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130.決意と覚悟

 

 バルドは大雑把にだが、作戦を立てていく。

 考えなければいけないことは、冒険者たちの救助方法と、巨人の対処法。

 最悪の場合冒険者たちには自分で走ってもらうとして、問題は影の巨人だ。


 バルドは遠くからでもよく見える、その巨体を見る。

 足らしき部分は丸太を束ねたかのような太さであり、その足で踏まれれば命は無いだろう。

 腕の方は足ほどではないが、人間1人を捻り潰すことぐらいは容易くできるであろう。

 見れば見るほど、勝てる算段がつかない。


「……あれをどうにかするのは無理そうだな。となると、ほかの要因で……」


 バルドが作戦を立てるあいだにも、巨人やほかの影は攻撃をやめない。

 家屋(かおく)は崩れ、耐えきれなくなった冒険者が膝をつく。

 無謀な特攻を仕掛けるわけにもいかないため、目の前で繰り広げられる血みどろの光景に、バルドは歯を食い縛る他ない。


「何か、何か……!」


 必死になって巨人をどうにかする方法を模索していれば、誰かがバルドの服の裾を引っ張った。


「ねぇバルド。あれなんかどうかな?」


 振り向いたバルドに、リフレットがある物を指さして提案した。

 リフレットの指さす先にあった物は、積み重ねられた酒樽があった。


「酒樽……?あれをどうしろって?」

「えっとね、お酒って燃えるじゃん?だからドバーッてかけて、《火魔法》で燃やすの!……どうかな?」


 バルドは提案された作戦を採用するか考えてみる。

 一見良さそうな案だが、よくよく考えてみれば粗の目立つ案である。


「確実性に欠けるから、ダメだな。まず酒樽をどうやってアイツにぶつけるか、次に酒に引火した火魔法がアイツにきちんとダメージを与えられるか、それがわからない。失敗はできないんだから、もう少し確実性が欲しい」


 確実性がどうだとか言っているが、多少の博打をしなければ巨人をどうにかすることなどできないだろう。

 そのため、否定はしたもののバルドはいざとなればリフレットの案を実行する気でいた。


「他にも何かあったら言って欲しい。なんでもいいんだ、気づいたことを言ってくれれば構わない」


 バルドがそう言えば、自信無さ気な表情でラスティが手を挙げた。


「あの、僕が使う武器は大剣だよね……。それで、この前ライアン先生から教えてもらった技の中に、相手の大きさに比例して攻撃力の上がる技があるんだけど……」


 チラリと大剣に目をやりながらそう言うラスティ。バルドはその言葉に深く頷くと、作戦として機能するかを考えていく。


「ラスティ。その技はどんなものなんだい?」

「えーと、僕も理論はわからないんだけど、相手の足元を斬って、転ばせることでダメージを与えるみたい」

「なるほど、それならいけるか……?」


 理論はどうあれ、ラスティの技は自分より大きい存在を想定している。

 今の状況がまさにその想定であろう。


 バルドは決め手が見つかると、それを補助するための作戦を立てる。

 必要なのはラスティが技を仕掛けれる状況、そして腕力だ。

 状況はその時によって変わるため、臨機応変に行くしかない。

 だが、腕力については心当たりがあった。


「よし。ラスティの技でアイツをなんとかしよう。そのためには……ニア、君の協力が必要になる」

「え、私……?」

「勿論リフレットにもやってもらうことはある。だが大事なのはラスティが技を決めるということだ。そのためには──」


 バルドはそれぞれのやるべき事を説明していく。

 リフレット、ニア、ラスティはそれを聞いて頷くと、表情を引き締める。

 みんな既に覚悟は出来ているようで、今更何かを言う必要は無いようだ。


「よし、いこう!」


 バルドは一声そう言うと、状況を変えうる一手を打ちに行く。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 猛然と走るのは、盾を構えたバルドだ。

 その後ろを大剣を構えずにラスティが走る。


「進むよ!ラスティ!」

「うん!」


 行く手を阻む者がいれば盾で弾き飛ばし、右手で握った剣で打ち払う。

 作戦の(かなめ)となるラスティにはできるだけ戦わせることが無いように、敵の処理はバルドが担当する。

 開いた道のりを、少し離れたニアとリフレットが走ってついてくる。


「ラスティ!そろそろ準備して!」

「う、うん!任せて!」

「ニア、そろそろ魔法をお願い!リフレットは言ったとおりに頼む!」

「ん、わかった」

「まっかせてー!!」


 ある程度距離を詰めた頃に、バルドは鋭く声を発する。

 巨人とはもう少し距離があるが、敵陣のど真ん中ではニアが魔法を使えない。

 援護のことを考えれば、10メートルほど離れたこの場所が1番適しているだろう。


「詠唱、するね……」

「んじゃ、私は1発やらせてもらいますか!」

「……ふぅぅ」


 ニアが力を上げる補助魔法を使い、リフレットは弓に矢を番える。

 作戦を前にして、ラスティは深呼吸をする。


 その様子を見て、バルドはなんとかなりそうだと安堵する。

 全員が焦ることなく、自分の役割を果たせている。


「……グロウパワー!」


 ニアが使ったのは、《火魔法》の中でも上級に位置する支援魔法だ。

 ラスティも実感できるほどに力が上昇したようで、目を丸くして自身の腕を見ている。


「ラスティ、魔法に目を丸くしてる場合じゃないよ。ここからが本番なんだからね」

「……うん、そうだね」

「バルド、ラスティ!いつでもいけるよ!」


 バルドは1度ラスティに念を押す。ラスティも自分の役割の重さはわかっているようで、神妙な顔つきで頷く。


 リフレットの声にバルドは息を吸い込み、作戦の開始を告げた。


「……作戦開始だ!」


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 崩れた家屋(かおく)の影から飛び出したのは、バルド1人。

