドラゴンの大振りな攻撃を受けることなく避けたのだ。

 地面に対して攻撃を放ってしまったドラゴンは体勢が崩れ、大きな隙を生み出す。


「ウインドカッター!」


 その隙を逃すことなく、レイシアは右の翼に向かって魔法を発動。

 風系攻撃魔法の中級に位置するウインドカッターは、魔力で生み出した風で対象を切り裂く魔法だ。

 魔法は狙いを外すことなく翼に命中し、右の翼に深い切り傷を追わせる。


「よし!レイシアはもう一度詠唱だ!」

「時間は俺達が稼ぐ!」


 グリッドとマルクが再び前に出る。

 魔法は原理が理解出来ない限りイメージが足りずに失敗してしまう。

 そのため、慎司はスキルが最大でも魔法は使いこなせてはいなかった。

 名前からある程度予測できるものは大丈夫なのだが、上級ともなると、イメージが難しい。回復魔法ならば、傷が治るイメージで平気だったのだが、攻撃魔法はそうはいかないようだ。


「詠唱開始します!」


 レイシアがもう一度詠唱を始める。

 ただ、そこで問題が生じた。


「グルル……」


 ドラゴンが、前衛二人を尻尾でなぎ払い、作った時間を用いて何やら力を溜めだしたのだ。


『シンジ、ドラゴンは魔法を使おうとしています。属性は火、魔力量からして上級に位置するものでしょう』


 手に持ったアルテマから報告があがる。

 上級ともなると、威力も凄まじいのだろう。


「くそっ!魔法だ!詠唱を止めろ!」


 グリッドがドラゴンの様子を見て叫ぶ。ドラゴンの魔法はやはり危険らしい。

 弾かれたように駆け出すグリッドとマルク、マルクは大盾からハンマーに持ち替えており、ドラゴンに攻撃を加える。


「なぁ、アルテマ」

『なんでしょうか』

「吸収できるか?」


 慎司は、アルテマの効果を思い出し、聞いてみる。すると、アルテマは鼻で笑った後に自信たっぷりに言った。


『あの程度、楽勝です』


 その言葉を聞いた慎司は、ルナを下がらせドラゴンに向かい走り出す。

 時間はあまりない。既にドラゴンはその魔力を臨界点まで高めている。


「グリッド……、もう」

「わかっている!……全員退避だ、魔法防御!」


 前衛の2人の奮闘虚しく、ドラゴンはその魔法を発動させてしまった。

 エクスアジリティの効果で素早さが上昇している慎司は、一気に駆け抜け、グリッドの前に出る。


「なっ、シンジ!下がれ!」

「……大丈夫、任せろ!」

『シンジ、来ます。私で魔法を斬ってください』


 遂に放たれた魔法。ドラゴンの目の前に現れた魔法陣から大きな槍が形成される。

 それは炎でできているため、ゆらゆらと形を安定させてはいない。

 ただ、その熱量と威力は見た瞬間にわかる。


「グルルアアアアア!」


 解き放たれた豪炎の槍は凄まじい勢いで慎司に迫る。

 ただ、慎司の目にはそれが物凄く緩慢な動きに見えた。アルテマが脳の処理速度を一時的に引き上げているのだ。


『シンジ、アナタなら簡単な筈です』

「ああ、こんなの止まって見えるぜ!」


 慎司が槍を切り払うと、剣が触れた先から炎を吸収していく。

 あれ程大きな槍であったが、アルテマは問題なくその魔力を吸収する。

 後ろを確認すると、吸収した時に生じた衝撃波でグリッドとマルクが倒れていたが、外傷は特にない。転んだだけのようだ。


『シンジ、私でドラゴンを斬ってください。魔力を放出します』

「了解!」


 慎司はアルテマに言われたとおりに動く。狙うのは首元。

 鉤爪を避け、尻尾を飛び上がって置き去りにする。

 勢いを絶やさず慎司はドラゴンの首目掛けてアルテマを振るう。


「おらぁ!」

『全魔力開放、刀身を魔力でコーティング、魔刃を形成』

「グルルアアアアア!」


 アルテマが首を斬る瞬間、薄らとしたオレンジ色の魔力が剣を覆う。それは鋭利な刃物を連想させる鋭さを持っていた。

 構築された魔法の刃は、容易くドラゴンの鱗を切り裂き、振り抜いた剣はその太い首を切断した。


『ドラゴンの生体反応微弱……消失を確認。おめでとうございます、シンジ。我々の勝利です』


 アルテマの言葉と共に、ドラゴンはその大きな体を地面に横たえる。

 既に獰猛な光を宿していた瞳には生気がない。

 それを確認して、慎司がグリッドに親指を立てた握りこぶしを突き出す。


「やったな、グリッド!」


 その様子に、勝利を実感したメンバーは、勝鬨を上げるのであった。


 ────無論、ルナは小躍りである。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 勝利の後は、戦利品の回収である。

