2.神様のお話と森
「神様、ですか?それって全知全能とかそんな感じの?」
「そうそう、流石に全知全能ではないけどね。僕はこれでも君のいた世界の管理者なんだよ?」
話が飛躍しすぎて慎司には何がなんだかわからなかった。慎司としてはわからないものはわからないので考えるだけ無駄、と切り捨てたいのだが、流石に今回の話は切り捨てるわけにはいかないのではないだろうか。
何せ神様である。不敬を働くわけにはいかないのだ。当然慎司は緊張で身を固くする。
ここで部下が慎司の思いを知ったら激怒しただろう。神とは天皇であり、敬うべきと軍ではされているのだから。
ただ、慎司は時代に取り残されたままのメディアとしてライトノベルや漫画を読み漁っていたため、天皇が神じゃないことなど、理解している。
「さて、君の置かれた状況を手っ取り早く説明させてもらおう。あまり時間が無いものでね」
「はぁ、それは全然構わないのですが」
「君は1度死んでいる。死因は巨大ミサイルの爆発に巻き込まれての焼死だね」
神様が言うことは何となく理解出来た。死因についても、はっきりとした記憶が残っている。やはり慎司は死んでいるようだ。となると、ここは死後の世界か何かだろうか?と慎司は考える。
「ご明察。ただ、君は死ぬには惜しい人材だ。類まれなる戦闘センス、そして部下からの厚い人望。まさしく理想の上司じゃないか」
「まぁ、それしか取り柄がないもので」
「そこでだ、君を彼女の管理する世界に送ろうと思うんだ。第2の人生ってやつだね」
そう言いながら神様は女性を指さす。管理と言うからには彼女も神様なのだろう、と慎司はあたりをつける。心を読まれたことは気にしないことにした。
「では、ここからは私から。貴方の思うとおり私は神の1柱よ。私が管理する世界では元の貴方のいた世界の常識はあまり通用しないと思うわ、貴方の記憶の中で言えば剣と魔法の世界というやつね」
「そこに、俺が送られると?」
「ええ、そうよ。そして、貴方には何個か優遇措置を取らせてもらうわ。送り出してすぐに死んだりしたら困るもの」
軍に所属する前に読んだ小説や漫画に出てくる、所謂チートがもらえるのだと慎司は歓喜した。
「ありがとうございます!それで、どのようなものが頂けるんですか?」
「簡単よ、理を見通す力、強靭な肉体、あらゆる素質、限界を超える力の4つを私からは贈るわ」
慎司は隠しもせずに、握った拳を天に掲げた。口元はにやけ、顔は半笑いである。
「おおお!ありがとうございます!!」
「あ、そうそう。僕からは役立つ道具を何点か贈らせてもらうからね。君の転送場所の近くに送らせてもらうよ」
「道具とは具体的には?」
「それは自分で確かめてくれ、お楽しみというやつだ」
神様からの贈り物なのだ、期待してもいいだろう。そう思い、慎司は深く追求しなかった。
神様は何か言いたそうな顔をするが、何も言わずにこちらをじっと見つめてきた。
「なんでしょう?」
「いや、なんでも。ちなみに僕らは君に一切の干渉をしない。君は、君の生きたいように生きてくれればそれでいい。僕らの目的はその生き様の観察でもあるからね」
「まぁ、世界を救えとか言われましても困っていましたが……そんな適当でいいんですか?」
「なんだい、君は勇者になりたいのかい?」
「いやです、なりたくないです」
勇者と言われると、仲間と共に悪を滅する。そんなイメージが強いが、その実かなりの苦労の末に得られるものは仲間と多少の名声。世界を救ったとして民はあまり実感を持たないだろうし、そもそも勇者が無条件で崇められる訳もなく、立ち回り方次第で悪と断じられる可能性もある。
そう慎司は考えていた。だから勇者はお断りである。
「そうかい、ならそろそろ時間もないし君を転送するとしよう」
「おお、お願いします」
これから新しい人生が始まるのだ。前の人生に未練がないと言えば嘘にはなるが、それ以上に慎司の心は高揚感に包まれていた。
「それでは、良き人生を……」
神様のその言葉を最後に慎司の意識は再び失われた。
