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17.魔族とギルドマスター

 

 魔族。魔物が知恵をつけ、人間に立ち向かうべく力を手に入れた種族。

 ルナが言うには、人間を敵視しているらしく、出会ったが最後どちらかが滅ぶまで戦いをしなければならないらしい。

 そもそも魔物がベースとなっているため、人間には悪感情しか抱かず、和解の余地などない。

 故に目の前にいる魔族は危険だと、ルナは言う。


「撤退するべきです。何をしているのかは分かりませんが、魔族は例え低位でもAランクパーティーが太刀打ちできるかどうかです。単独での撃破はSランクでも難しいとのことです」


 どうやら魔族についてはこの世界の常識らしく、ルナは青ざめた顔で慎司に進言してくる。

 ただ、慎司からすれば、いい稼ぎ相手を見つけた程度の認識でしかなく、倒す気満々であった。


「ルナ、息を潜めてここにいるんだ。いいな?」

「ご主人様!?」

「あの魔族、魔法陣を描いているんだ。絶対に阻止しないと面倒なことになる」


 そう言って慎司はスキルポイントを割り振っていき、戦闘スキルを軒並み最大にしていく。

 現在のスキルはこうなっている。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 《スキル》

 剣術MAX

 体術MAX

 火魔法MAX

 水魔法MAX

 風魔法MAX

 土魔法MAX

 回復魔法MAX

 転移魔法MAX

 《常駐スキル》

 並列思考

 完璧な体

 手加減

 《耐性スキル》

 打撃耐性

 斬撃耐性

 火耐性

 《交渉スキル》

 値切り

 《その他》

 指揮

 教育


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 習得した覚えのないスキルが混ざっている。

 これは多分ルナの特訓の時に習得したのだろうか。ただ、アナウンスが流れない理由はよくわからないが。


「ルナ、心配するなってのは無理かもしれないけど、俺を信じてくれ」

「ご主人様、いくらご主人様が強くても魔族に単独で挑むのは無謀です!」

「ルナは俺を信じてくれないのか?」


 ちょっと卑怯な言い方になってしまうが、ルナは下唇を悔しそうに噛みながら俯く。


「ご主人様、約束してください」

「何をだ?」

「無事に戻ってくることをです」


 つい慎司は抱き寄せてしまいそうになってしまった。ルナはこんなにも慎司のことを心配してくれているのだ。

 慎司は、右手をルナの頭にポンと乗せる。


「ああ、約束する」


 ルナと約束したのだ。

 元から負けるつもりはないが、さっさと勝ってルナを安心させなければならなくなった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 慎司は、ゆっくりと魔族に近づいていく。

 足音を立てないように気をつけながら進む。

 魔族の得意とする攻撃は魔法らしいので、詠唱させる暇なく倒すつもりである。


 魔法が得意なら、魔法に対する防御も相当なものだと慎司は思い、近距離での一撃を攻撃の主体にする。


 魔族は魔法陣を描いているのに集中しているのか近寄る慎司に気づいていない。

 ────慎司は一気に駆け出した。


 《風魔法》を最大レベルにしたことにより、風系支援魔法のエクスアジリティを習得している。

 効果は素早さの上昇。

 彼我の距離は5メートルもない。

 慎司は一気に最高速へ、一瞬で距離を詰める。草木が爆ぜる派手な音が後ろに遠ざかる。

 音を置き去りにして慎司は魔族へと拳撃を叩き込もうとした。


「っ!?」

「おらぁぁぁ!!」


 魔族は音に気づくと、体をその場から動かそうとする。危機回避の本能で後ろに飛ぼうとした。

 ただ、音を置き去りにした慎司はそれを許さない。驚愕に彩ろられたその顔を思い切り殴り飛ばす。

 肉のへしゃげる音と、骨を砕いた感覚が拳を伝わって慎司に届く。


「ぐぅぅぅぅ……」


 魔族は────呻いている。


 慎司は驚いた、その生命力に。

 もしかしたら予め魔法を使って防御力を高めていたのかもしれない。

 或いは希少な装備品の効果なのか。


 とにかく魔族は生きている。

 別に恨みなんかないが、魔族の方は十分にある。手を出した以上逃げる選択肢はない。


「くっ!」


 慎司は頭上に魔力の高まりを感じ、咄嗟に横に飛び退く。

 元いた場所には、光る稲妻が叩きつけられていた。


「ちっ、避けるか……」

「当たり前だ!」


 魔族は指先を向けるだけで魔法を放ってきた。

 こいつは危険だ。慎司はそう思う。


 ────次で確実に。


 慎司は今度こそ魔族を打ち倒すべく自分の中に魔力を練り上げる。

 使う魔法は火系支援魔法エクスパワーだ。

 効果は攻撃力の上昇。

 エクスアジリティの効果は続いているため、魔族が捉えきれない速度で動く。

 再び地を蹴り、魔族へ攻撃を繰り出す。


 魔族は慌てて自分の前へと魔力の障壁を作り出した。

 それを知覚して、慎司はにやりと笑う。


 魔族はさっきの攻撃力を警戒して全方位じゃなくて前方に多重障壁を作り出した。

 それならば、後ろに回り込めばいい話である。


 使用するのは《転移魔法》のテレポート。

 一瞬で姿を消して、魔族の後ろへ回り込む。

 そして、そのがら空きの背中に跳ね上がった攻撃力を乗せて、拳を叩きつける。

 今度はスキルを使った。

 《体術スキル》で得た攻撃スキル、崩拳だ。


 慎司の拳は抵抗なく魔族の体を貫いた。

 右手が腹部を貫通した。

 おびただしい量の鮮血が吹き出す。

 魔族はビクビクと痙攣した後、ぐったりと力を失った。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 魔族をアイテムボックスに収納し、ルナのいた場所に戻る。

