21.ドラゴン討伐─前編
前後編になっちゃいました。
ドラゴン討伐は、次になる予定です。
朝。
それは朝日を眺めながら優雅に過ごすものであったり、或いは慌ただしく、一刻を争いながら家族と過ごすものであったり。
「なんでこうなった……」
決して美少女2人に挟まれ身動きを取れない状態で迎えるものではない。
そう、慎司は思う。
「苦しい……早く起きてくれ」
女性特有の甘い香りと、左右から押し付けられる感触の違う柔らかな膨らみ。
慎司は菩薩へとなりかけているのであった。
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なんとか菩薩への昇華を免れ、ルナとアルテマを叩き起した慎司は、本日のメインであるドラゴン討伐の準備を進めていた。
「ルナー、タオル取ってくれ」
「はい、ご主人様。……あ、髪の毛はねてますよ」
「え、どこ?」
「そこじゃないです、ちょっと屈んでください」
「ありがとなぁ」
イチャイチャしてる訳ではない。
ドラゴン討伐の準備である。
ちなみにアルテマは朝が弱いらしく、魔剣の状態に戻ってしまった。
どうやら魔剣の状態だと、戦闘時以外は眠っているに近いらしく、楽なのだとか。
準備を終えた慎司達は、足早に食堂へと向かう。いつもより早い時間だが、ちゃんと営業しているようで、温かいスープと黒パンを頂く。
「ルナ、ドラゴンって強いのか?」
少し時間もあるので、慎司はルナに質問をする。すると、ルナは呆れたような表情を浮かべながらも、しっかりと答えてくれた。
「ドラゴンはですね、基本的には幼竜と成竜に分かれます。幼竜ならば、下級魔族と同じか弱いぐらいですけど、成竜はその倍くらいは強いですね」
「……は?それまじかよ」
「嘘言ってどうするんですか……?」
ルナの話通りだとすると、成竜が相手だった場合、グリッド達は勝てないのではないだろうか。
「Aランクで成竜に勝てるのか?」
「魔族には、光属性以外の弱点はありませんが、ドラゴンに対しては、対竜兵装もありますし、竜殺しの付与魔法なんかもありますからね」
「ルナ、物知りなんだな」
「え、これくらいは子供でも知ってるお話ですよ?」
慎司、常識レベルが子供以下。
どうやら、竜というものは昔から脅威であったらしく、対策が取られてきたらしい。
そのために、対竜兵装や魔法が発明されているのだろう。
いつの時代もドラゴンは怖いのだ。
「ご主人様、そろそろ時間じゃないですか?」
「ん、そうだな。行くか」
ルナが時計を見て言う。
毎度不思議なのだが、時計やトイレ、シャワー等時代にそぐわない様な物があるのはなぜだろうか。
触れてはいけない気がしたので、慎司は思考を頭の隅に追いやり、食堂を出た。
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アイテムボックスの中に、昨日買った旅の道具セットがあることを確認しつつ、通りを歩いていく。グリッドとは、北の門付近で待ち合わせている。
左手にルナを連れ、街を歩く。
なんだかいつもより騒がしい気がしたが、気のせいだろう。
慎司は深く考えないことにした。
北の門に着くと、大きめの馬車が見えてくる。近くにはグリッドの姿もある。
グリッドの周りには3人の冒険者が集まっていた。恐らくグリッドのパーティーメンバーだろう。
慎司はその集団に近づき、声をかける。
「グリッド、待たせちまったか?」
「お、シンジか。いや、馬車の準備で早めに来ただけだ。そんなに待ってないさ」
「そこの3人はパーティーメンバーか?」
慎司が3人に目をやりながら尋ねると、グリッドはメンバーを呼び寄せて紹介してくれる。
「紹介するぜ、こいつらは赤の戦斧のメンバーだ。このデカいのがマルクで前衛」
「よろしく頼む!」
マルクはとにかく大きかった。太っているわけではなく、厚い筋肉で体が覆われているのだ。
短髪の髪の毛は強面な顔によく似合っている。
ちなみにルナはちょっと怯えていた。