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目を開けると慎司は森の中に寝転んでいた。生い茂る木々のせいか、差し込む光が弱く全体的に暗い。
「まずは探索してみるか」
立ち上がり、辺りを見渡す。目に映るのは木のみ。それもかなりの大木ばかりだ。幸い気温はそこまで高くないようで、時折吹き込む風が心地いい。
そこで初めて自分の姿に違和感を抱いた。
何というか、全体的に小さくなっていたのだ。慎司は身長185センチの大柄な体型だった。それが今では15センチは縮んだのではないだろうか、というぐらい目線が下がっている。
慎司が身長170センチになったのは高校生の頃、どうやら体が若返っているらしい。
「体が軽い……好都合だな」
体の調子を確かめるようにその場で軽く飛んでみる。ふわっとした浮遊感も一瞬、すぐに着地する。一連の動作を行うのがとても楽になっているようだ、前ならもう少しぎこちなかった。慎司は自分の体に慣れるまで暫し体を動かした。
大分肉体と感覚が馴染んできた頃、ガサガサと背後の茂みから音がした。慌てて慎司は近くの木に身を隠す。現れたのは黒い毛並みをした狼、ただ違うのはその大きさだろうか。地球の狼よりも2倍は大きい。
「ちっ……見つけないでくれよ」
慎司はそのまま隠れることを選択した。余りにも大きな狼のため、勝てる気がしないのだ。そもそも狼に素手で挑む輩がいるだろうか。もしいるならそいつはただのアホか、死にたがりだろう。
「グルルゥ……」
唸り声をあげる狼は先程まで慎司がいた場所を見つめていた。それも5秒程経つと、何も無かったように立ち去った。
「おっかねぇな、あんなでかい生き物がいるのか、この世界には」
慎司は呟くと、元いた場所に戻る。神様からの贈り物が近くにあるはずだということを今更になって思い出す。
そうして辺りをぐるぐる見ていると、1本の木の根元に革袋が落ちているのを見つけた。
「これか?中身は……指輪と紙に、なんだこれ木の実か?」
革袋を拾い上げ中身を確認すると、中には指輪が1つと折りたたまれた紙片、更に何かの木の実のようなものが入っていた。
慎司には一体何なのかわからないため、神様に貰った理を見通す力とやらを使ってみることにする。使い方は何となくだがわかる。ウェブ小説でよくある鑑定と同じなのだろう。
慎司が指輪に意識を向けると、頭に情報が流れ込んできた。
《魔導王の指輪》
レアリティ13
魔法使用時、消費魔力10分の1
魔力の自然回復量3倍
「いきなりチート装備かよ……!」
レアリティがどれくらいの物かはわからないが、その能力はとてもじゃないが弱いとは言えない。
「こっちの紙も見てみるか」
折り畳まれた紙片を慎司は開く。やたら綺麗なゴシック体の文字が書かれており、慎司はそれに目を通していく。
『贈り物の1つとして君にアイテムボックスの魔法を授けようと思う。既に身に付いているはずだから、使おうと思えば手に触れた物に対して収納、と念じるといい。時間の止まった亜空間に対象物を管理しておけるよ。ただ、生物は収納できないから注意してくれたまえ。神様より』
「なるほど。木の枝で試してみるか」
慎司は近くの木の枝をペキッと折ると、枝に対して収納と念じてみた。すると一瞬の内に枝は消え、慎司の頭の中にアイテムボックスの中に木の枝を収納した事が流れ込んでくる。
「すげぇなこれ。鞄とかいらないじゃねぇか」
アイテムボックスの有用性に慎司は気付き、ついつい口の端が吊り上がる。今慎司の顔を誰かが見たならかなり悪い顔をしていたことだろう。
興奮も冷めぬうちに、今度は木の実を鑑定してみることにする。慎司としては食べれるといいな、ぐらいの気持ちであった。
慎司は手に持った木の実に意識を向ける。
《進化の実》
特定条件下において、この実を食べていた場合服用者に進化を促す。
「……は?」
※一部修正をしました。
※誤字の修正をしました。




