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137.憤怒

短めです。

 

 瞳を真紅に光らせるルナが、ゆっくりと、非常にぎこちない動きで振り返る。

 煌々と光る目は虚ろで、その行動にルナの意志が介在していないことを嫌でも伝えてくる。


「さてさて、手持ちの部下も、級友も、俺が奪ってやった」


 フードを被った男は、口を三日月型に歪めてケタケタと言い放つ。

 薄汚れたローブには、土と赤い染みが付着しており、この男がまともな生活を送ってきていないことを教えてくれる。

 チラリと背後を見やれば、呆然とした表情のフラミレッタが、僅かに残る理性で意識だけをこちらに向けている。


「父親を亡くして王女様は傷心でいらっしゃる様子……王族たる者がそんなことでいいのかねぇ?」


 視線に気づいたのか、フードの男がフラミレッタを見ながら言葉を吐き捨てる。

 その言葉の端からは、隠しきれない憎悪と確かな殺意が滲み出ている。

 男の危うさを再確認することになった慎司はアルテマを握り、フラミレッタの前に立つ。


「守るべきはずの民に守られてやがる。そんなことで王族と言えるのか?歳なんて関係ねぇ、仮にも王族なら気丈に振る舞うぐらいはしてみせろよ!」


 心を抉る言葉を止めない男。

 激昴し、鋭い視線で睨みつけながら苛立たしげに舌打ちをする。

 怒りを感じているのだろう、その手はいつしか込み上げる激情を抑えようと震えだしており、今にも腰に()いた剣を抜き放ちそうだ。


「そんなんだから、お前らが弱いから……!」


 男は腰に手を伸ばし、禍々しい光を放つ短剣を抜いた。


「ここで終わらせて、新しい国を作ろうじゃないか、なぁ?」


 1人で語りだす男に慎司はついていけない。

 男が何を感じて、何を思って生きてきたのかはわからない。ただひとつわかる事は、男がルガランズ王国の王族に対してどうしてか強い憎悪を抱いているという事だけだ。


 しかし、未だに動けないフラミレッタを前にして剣を抜いた以上、慎司も動かざるを得ない。

 こちらから攻撃を仕掛けることができない以上、ひたすら耐え忍ぶしかないが、打開策はきっとどこかにあるはずである。


 そう信じて、慎司は蒼く脈打つ光を湛えた魔剣を構える。


「やる気か?英雄さん……お仲間がどうなってもいいのか……あぁ?」


 良くない。良いわけがない。

 今まで共に過ごしてきたのだ。

 簡単に切り捨てられるほど囚われた2人との絆は弱くない。


「いいわけないだろ。2人とも大事な人なんだから……」

「そうだろ?大事なんだろ?それならさっさとその目障りな剣を仕舞えよ!」


 だが、ここで退くわけにはいかない。

 背中に庇っているのは王族。つまり女王候補であるのだ。

 フラミレッタには兄がいるが、その姿が見えない以上慎司は安否を確かめる方法がない。

 仮に生きていれば兄が王位を継ぐのだろうが、今回の件の最中で死んでしまっているのなら次の王はフラミレッタだ。


「板挟み、なもんでね……」


 国と大事な人。天秤に乗せて傾くのは──無論大事な人だ。


 しかし、この国が滅びればどうなるだろうか。今までの統治とは違いが出てきて、民の不満が溢れれば国の存続に亀裂が走るだろう。

 その時困るのは、慎司とその大事な人なのだ。


 釣り合った天秤はどちらにも傾かず、慎司の心を縛り付ける。


「邪魔しないでくれよ。英雄さんが素直に退いてくれるんならこの2人は解放してやるからよぉ……頼むよ、なぁ?」


 嫌な笑顔を浮かべて頼み込んでくる男。

 だが慎司はそう提案されてなお、構えを解かずに動けないでいた。

 その迷いが、引き金となったのだろうか。


「ああそうか。それならお前にも絶望ってやつを味わわせてやるよ。そうしたらこの国にも嫌気がさすだろうさ」

「何を、言って……」


 動けない慎司を前に、フードの男はめんどくさそうにため息をつくと、ガレアスの方を視て──


「用済みだ。死ね」


 ──ただ短く、そう告げた。

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