 わらわらと集まってくる影を切り払いつつ、徐々に戦闘域を巨人から遠ざけていく。

 狙いは影を自分に集中させてラスティを間接的に援護することだ。


 目論見(もくろみ)は上手くいったようで、巨人から影を大分引き離すことに成功した。

 それを見たラスティが弾丸のように飛び出す。


 何体かの影が攻撃を仕掛けるが、隠れていたリフレットの鮮やかな弓術によって、魔力の付与された矢で頭を打ち抜かれ、攻撃が届くことは無かった。


 ラスティは巨人目掛けて一直線に走っていく。

 構えるのは愛剣の《大剣・穿(うがち)》だ。

 バルドやリフレット、ニアの期待を背にして、ただひたすらに前だけを見て走る。


「おおおおおおお!!!」


 砂塵を巻き上げ、限界を超えるべく咆哮しながら剣を振り上げる。

 ラスティは一撃に全てを乗せて剣を振るう。


(例え相手が巨人だろうと、未知の敵だろうと、それがみんなの敵になると言うんだったら!)


 バルドのようにみんなを引っ張っていけるわけもなく。

 ニアのように魔法に秀でているわけでもなく。

 リフレットのように明るく盛り上げることなどできない。


(それでも、僕は前衛を任された!作戦の要として期待された!)


 前衛を任されて緊張した。それでも自分が守れていると分かればやりがいのある仕事だ。

 作戦の要に据えられ、期待に応えたいと思った。やってやろうと息巻いた。


 だからこそ、この一撃で今までの恩返しを、《認められる》から《信頼》へと評価を変えたくて。

 決意と覚悟を秘めた瞳は闘志に燃え、体は最高のパフォーマンスを発揮した。


(僕は前衛なんだ!みんなを守るんだ!この作戦を成功させて、みんなを──)


「──守るんだっ!!」


 水平になぎ払われた一撃、それは巨人の片足を見事に斬り飛ばすのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 轟音と共に倒れる影の巨人。

 巨人は倒れた衝撃で自身に多大なダメージを受けたのか、霧散する。


 ──勝利である。


「やった!さすがはラスティだ!」


 声を上げて喜ぶバルドだが、その顔は嬉しさよりも苦痛が勝っている。

 ラスティが巨人に剣を打ち込むために、影を多数引き寄せたのだが、想像以上に釣れてしまったのだ。


 盾で受けきれなかった攻撃は鎧を強く打ち、鎧のない部分には浅い切り傷を量産されていく。

 衝撃と斬撃でボロボロのバルドは、それでも必死に戦っていた。

 彼の後ろには怪我をした冒険者がいる。


(ここで逃げればあの人に……!)


 逃げたくても逃げられず、ひたすら耐えることしかできない。

 このまま(なぶ)り殺されるのだろうか。


(ダメだ。ニアと……みんなとまだ生きていたい)


 死ぬのは怖い。


 誰とも話せなくなるのが怖い。

 なにも見えなくなるのが怖い。

 全て聞こえなくなるのが怖い。


 恐怖を感じるからこそ、生きていたいと思う。

 抗わなければならない。

 バルドは死にに来たわけでもなく、死にたいなんてこともない。


「生きなきゃ!折角成功したんだから、戻ってみんなで喜ぶんだ!」


 自分を鼓舞するように叫び、剣を振るう。


 右の影を切り払い、左の盾で攻撃を受け止める。背後に回ろうとする影を蹴り飛ばし、じりじりと前に進む。


 だが、それでも現実は無慈悲であった。


(数が多すぎる!!)


 盾を構える間もなく連撃を仕掛けてきたり、足元を狙ってきたり、捨て身の攻撃をしてきたり、剣を弾いてきたり。


 多勢に無勢とはまさにこのことだろう。

 バルドは圧倒的なまでの数に()されていく。

 徐々に傷が増えていき、反応が鈍っていく。


(本当に、死ぬのかもしれないな)


 既に左手は使い物にならなくなり、右腕も傷だらけだ。

 遠くからニアたちが駆けてくるのがわかるが、恐らく間に合わないだろう。


「はは……ちくしょう……」


 張り切って囮を買って出て、生還できないなんて笑いものだ。

 おどけたように笑って、悔しさから顔を歪めた。


「バルド!!バルド!!」


 遠くからでもよく分かる、ニアの顔。

 詠唱をしようとして影に邪魔をされ、縋るような視線でこちらを見るのだ。

 泣き叫ぶニアの様子を、どこか澄んだ気持ちで眺める。


(ああダメだ。ラスティ、リフレット……ニア。体が言うこと聞かないんだよ……)


 ついにバルドの体は力尽き、右腕がだらりと下がってしまう。

 両腕をだらりと下げたバルドの体を、影は容赦なく突き飛ばす。


「あがっ!ぐぅ……」


 地面を無様に転がり、仰向けで空を見上げる。

 傾きかけた夕日がオレンジ色に染める空。


 死が間際に迫っているというのに、綺麗だ──なんて思ってしまう。

 影に囲まれ、バルドは死を覚悟する。


(ああ、結局役立たずを少し脱しただけじゃないか……まだまだ返さないといけない恩があるのに。それにリーダーがまっさきに死ぬなんて、パーティー失格だな)


 どうかパーティーのみんなは生き残れますように。


 なんて考えている自分が嫌になり、バルドは目を閉じる。


(やり残しは、たくさんあるんだけどなぁ……)


 自分を呼ぶ、誰かの叫び声が聞こえた気がした。

この話の直後に慎司のヘルファイアが炸裂します。

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