 ドラゴンは、財宝を溜め込む習性があるらしく、今回のドラゴンも例に漏れず、巣にたくさんの金銀財宝を溜め込んでいた。


「お、これなんか良さそうだな」

「アンタしか使えないじゃないの。アタシのも探してよね」


 中には、特殊な効果を持つ武器や防具もあり、討伐に参加した全員が喜びの声とともに財宝を漁っていく。


「お、この剣とか良さそうだな」

『シンジ、私以外の剣を使うのですか……?』


 ちなみに、慎司は新たな剣を得ることは無かった。剣を手に取ると、アルテマが物凄く悲しそうな声を出すのだ。罪悪感に駆られ、慎司は武器を諦めたのだった。


「ご主人様、これなんかどうでしょう!」

「なにこれ、ローブ?」

「はいです!」


 ルナが差し出してきたローブを鑑定で見てみる。


 《聖者のローブ》

 回復魔法使用時に回復量と範囲にボーナス


「うわぁ……またこういう……」

「ご主人様?」

「あ、いや。なんでもない」


 またもチートである装備品を手に入れてしまった慎司は、顔に手を当てて空を仰ぐ。

 ルナがそんな様子の慎司を訝しむが、気にするなと手を振る。


「あ、ご主人様これはどうでしょう?」

「んー?」

「ネックレスー」


 ルナの楽しそうな声に反して無言で鑑定していく慎司。


 《魔極の首飾り》

 攻撃魔法の威力と範囲にボーナス


「ま、またこういう……」

「ご主人様!?」


 頭を抱える慎司に、ルナが慌てて駆け寄る。

 慎司は、段々と自分のチート能力に呆れてきた。

 現状、ただでさえ魔法に関してはチートだというのに、さらにチート能力が加わったのだ。

 頭を抱えてしまうのも仕方が無いだろう。


「ルナは、何にするんだ?」

「うーん、何がいいでしょうか?」


 そこで、慎司は1つのローブに目をつけた。

 白を基調とした布地に、金色の糸で刺繍が施されているのだ。

 ルナの綺麗な金色の髪の毛がよく映えるだろう。慎司は、ローブを鑑定してみる。


 《従者のローブ》

 主と認めた者に対する忠誠心が高いほどステータスが上昇する。

 忠誠心の度合いにより特殊効果が発動する。


 これまたチートであった。

 発動する特殊効果というものが分からないが、多分凄まじい能力なのだろう。


「あ、はい。これとかルナに似合いそうだぜ、ほら白いからルナの金髪が映えそうだ」

「に、似合いますかね……装備してみます!」


 ルナは慎司の言葉にいそいそとローブを装備する。実際にローブを装備したルナは、思った通り白のローブが金髪を引き立て、とても可愛かった。


「どうです、似合ってます?」

「お、おお……すげぇ似合ってる」


 もじもじとするルナが可愛く、慎司は言葉に詰まってしまう。

 段々と形成されていく桃色の空間に、いち早くそれを察知したアルテマが待ったをかける。


「シンジ……他にも人がいるんですよ?」

「……うん、そうだね」

「……ちっ」


 アルテマのジト目に、慎司は直ぐに態度を改める。

 ルナが舌打ちをしたような気がするが、慎司はルナがそんなことするはずないと気にしないことにした。


「あ!ご主人様これ凄いです!」

「具体的に言ってくれ」

「体が軽くて、今なら何でもできそうです!」


 恐らく装備の効果であろう。身体能力の増加を体が軽いと表現したルナは、その場でぴょんぴょんと跳ねている。


 その様子は、他のメンバーでも同じで、慎司たちは、しばらくの間ドラゴン討伐と財宝への喜びの余韻に浸るのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  魔法は原理が理解出来ない限りイメージが足りずに失敗してしまう。  そのため、慎司はスキルが最大でも魔法は使いこなせてはいなかった。 スキルレベルってあまり意味無いですよね
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