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未知って、怖いですよね

 

 生前、慎司の心に1つの変化をもたらし、そして塗り替えた少女のことを思い出す。

 交わした約束は少女のいない今でも有効なはずである。


「約束、したからな」


 例え味方の騎士団が敗北を喫しようが、自分がなんとかすればいい。そう考えれば、少しは気が楽になる。


「まずは作戦会議か」


 そう声をだすと、慎司は歩き出すのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「率直に言わせてもらおう。我々は囚われているルナ君を押さえ込めないと判断した場合、想定上最悪の手段を取らせて頂く」


 毅然とした表情で告げてくるのは、騎士団での発言力が1番あるディランである。

 騎士団の実質的なトップの部屋にしてはややみすぼらしいとも言える質素な内装。シンプルな部屋の中で会話は行われている。

 ディランの言葉には慎司も頷ける。ただ、理屈としてはという話だが。


「それは……どうしてもなのか」

「シンジ殿には申し訳ないが、どうしてもだ。ルナ君は私個人としても非常に能力の高い人物として評価している。失うのが惜しいというぐらいにはね」

「それならば……!」


 感情が慎司の声を荒げさせる。

 しかし、目の前に圧倒的な力を持つ者を前にしてもディランの答えは変わらない。


「だが、ダメだ。ルナ君の近くには恐らくシンジ殿が相対した魔眼持ちの男がいるだろう。そして我々は魔眼持ちの男について余りにも知らなすぎる。未知が怖いのは慎司殿も理解しているだろう?」

「……ええ、未知は予期しない被害を生み出しますからね」

「そういうことだ、理解してもらえたか?」


 慎司は答えを出すことが出来なかった。

 理解しているかと聞かれれば、もちろん理解している。しかし、今回最悪の手段の対象となるのはルナなのだ。

 この世界にきてから今まで、殆どの間共にいてくれたのはルナだ。常に笑顔を絶やさず、慎司を諫め、癒し、見守ってくれていた。そんな彼女を殺さねばならないかもしれない。

 可能性の話ではあるが、その可能性が慎司の心をザラりと撫で付ける。


「……ッ!!!」


 ガタッという音がした。

 慎司が慌ててディランを見れば、額に汗を浮かべ抜刀し、こちらを見据えてくる姿がある。

 呼吸は浅く、いつでも動ける様に腰を落としている。

 それを見て慎司は自分の失態に気付かされる。怒りが魔力の奔流を生み、純粋な圧力としてディランを襲っていたのだ。


「……すまない」

「いや、いいんだ。誰だって大切なものを失いたくはない。その気持ちはわかっているつもりだ」


 すぐに魔力を押さえつけ、慎司は謝罪をする。

 ディランも謝罪をすぐに受け入れ、沈痛な面持ちで慎司を気遣う。


「シンジ殿の気持ちは理解しているつもりだ。我々も全力を尽させてもらう。少しの間とはいえ、彼女は仲間だったのだからな。仲間を失うのは誰だってつらいものだ。それは我々も変わらない」

「……すまない」


 先程とは違う、感謝の意味を込めての言葉を最後に、慎司はディランの部屋を後にした。


 ガチャリ───無機質な音が、ディランのいる部屋に響き渡る。権力や財宝を無視して過ごしてきた人生が、今だけは疎ましい。


「俺が一介の騎士なら、なりふり構わず動けるってのになぁ……」


 頭に手を当て、軽く頭を振るディラン。

 その顔には、色濃い疲労と後悔の念が浮かんでいるのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「さて次は……リーティアの所だな」


 生死の境を彷徨う中、慎司は法を司るテミスという神に出会っている。

 そのテミスの言葉の中には時間があれば精霊王に会え、というものもあった。

 現在騎士団には協力を取り付けてはいるものの、結果が出るのはもう少し先だろう。


 それならば、先に精霊王であるリーティアに会いに行き、これからの行動について何かしらの助言を得るのもいいだろう。そう考えた慎司は、転移魔法を発動させようとする。


「待ってくださいシンジ」

「アルテマ?」


 しかし、慎司が魔法を発動させるよりも早く、目の前にアルテマが実体化して現れる。

 いつもの深い青系統の服装に身を包んだアルテマは、慎司のほうを見ると、少し険しい顔つきをする。


「……シンジ、貴方は正確な精霊王の位置を掴んでいないのでは?」

「んー、あの森のことだろう?」

「確かに間違えてはいませんが、シンジが想像しているのは恐らく精霊の森のことでしょう?」


 アルテマはそう聞いてくるが、正直慎司がリーティアと出会った森の名前までは知らないというのが現実だ。

 そのため、慎司は言葉を濁して生返事をするしかない。


「……はぁ、シンジは私がいないとダメなようですね」


 何故か誇らしげに無い胸を張りふんぞり返るアルテマは、普段見せないような偉ぶった表情で慎司に手を差し出す。


「しょうがないので、私が精霊王の居場所まで案内してあげましょう」

「……おう。頼むわ」


 冷めた目でアルテマの手をとる慎司。

 表情こそ豊かになってきたアルテマだが、如何せんその透き通った声は抑揚というものが無い。

 見事なまでにアンバランスな声と表情に、慎司は上手く言葉を返せない。


「それでは転移魔法を発動させてください。行き先はこちらが勝手に調整しますので」

「そんなこともできるのか……」

「魔剣ですので」


 アルテマならば、大抵のことができるのではないか、そういう風にすら思えて来る。

 普段よりも務めて明るく話しかけてきている様に見えるのは、勘違いなんかではないだろう。


「アルテマ、ありがとな」

「……なんのことか分かりません」

「まぁ、受取っておいてくれ」


 気分の落ちこんでいる慎司を励まそうと、アルテマなりに考えたのだろう。

 照れくさかったが慎司が例を告げると、アルテマふいっと顔を背ける。


「……受け取るだけなら」


 ぼそりと呟かれた言葉とほぼ同時に転移魔法が発動し、視界は深い森へと切り替わるのだった。

次は今まで出番のなかった精霊王にやっと会えます。

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