「そんで、こいつがリゼット。警戒担当だな」
「アタシなんか雑じゃない?……とにかくよろしくね」
リゼット、なんだかグリッドと名前が似ているが、別に男勝りではない。
むしろ、体のメリハリが凄く、男を魅了すること間違いなしである。長めの紫がかった髪の毛も色気を醸し出している。
慎司は絶対に胸に目をやらなかった。無論、左手を握りつぶされないようにするためだ。
「最後がこいつだな。レイシアって言うんだ。こいつまだ15歳なのに魔法学校を飛び級で卒業してんだぜ?凄いだろ」
「グリッドさん、子供扱いはしないでって言ってるじゃないですか!」
「あー、すまんすまん」
「まったく……。レイシアです、お二人共よろしくお願いします」
ペコリと挨拶をしてくれたのがレイシア。15歳と言ったが、小柄な体格も相まってもう少し若く見える。
ショートの青い髪の毛は、中性さを思わせるが、胸の僅かな膨らみや腰のくびれが少女であることを意識させる。
ただ、魔法学校というのが少し気になった慎司は、後で話をしてみたいと思うのだった。
「それじゃ、挨拶も済んだし出発するか。御者は頼んであるから適当に乗ってくれ」
グリッドの号令で全員が乗り込む。
と言っても、馬車は狭いため椅子がある場所には女性陣が座り、男性陣は荷台に直にすわることとなった。
馬車の揺れはそこまで酷くなく、流れる景色を見ながら、時折グリッドやマルクと話をしている内に森付近まで辿りついた。
今日はもう遅いため、森から少し離れた草原で野営をすることになる。
旅の道具セットの中にあった簡易テントを取り出し、設営する。
「ご主人様、グリッドさんが呼んでます」
「ん?わかった。すぐに行く」
設営も終わり、辺りをうろうろと無作為に歩いていたところ、ルナが慎司を呼び止めた。
慎司がグリッドのところへ行くと、見張りの当番について相談される。
二人一組で回すらしく、慎司はルナと、グリッドがリゼット、マルクがレイシアと組むようだ。
戦力的に考えても、無難な選択だろう。
まずは、慎司とルナが見張りをすることになり、2時間後に起こすよう言われた。
慎司には魔力感知があるため、あまり気を張る必要がなく、見張りはそこまで苦労することなく終わった。
2時間後、グリッド達を起こした慎司は、ルナを連れて自分のテントに引っ込むのであった。
いつも以上にルナが引っ付いてくるが、少し寒いと思っていたため丁度いいと慎司はルナを軽く抱きしめて寝るのであった。
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翌朝。
「お前、奴隷に何を……いや、なんでもない」
「誤解だ!!!」
抱き合って眠る慎司とルナを見てグリッドがよからぬ想像をしたが、なんとか他のメンバーが起きる前に誤解を解くことができた。
さて、ドラゴン討伐である。
森に入ると、早速魔物が出てくる訳だが、慎司の魔力感知とアルテマの索敵、さらにリゼットが警戒してくれているため、奇襲を受けることはなかった。
「シンジ、お前のその剣。かなりの名剣だと思うんだが……」
「アルテマのことか?」
「名前、つけてるのか?」
「いや、もともとついてた」
グリッドは、凄まじい切れ味と威力を持つアルテマに興味を持ったようで、慎司に話しかけてくる。
「てか、お前回復魔法だけじゃなくて剣も使えるんだな。魔法剣士か、やるなぁ」
「まぁ、それなりにな。攻撃魔法も使えるぞ」
「それ、本当ですか!」
魔法の話になった途端、レイシアが話しかけてくる。グリッドは剣に興味津々であったが、レイシアは回復魔法だけでなく攻撃魔法が使えることに興味を示した。
「ちなみに得意属性は何なのですか?」
「あー、わかんねぇ」
「は?」
ちなみに、話はしているが、何だかんだとリゼットとルナが速攻で片付けているのであまり魔物は気にならない。
得意属性については、四属性が使えるため、どれが得意なのかはよくわからなかった。
ただ、レイシアはその言葉に固まってしまった。
「使える属性は回復魔法があるのですから、二属性程度でしょう?」
