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125.人形

 

 一先ず合流を果たした慎司たち4人は、1度学校を離れて王都がどうなっているかを確認することにした。


 学校に留まっていても、また影が襲ってくるだろうし、騎士団に保護してもらえる可能性も高いからだ。


「よし、一旦学校を離れるぞ。ガレアスについては効果的な案が出るまでは後回しだ。ここで議論しても恐らくいい案は出ないだろうしな」


 慎司の声に、皆それぞれ思うところはあるものの、取り敢えず頷く。

 悲しげに目を伏せ、拳を固く握りしめるアレンの様子が妙に気になったが、顔を上げた時にはその顔から憂いは消え去っていたため気持ちを切り替え、慎司は先頭になって歩き出すのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 学校を出て、王都の中心を目指して歩き出した4人だが、すぐに立ち止まることになる。


 人が、物が、黒一色に塗りつぶされ、視界の至るところに折り重なっていたのだ。


「……これは」

「ひどいな、おい」

「……っ!」


 黒い、人であった何かは近づくと触手の様なものを出してゆらゆらと揺れる。

 恐らく、その触手に触れると同じように黒い人形に変貌させられるのだろう。


 黒い人形は抱き合っていたり、掴みあっていたり、手を握っていたりと、多種多様な形をとっている。

 恐怖に負けて愛する人と最後を共にしようと抱き合ったのか、逃げる際の口論の最中に不意をつかれたのか、飲み込まれかけた誰かを助けようと手を伸ばしたのか。


 できれば視界に入れておきたくない、そう思うほどに、黒い人形たちは慎司たちの精神を削っていく。


『シンジ、あまりその黒い人形を見つめることは推奨できません。僅かですが、その黒い人形からは精神攻撃を感知できます。長時間見ていれば心が囚われ、廃人になる可能性があります』

「……そんな気がしてきたところだ。忠告ありがとうアルテマ」


 見るだけで精神を削ってくる黒い人形から目を逸らしながら慎司はアルテマの言葉をほかの3人にも伝える。


「おいおい、そんなやべぇのがこんなに……?冗談じゃねぇぞ」

「確かに、見ていて気分が良いものではないですわね」

「うん、目を逸らしちゃう」


 全員、黒い人形から何かを感じ取ったのだろう。それが悲しみなのか、痛みなのか、辛さなのかはわからない。

 それでも、決して明るい感情ではないことはわかる。

 慎司は落ち込んだ空気をどうにもすることができず、出来るだけ早く今いる場所を抜けることを考えることしかできなかった。


「みんな、気持ちはわかるが早くここを抜けないと余計に気が参るだけだ。一気に駆け抜けるぞ」


 感情が否定しても、理性ではこの場を離れなければいけないのはわかっているのだろう。

 慎司が先導するように走り出せば、全員黙って慎司についてくる。


『シンジ、魔力感知を使えば道は把握できるはずですよ』


 アルテマの助言を受け入れ、魔力感知を使用してみれば、詳細とは言えないものの、簡易的な地図が頭の中に出来上がる。


「道は分かってる。みんな俺について来てくれ」


 そう言って慎司は頭の中に魔力感知を応用した即席の地図を浮かべ、最短のルートを走り出す。


 黒い人形の、あるはずのない目がこちらを見つめているようで、動くはずのない手が手招きしているように思え、投げ出された足が動きそうで、膨らむ不安を胸に4人は走る。


 時々瓦礫(がれき)が積まれて通りにくい場所があったが、慎司の魔力感知のおかげで行き止まりにぶつかることはなかった。


 王都の中心に近づくにつれて、怒声や悲鳴が聞こえてくるようになる。

 その声は、どうやら冒険者たちや騎士団の者たちのもののようで、度々上がる悲鳴から、被害が少なくないことがわかる。


「そろそろ中心だな」

「どこでも影が湧いてやがるみたいだな。ここでも戦いが起こってる」

「この影、大本を倒さないといけないのか。それとも何か道具みたいな物があるのか。……まぁそれは後で考えよう、今は騎士団の人たちに合流しよう」


 原因の解明よりは、合流が先だろう。

 慎司たちは、声の聞こえる方へと進路を決め、走り出すのだった。

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