 慎司の姿を確認すると、ルナは泣きじゃくりながら抱きついてきた。


「ご主人様ぁ……もう、もう……」

「そんなに泣くなよ。俺はこのとおり無傷だ」

「ほ、ほんとですか?」

「ああ、ヒヤッとしたけどな」


 ルナは慎司の胸に泣きつきながら、尻尾をぶんぶんと振っていた。

 すんすんと鳴らしていた鼻は既に音が止んでいた。


「ご主人様、ご主人様はほんとに……凄いですね。魔族を1人で倒しちゃうなんて」

「まぁ、な……」


 正直自分の努力で手に入れた力ではないため、誇ることは出来なかった。

 ただ、そんな自分を慕うルナがいる。

 それなら誇ってやろうと思った。


「俺は最強だからな!」

「ふふっ、そうですね」


 にっこりと笑うルナ。

 そんなルナの頭をいつもの様に撫でてやる。


 2人は森を出て、ランカンへと戻った。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 今日も爽やかな北門の兵士に挨拶をして、門をくぐる。

 早速ギルドへと行き、森の調査報告をする。


「今回の依頼で調査をしたところ、魔族が怪しげな魔法陣を描いていました」

「……は?」


 受付嬢は困惑の表情を浮かべる。

 慎司は、面倒ではあるが、1から説明する。


「ですから、俺は今回森の調査の依頼を受けましたよね?」

「ええ、そうですね」

「その調査で俺達は魔族が魔法陣を描いている場面に遭遇したんです」

「はぁ……しかし、魔族ですか。その魔族を倒したとでも言うんですか?」


 まさにそうなのだが、受付嬢はまったく信じていない様子だ。

 そこで、慎司はアイテムボックスから魔族を解体して手に入れた魔核を差し出した。

 すると、受付嬢はガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。


「こ、これ……!ほほほほほほんととととに!?」


 受付嬢が壊れてしまった。

 ルナの方を見ると、だと思ったと言わんばかりの顔をしている。


「あのぉ……」


 慎司は、壊れてしまった受付嬢の奥にいた女性に声をかける。

 すると、少し待つように言われた。


「申し訳ありません、こちらへ来て頂けますか?」

「はぁ、構いませんけど。あ、ルナも……パーティーメンバーも一緒でいいですか?」

「はい、大丈夫です」


 対応に出てきた受付嬢に案内され、慎司とルナはギルドの更に奥にある通路へと歩いていく。

 周りにいた冒険者が何事かと騒ぎ出すが、気にしている暇はない。

 奥は階段があり、どうやら二階に上がるようだ。


 階段を上がり、突き当たりの部屋に入る。

 そこは、少し小汚い印象の1階とは打って変わって、整えられた調度品が品よく並べられた、明らかに格の違う部屋だった。


「やぁ、ようこそ。クロキシンジ君、ルナ君。ギルドマスターのディグラス・アートンだ」

「えっと……」

「ああ、普段通りの口調で構わないよ。冒険者というものはそう言うものだからね」


 ギルドマスターであるディグラスの言葉に、どう返せばいいか迷っていたのだが、ディグラスは普段通りでいいと手をひらひらと振りながら言う。


「早速だが本題だ。君は今回の依頼で魔族が魔法陣を描いているのに遭遇し、これを打ち倒した。違いないかね?」


 ディグラスは、見た目30代のまだ若い男であったが、その声から滲み出る威圧感は、強者を連想させる。

 自然と、空気が緊迫したものになる。


「ええ、間違いないです」

「ふむ……」


 慎司がそう返すと、ディグラスは少し悩むように顎に手を当てた。

 ルナはディグラスが口を開いてからは、ずっと慎司の服の裾を掴んでいる。尻尾は丸まり、下がっている。


「とにかくまずは情報に感謝するよ。今回の情報は極めて重要性が高いものだ。きっと魔族がいた理由にこのランカンへの侵攻があるのだろうからな」

「と言いますと?」

「近々魔物の軍団が攻めてくるかもしれないということだ」


 随分と話が壮大になってきたものだ。

 ディグラスが言うには、このような事は多々あるようで、情報もなく事に当たった場合、準備が出来ておらず甚大な被害が出てしまうそうだ。


「ただ、今回は君の情報のおかげで対策をとることが出来る。討伐報酬の他にもギルドから報奨金を出そう」

「いいんですか?」

「君はそれだけのことをしたんだよ」


 慎司としては、ここでお金を受け取ってしまうと魔物の軍団が攻めてきた時に矢面に立たされそうな気がするのだが、その時はその時である。

 この街を守るのは面倒だが、ここで出会ったフィルやギルグを守るためならば、動くのもやぶさかではない。


「では、私はこれから対策を考えなくてはならないからね。話はここまでにさせてもらうよ」

「はい、わかりました」

「……ああ、そうだシンジ君。君には期待しているよ」


 隠しもしないその言葉で慎司は悟ってしまった。

 ディグラスは思いっきり前線に送る気であることを。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ギルドマスターの部屋を出て、1階の受付に戻ると、今度はお金の話である。

 今回受け取ることになった金額は金貨15枚。

 討伐報酬が金貨10枚で、ギルドからの報奨金が金貨5枚だ。周りの冒険者は一斉にざわつき出す。こちらへ来ようとする輩には、睨みを効かせておいた。


 ────また大金を手に入れてしまった。


 慎司は、見たこともない金額に目を回すルナを連れて宿に戻るのであった。


※誤字を修正しました

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 言い訳スキルが無いです [一言] 前話で慎司の専攻職は剣聖と魔導王であるってやってたのは今話の前振りかと思ったら、Sランク相手でもまだ拳でナメプじゃねーの……やるな!? さすがに意表を…
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