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134.かけ離れた力

 

 視界いっぱいに広がる炎に、思わずルナは目を覆う。

 業火とも呼ぶべき勢いの炎を作り出したのは、慎司が魔法で呼び出した天使らしき女性だ。


 炎の渦中にいるにも関わらず不思議と熱も痛みも感じないが、ルナの周りで蠢いていた影たちは皆一様に苦しみもがいている。


「これは……もう人間業ではないですよ……」


 慎司とともに戦線に立てると思い張り切っていたルナだが、結局お気に入りのマジックダガーを振るうことはなく、しょんぼりとしたままダガーを鞘に納めることになる。


「もう!ひとりで全部終わらせたら私の出る幕がないじゃないですか!」


 バッと後ろを振り返って不満を訴えると、片手をあげて申し訳なさそうに笑う慎司の顔が見える。


「俺もな、思ったより強力で焦ってるんだ。魔法陣とか超大きかったしな」

「……ご主人様、何の魔法を使ったんですか?」

「エ、エクスキューション……」


 慎司が何気なく使った《最上級光魔法》のエクスキューションだが、ルナからしてみればそれは極めて理解に苦しむものであった。


「エクス、キューション……と言いましたか?」


 若干声を震わせながら聞くが、それも無理はないというものだ。

 そもそも各属性の最上級魔法というものは、第一に必要とされる魔力量が莫大である。

 そして要求される魔力を扱う技術の高さも並の魔法使いでは到底こなせないものだ。


 魔法を使えない身ではあるが、騎士団でその事を教えて貰っているルナは、慎司が発動させたエクスキューションがどれほど神憑(かみがか)っているか、よくわかった。


「何かダメだったりしたのか?……うわぁ、まじか……」


 ルナの表情を見て慎司は何を思ったのか頭を抱え出す。

 その顔はやっちまった!と言わんばかりに焦っている。


「あの、ご主人様。別にダメとかじゃないです!ただちょっと普通の人にはできないだけで!」

「うっ!」

「ちょっと規模がおかしいだけで!」

「ううっ!」

「ご主人様がおかしいのはいつものことですし!」

「……新手の精神攻撃かな!?」


 笑顔で毒を吐くルナに、ついに慎司が涙混じりの叫びを返す。

 残念ながらルナに自覚はないようでキョトンとしているが、取り敢えず慎司は自分のしでかした事の大きさを思い知ったのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 騎士団の一員として清廉潔白を掲げて生きてきた。困った者がいれば手を差し伸べたし、それこそ強きを挫いて弱きを助ける、なんてのはそのまま自分のことであると自負していた。


「それが、どうして……」


 呟きと共に槍を構えるが、目の前に広がる黒1色の大群を見ると、槍を握る手が震えてしまう。

 隣を見れば歯をガチガチ鳴らす者もいる。それだけ怖いのだ。


 物理攻撃が効かないというのは、多くの戦闘職の者にとって致命的だ。

 魔法を扱える者は元より少数である上に、その力は有限だ。

 そう考えると、より恐怖が増してくる。


「先輩……お、俺は生き残れるのでしょうか……」


 自分の後輩にあたる、ひとりの騎士が顔を真っ青にして聞いてくる。

 そんなものは自分にもわからないと吠えたい所だが、そうすれば全体の士気に関わるだろう。


「生き残れるかどうかは関係ない、生き残るんだ」


 泣き出したい気持ちをグッとこらえて後輩にそう言った。

 なんとも無責任な言葉だろうか。

 明確に答えるのではなく、精神論で誤魔化した。


「そら、やって来たぞ。つべこべ言ってないで、死にたくないなら槍を構えろ!!」


 恐怖を押し込めて槍を構える。

 長年の経験が、死の気配が強いと告げている。

 このまま影に押しつぶされて死ぬのだろうか。


 そう考える時、ふと頭にひとりの女性の顔が思い浮かんだ。

 いつだって疲れた体を癒す食事を提供してくれるのは、柔らかな笑顔を向けてくれるのは彼女だった。


 幼なじみであり、妻である最愛の人を思い浮かべると、不思議と力が湧いてくる。

 錯覚かもしれないが、恐怖に負けて槍を手放すよりはマシだ。


 槍を握る手にグッと力を込めて、目標となる影を睨みつける。


「生き残らないと……」


 ──その呟きの直後だった。


 突然空に浮かび上がる魔法陣。

 それを驚きとともに眺めていると魔法陣の中から天使が現れた。


 ふと横を見れば、周りの騎士たちも皆空を見上げて天使の動向に注意を払っている。

 影を見据える天使たちの目に自分たちが入っていないことを本能的に察知するが、今更逃げようにも、空からではどこへ逃げても丸わかりだ。


「ラハット・ハヘレヴ・ハミトゥハペヘット」


 どうすることもできずに空を見ていると、天使がよくわからない言葉を紡いだ。

 不思議と響くその声が聞こえると、辺り一面が紅蓮の炎に包まれる。


 熱さのない炎にどこか神聖さを感じる自分だったが、他の者らも同じだったようで、口々に天使だ、神の遣いだと囁いている。


「何はともあれ助かったようだな……」


 自分が生き残っているとわかり、緊張の糸が切れたのだろうか、膝がガクリと折れる。

 倒れることは槍をついて防いだが、それがやっとの状態だ。


「先輩、ダサいですよ……」


 そう、後輩に言われてしまった。

 ただ、ひとつ言うならば──


「お前の方がもっとダサいぞ」


 ──地面に倒れている奴には、言われたくないな。


 とにかく、なんとか生き残れたことに感謝するのみだ。

更新遅くなってて申し訳ありません……

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