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122.一時的休息

 

「影に乗っ取られた……って、どういうことだよ」


 驚きや混乱よりも先に、慎司の口から出たのは正確な状況を知るための質問だった。

 無論、ガレアスを一刻も早く助けたいし、そのためならばあらゆる手を尽くすつもりである。

 しかし、そのためには状況の把握が不可欠であった。


 もし意識が残っているならば、なんとかして影の支配を打ち破ることができるかもしれないが、もし意識までも乗っ取られているのだとしたら話は違う。

 慎司やアレン等の第3者が間に入ってガレアスの手助けをする必要があるだろう。


 そこまで一瞬で考えることができた自分の冷静さに、少し嫌悪感を覚えるものの、喚き散らしたところで状況は好転しないのだから、今は心の底へ押し込める。


「どう言ったらいいか。今俺たちは影のような新種の魔物に襲われている、そうだろ?」

「ああ、そうだな」

「そして、ガレアスなんだが、最初は体の半身が黒い(もや)に包まれていたんだ。その時にはまだ意識もあったみたいで、逃げろって俺たちに言ってきたんだ」


 アレンの言葉を聞き逃さない様に集中する。

 言葉のどこに解決の糸口が隠されているか分からないのだ。


「その時はって、今は意識がないのか?」

「ああ、多分そうだと思う。(もや)が体中を覆っていたからな……」

「どうやら問題はその(もや)ってわけみたいだな」


 アレンと2人で話を整理していくと、解決のためには何をすればいいかが見えてくる。

 ただ、対処法が分かっても実行に移すためにはまだ判断材料が足りない。

 影に有効なのが魔法攻撃でも、(もや)を払うことができるかはわからない。

 それに、何度も試すことはできないだろう。

 (もや)を払うよりも先に、ガレアスの体が限界を迎えるからだ。


「さて、取り敢えずはここまでにしよう。後は実際に戦わないとわからないことばかりだからな」

「……ああ、そうだな」

「──話は終わりましたの?」


 これ以上見えない仮想の敵を倒す話をしても意味が無いため一旦話を打ち切る。

 すると、黙って聞いていたエリーゼが声をかけてくる。


 エリーゼは、足を怪我して立てないリプルの傍についており、座り込んでいるリプルにあわせてしゃがんでいるため自然と慎司たちを見上げる形になる。


 見下ろしたままというのも気が引けたので、慎司とアレンは2人が座るすぐ横に腰を下ろす。


「ああ、後は実際にこの目で見ないとわからないってことで、話は一旦終了だ」

「そうでしたのね。まぁ、確かに話だけでは見えてこないものもありますわ。妥当な判断でしょう」


 なんとなく高圧的な印象のある発言だが、しきりに動かされる視線や、空を漂う指先から、エリーゼが激しく動揺していることが慎司にはわかる。


 友人の危機なのだから、動揺して当たり前であろう。

 それも、知り合い程度ではなくかなり親しい間柄だったのだから尚更だ。


「……落ち着けよエリーゼ。焦ったって状況は変わらない」

「これが落ち着いていられますかっ!?……いきなり新種の魔物が現れて!友人が危機的状況に陥って!頼りになる大人はどこにもいない!……焦るなと言う方が無理な話ですわ!」


 余程ストレスが溜まっていたのだろう。

 エリーゼは感情に任せて涙混じりに叫ぶ。

 不満を爆発させたことで緊張の糸が切れたのか、エリーゼはひとしきり言葉を吐き出すと顔を覆って俯いた。


「……無神経すぎたか。ごめんなエリーゼ」

「いや、別にシンジが悪いわけじゃないさ。遅かれ早かれきっとどこかで不満は爆発しただろうさ」


 己の失敗を悟った慎司に、小声でアレンが囁く。

 確かにそうなのかもしれないが、もっとエリーゼの気持ちをよく考えて発言するべきだったのだ。

 そこは慎司の落ち度である。


「まぁ、シンジだって考えることがたくさんあるだろ?俺にはわからないことも、シンジはわかることだってある。だからさ、こういうのは俺に任せろよ。みんなを引っ張っていくのは昔から得意なんだよ」

「……ありがとう、アレン」

「気にすんなよ、その代わりにガレアスを救う案を出してくれれば問題ねぇ」

「はは、それはなかなか難題だな……」


 そう言うと、アレンはエリーゼに近寄っていく。

 どうしていいか分からずにオロオロするリプルは、アレンに一言言われて頷くと、うまく歩けないのに慎司の元までやってくる。


「どうした?」

「なんかアレン君があっちにいってろって。除け者にされちゃった」

「ここはアレンに任せてみようぜ。なんだか自信があるみたいだからな」

「そうなんだ?……でも、アレン君ならなんとかしちゃいそうかも」


 妙にアレンのことを信頼しているんだと思って理由を聞けば、リプルは一瞬エリーゼのことを見てから、内緒だよ──と断ってから理由を教えてくれる。


「実はね、エリーゼちゃんはアレン君の事が好きなの。気づいたのは最近みたいだけど、気持ちとしてはだいぶ前からあったみたい」

「ああ、だからアレンならなんとかなると思ったんだな」

「うん、そういうこと。……でも、内緒にしておいてね?私がエリーゼちゃんに怒られちゃうから」

「ああ、他言無用ってやつだな」


 一体アレンのどこを好いたのだろうか。

 男らしいところ?みんなをまとめるリーダーシップ?魔法の腕前?それとも戦い方だろうか?


(まぁ、めでたくお付き合い。なんてことになったら聞いてみるのもいいかもな)


 束の間の休息というわけではないが、張り詰めていた緊張の糸を少しは緩めることができ、心に余裕ができる。


 隣でニコリと笑うリプルは、エリーゼほど状況を悲観してはいないようで、慎司の顔を楽しそうに見つめていた。


「……俺の顔、見てて楽しいか?」

「ううん、ただ幸せなだけ」

「はぁ?よくわかんねぇな……」


 ──わかってくれてもいいのに。


 そんな不満げな声が聞こえたような、そんな気がした。

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