124.報告
突然現れた影の襲撃から5時間が経った。
王都中に出現した影はあらゆる生物へと襲いかかり、王都へ混乱と恐怖を振りまいていた。
ただ、突然の事態にもしっかりと対応できる者はいる。
その一部に当てはまるのが冒険者だ。
「女子供を先に避難させろ!戦えない奴もだ!戦えるやつは武器を取れ!」
「おい!誰かこいつを診てやってくれないか!?」
「武器をよこせ!俺も戦う!」
王都に滞在する冒険者たちは、各自の判断で民衆の避難をさせ、積極的に影への攻撃を繰り返していた。
殿を務めることになった人物は大盾を構え、弓の得意な者が遠くから影を射抜き、剣閃とともに影が切り裂かれる。
至るところで勃発する影との戦闘は、基本的には冒険者たちが有利であった。
「怪我した奴は一旦下がれよ!回復魔法をかけてもらえ!」
「こっちに増援を寄越せ!影の数が多いから対処しきれん!」
「お前とお前!俺について来い!」
積極的に攻撃を仕掛けに行くのはパーティー内で前衛を務める者や、物理攻撃を得意とするものばかりであった。
その理由に、魔力の温存というものがある。
いつ終わるかわからない戦いの上で、強力な一撃を撃ち込める魔法使いの需要は高い。
しかし、幾らか攻撃を加えていく内に分かったことだが、影には物理攻撃が効かないのだ。
それならば魔法攻撃をするしかないのだが、やはり魔力切れは避けておきたい。
そこで考えられたのが《属性効果を付与させる魔法》すなわち《付与魔法》であった。
「そろそろ《付与魔法》が切れる頃だ!合図で入れ替われよ!……今だ!」
「おおおおお!!」
「やらせるかってんだ!」
冒険者たちを指揮するのは、実力と名声の伴うAランクや一部のBランクの冒険者たちだ。
彼らの指揮は中々なもので、実戦で積み重ねてきた経験に物を言わせて、直感的ではあるが最良と思われる選択を取っていく。
「影がたくさん現れやがった!こっちにも人を回してくれ!」
「……そうだな、お前ら!あっちのとこに加勢にいけ!」
「了解したぜ!稼がせてもらいましょうかね!」
加勢するべく駆け出した冒険者の言う通り、殆どの冒険者が荒稼ぎのために今回の戦いに参加している。
ギルドから出された緊急依頼のため、報酬もそれなりに多い。
参加する人数もかなりの数になり、中には強力な魔法や武器を持つ者もいるため、依頼の報酬の割には安全性が確保されていると言ってもいいだろう。
その安全性が覆るまでは、どの冒険者も割のいい仕事だと──そう思っていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
時を同じくして、王城では玉座の間にてこの国──ルガランズ王国の王が豪奢な造りの椅子に肘をつきながら近衛騎士からの報告を聞いていた。
「報告します!現在王都に突如出現した影の対処に冒険者と騎士団があたっています。未だこの王城には影の侵入は許していませんが、いつ現れるかわかりません。つきましては、陛下にはフラミレッタ王女殿下と共に避難して頂きたいと思います」
近衛騎士からの報告を受けたエイブリットは眉をピクリと動かすと、近衛騎士を強く睨みつける。
「……フラミレッタだけなのか?」
その真意は、王子であるにも関わらず名前を呼ばれなかった息子への心配である。
どうしてフラミレッタ王女は避難するのに、王子は避難しないのか。
その理由はとても歪で理解に苦しむものであった。
「王子、カルセル様は……今回の事件の首謀者とされています」
私用で忙しくなるため、更新頻度が少し落ちると思います。
できる限り早い更新を維持したいとは思いますが、予めご了承ください。