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127.瞬殺

大変お待たせしました。

 

 走って、走って、走って。


 慎司は魔力感知で見つけたルナの反応目指してひたすらに走っていた。

 その速度は常人の目には残像すら残すほどであり、走り去った後には烈風が巻き起こった。


「ここを抜ければ……」


 距離にしておよそ100メートル。

 慎司にとって目と鼻の先と言えるほどに近づくことができた。

 呟きと一緒に緊張の糸が緩みかけた時、アルテマの鋭い声が慎司を叱咤した。


『シンジ、上です!』


 その声と同時に、走っていた慎司の目の前の空間が爆ぜた。


 文字通り桁違いのステータスのおかげでダメージを受けることはないものの、突然の爆発に慎司は思わず立ち止まってしまう。


「……っ!」


 立ち止まった慎司は、直感に従い具現化させたアルテマを、振り向き様に振るった。

 嫌な気配を感じた慎司の咄嗟の一撃であったが、今回はその行動が慎司の命を救った。


「少しはやるようだな、人間」

「魔族……!」


 剣を振り払ったまま視線を向ければ、顎に手を当てて興味深そうにこちらを見る1体の魔族がいた。


『シンジ、魔族です。速やかな討伐を推奨します』

「……今はそれよりもルナたちが!」

『彼女達の反応は現在も安定しています。危機的状況には陥っていないでしょう。禍根を残さないためにも、今ここで目の前の魔族を屠るべきです』


 一刻も早くルナたちの元へ行きたい慎司であったが、アルテマの言葉で冷静さを取り戻す。

 現状、危機的状況には陥っていないのだから、倒せるうちに脅威と成りうる存在は排除しておくべきだろう。

 慎司はそうして自分を納得させると、改めて剣を構えた。


「ふむ、構えたな……それは私と敵対するという事で間違いないな?」

「不意打ちしかけようとした奴にそんなセリフを言われるとはな」

「それもそうか。元より私は人間……お前を殺すつもりであった。今更お前の意思の確認など意味の無いことか」


 どこか無機質な声で話す魔族。

 慎司は適当に言葉を返しながら魔族に《鑑定》を向けた。


 《クルーエル:族》

 Lv.255

 HP9999/9999

 MP9000/9000


 STR:999

 VIT:999

 DEX:999

 INT:900

 AGI:950


 読み取ったステータスを見て、慎司は背筋が凍る思いをした。

 全てではないが、殆どの能力値がカンストしているのだ。

 恐らくこの国では慎司を除いて太刀打ちできる人間はいないのではないだろうか。

 それに加え、アルテマと契約を交わす前の慎司であれば、なんとか勝っているレベルだ。


 ここで逃がしてはいけないと思うと、剣の柄を握る手に自然と力が入る。

 1度大きく深呼吸をし、息を整え、慎司は斬りかかる。


「ふっ!」


 短く息を吐き出すと同時に繰り出したのは袈裟斬り。

 振るった剣は蒼い軌跡を残してクルーエルへと迫るが、クルーエルは受け切れないと悟るやいなや、すぐさまバックステップをして斬撃を回避した。


「お前の剣……魔剣だな」

「だったら何だ?不都合でもあるのか?」

「こちらも素手では勝つ見込みが少ないと思ったまでよ。必要ないと思ったが、得物を使わせてもらおう」


 どこまでも偉そうな口ぶりで話すクルーエルに、慎司はもう一度斬りかかった。

 武器を取り出させる余裕を与えない一撃。

 今度はすくい上げるような逆袈裟。

 少し遅めに振った剣は、予想通り後ろに下がって躱される。


(かかった!)


 バックステップは、ただ後ろに下がるわけではなく、小さく飛び退くことで俊敏な動きを実現している。

 慎司が狙ったのは、まさにその飛び上がる瞬間。


「ぉぉおおお!」


 空中では身動きが取れない。

 例え小さな跳躍でも、慎司にとっては大きなチャンスである。


 慎司は振り上げた剣をすぐに止め、高まった集中力のおかげでスローに見えるクルーエル目掛けて剣を振り下ろした。


「むっ!!」


 僅かな隙を狙われたと気づいたクルーエルは、即座に魔力障壁を展開し、攻撃を受け止めようとした。


「甘いな」


 しかし、アルテマは魔力を吸収することができるため、クルーエルの張った障壁はまるで紙のように切り裂かれ、無防備な体に一筋の傷跡ができた。


「ぐうううぅぅぅ!」

「そんな障壁、意味無いぜ?」


 胸を押さえて呻くクルーエルに慎司は挑発の言葉を投げかける。

 怒りに燃えた瞳でクルーエルが睨みつけてくるが、慎司は涼しい顔で受け流す。


「油断した、私の落ち度か……」


 傷に手をやるクルーエルは、そう言うと小声で何かを呟く。

 すると、見る間に傷口がふさがり、慎司を驚かせる。


「へぇ、回復魔法でも使えるのか?」

「魔族とて回復魔法を扱う者ぐらいいるさ。お前も闇魔法を使えるのだろう?」

「まぁ、そういうことか」


 別に魔法が人間の専売特許なわけでもなく、それならば魔族が回復魔法を使えたとしても何の問題もないだろう。

 慎司は塞がった傷口を見て舌打ちをすると、苛立たしげに剣を構える。


「お前に構ってる時間はないんだよ。さっさとやられろ」

「すまないが私も人間を殺さねばならないのでな。ここで倒れるわけにはいかないのだ」

「使命感で行動するのはめんどくさいだろう?楽にしてやるよ!」


 今度こそ確実に倒すべく、慎司はクルーエルの首元を狙う。

 横に薙がれた一撃は、いつの間にか取り出していた剣で弾かれ、逸らされる。


「くそ!」


 クルーエルは剣を弾くと同時に左手を突き出し、濃密な魔力の塊を打ち出してきた。

 慎司はすぐさま魔力障壁を張り魔力弾を防ぐと、ステータスをフルに使った全力攻撃を仕掛けた。


 目にも止まらぬ速度で翻弄し、圧倒的な膂力でねじ伏せる。


「おらっ!」


 背後からの唐竹割りは、クルーエルの右腕を切り飛ばすだけに終わるが、刀身が打ち付けられた地面には深い亀裂が走り、砕け散る。


「なんだその力は……それも魔剣の力だというのか?」

「あー?違う違う。これは俺の素の能力だ」


 右腕から血を流しながらアルテマに目をやるクルーエル。

 慎司は律儀に質問に答えてやると、剣を一閃させた。


「全力出せば、王都が壊れちまうからな」


 自嘲気味に零したセリフは、首から上が無くなったクルーエルには届く事は無かった。

慎司くんの放った唐竹割りの一撃で、王都中に地震が発生しています。

地面を砕くって人間業じゃないですよね。


※表現を修正しました

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