「四属性全部使えるけど?」
「は?」
────レイシア、再び硬直。
どうやら、四属性を使えるような人物はそうそうおらず、ましてや回復魔法も使えるとなると、10000人に1人の可能性らしい。
案外いるのか?と思えば、そもそも魔法を使える人種というのが少ない様で、その確率はグッと下がる。
なんだか固まって動かないレイシアをなんとか復活させ、慎司は魔法学校について聞いてみる。
「なぁ、魔法学校ってどこにあるの?俺でも入ったりできる?」
「待ってください、もしかして魔法は独学で学んだのですか?」
「そうだよ」
「は?」
────レイシア、泡を吹き始める。
「レイシア、おい。レイシア」
「はっ!まぁ、もう気にしないです。それで、魔法学校はですね、王都にあります」
「王都ね、ふむふむ」
「それで、基本的には誰でも入れます。ただ、お金が必要になるのです。入学金が、1人金貨1枚です」
慎司はこの時点で目を回していた。
入学金で金貨1枚とかぼったくりではないだろうか。
「そして、基本的には卒業までに金貨10枚は最低でもかかります」
「まじか……レイシアはなんで入れたんだ?親御さんが出してくれたとか?」
「いえ、私の場合は魔法の素質がかなりあったため、お金は不要と言われました。その代わりにレポートの提出は求められましたけど」
所謂奨学金制度みたいなものだろうか。
慎司は、少しだけ魔法学校への道が開けた気がした。
そうやって話をしながら森を中心に向かって進むこと1時間。
ついにドラゴンの巣へと辿りついた。
「おい、見えるか。あれが今回の獲物だ」
「うわ、でけぇな」
グリッドが顔を近づけてきて、慎司に話しかける。ドラゴンは眠っているため、起こさないようにする配慮だろう。ドラゴンはその巨体を森の中にある岩場へと投げ出している。
「よし、作戦を確認するぞ。まずはレイシアが全員に竜殺しの付与魔法をかけた後に、対竜兵装をぶち込む。その後は基本に忠実に、シンジに回復魔法をかけてもらいつつ、じわじわと削っていくぞ」
グリッドが全員に作戦を説明する。
作戦自体は凄くシンプルで、理解しやすかった。問題はルナなのだが、慎司が強化魔法をかければ防御力も跳ね上がるため、気にかける程度で充分だろう。
「翼についてだが、片方だけでももぎ取ってやれば奴は飛べなくなる。今回は右側をやろう。レイシア、いけるか?」
「私を誰だと思ってるんですか?簡単ですね」
「シンジ、できるなら援護してやってくれ。万が一のためだ。ただ、お前の役目は回復だ、そこを忘れるなよ」
「オッケー、任せろ」
こうして作戦の確認は終わり、対竜兵装も準備は完了である。
「ご主人様、頑張りましょうね」
「ああ、ドラゴン討伐。……やってやるぜ」
ルナが少し緊張した様子で話しかけてくる。
慎司は、そんなルナを見て緊張を和らげてやろうと、気楽そうな声を出す。
「付与魔法いきます!」
詠唱を終えたレイシアから、全員に竜殺しの付与が与えられる。
付与魔法は、基本的にはどれだけかけても打ち消されたりはしないため、慎司も強化魔法を唱える。
「俺も強化魔法を使います!」
使うのはエクスパワーとエクスバイタル、エクスアジリティの3つだ。
効果は単純で力の上昇、スタミナの上昇、素早さの上昇だが、専攻職の魔導王のおかげで効果は絶大だ。
「よし、対竜兵装いくよ!」
対竜兵装とは、簡単に言えば竜殺しの魔法がかけられた大きな槍である。
ただ、かなりの大きさのため、当たればかなりの大ダメージとなるだろう。
ズドン、と大きな音がすると、槍は眠っているドラゴンに吸い込まれていく。
強靭な鱗を持ってしても防ぐことは叶わず、槍は深々とドラゴンを貫く。
「よし、お前ら戦闘開始だ!」
「防御は任せろ、全て受け止めてやる!」
「アタシはレイシアにつくよ!」
「詠唱開始します!」
こうしてドラゴンとの戦いは始まったのであった。
レイシアちゃん、本当は凄いんですよ?
秀才です、逸材です。
ただ、慎司が頭おかしいだけです。




