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121.仮初

 

「ウィンドブラスト!!」


 エリーゼの声と同時に、ガレアスを中心として竜巻が起こった。

 詠唱の時点でどんな魔法を使うかはわかっていたため、時間稼ぎに徹していたアレンは魔法の発動の瞬間に大きく後ろに下がり、竜巻の影響下から逃れている。


「やるじゃねぇかエリーゼ!」

「ふん、この程度できて当たり前ですわ。それよりも、恐らくガレアスはまだ倒れてませんわよ」

「……ああ、よくわかんない黒い(もや)がダメージを肩代わりしてるみたいだ。俺の攻撃に怯みもしねぇ」


 忌々しいとばかりにガレアスの体にまとわりつく影を睨みつけるアレン。

 その手に握られた剣の切っ先はしっかりとガレアスに向けられている。


「何度攻撃しても、影が離れる様子はないみたいだな……」

「これでは、どうやってガレアスを助け出せばいいのか……お手上げですわね」

「悔しいが、エリーゼの言う通りだな。少なくとも俺達じゃ解決出来ない。1度正門まで走ってシンジたちと合流しよう」

「わかりましたわ」


 未だに竜巻の影響下から逃げ出すことのできないガレアスは、暴風にその身を晒し、身動きが取れない。

 2人は頷きあうと、合流地点である正門目指して駆け出すのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 アレンたちを待ち続けて10分。

 慎司とリプルは2人の到着が余りにも遅いため、焦りを感じていた。

 もしかしたら影に襲われているのではないか。もしかしたら怪我をして身動きが取れないのではないか。

 考えれば考えるほど、思考が深みに嵌っていく。


「……ねぇ、シンジくん」

「大丈夫、きっと大丈夫だから」

「……うん」


 ぽつりと零される声に、慎司は過敏に反応してしまう。

 考えたくないのに、考えてしまう。


(早く、早く来いよアレン……)


 焦るあまりに、つい手に力を込めてしまう。

 すると必然的に、背負われているリプルにもそれは伝わり、不安が伝染する。


「もう、アレンくんたちは……」

「大丈夫だ」

「でも……」

「大丈夫だ!アレンたちなら平気だ!平気なはずなんだ!」


 慎司が耐えきれずに叫ぶ。

 不安に押し潰されそうになっているのは、慎司もリプルも同じなのだ。

 この時になって、慎司は初めて待つ側の気持ちに気づいた。

 自分のあずかり知らぬところで、親しい誰かが倒れているのかもしれない。

 そう考えるだけで気が狂いそうであった。


(ルナやコルサリアは、ずっとこんな気持ちだったのか……)


 ふと気づいた、大切な者たちの気持ちに慎司は自分の行動を省みて奥歯をきつく噛み締める。

 自分が今までしてきた行動が、どれだけ彼女たちを心配させただろうか。

 そう思うと、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 自己嫌悪と待ち続ける焦りで心がぐちゃぐちゃになり始めた頃、リプルが驚いたような声をあげた。


「あっ!」

「どうした?」

「シンジくん!あれを見て!」


 慎司の背中から身を乗り出すようにして指さす方向を見れば、アレンとエリーゼがこちらに走ってくるのが見える。


「ほ、ほらな!やっぱり無事じゃないか!」

「うん、うん!良かったぁ、ほんとに良かったよぉ」


 喜色満面、素晴らしいまでの笑顔を浮かべる慎司たちの前に、アレンとエリーゼがやってくる。

 ただ、その顔は慎司たちとは対照的に暗く沈んでいる。


「おい、どうしたんだ?」

「……シンジ、ガレアスが……」

「まさか、死んだとか言うんじゃないだろうな?そんなことは認めないぞ!俺が聞きたいのはお前たちの生存報告だけだ!」


 泣きそうな顔でアレンに喚き散らす慎司。

 どうしてか、仲間を失ったという可能性だけで、酷く心がざわつくのだ。


 認められない、認めたくない。

 聞こえない、聞きたくない。

 ありえない、ありえないで欲しい。


 仲間を失う恐怖と、それに伴う絶望。

 慎司の心に一滴の墨が落とされたようだった。


「違う、シンジよく聞け。ガレアスは生きている」

「……え?」


 ただ、心が真っ黒になる前にアレンの言葉で慎司は我に返った。

 アレンはまだ死んでいるとは言っていないのだ。

 自分の早とちりを恥じた慎司は、黙ってアレンの言葉の続きを待つ。


「ガレアスは──」


 真剣な表情のアレンを見て、肩に置かれたリプルの手が少しだけ力む。

 慎司もつばを飲み込んだ。

 そして、最悪ではないにしろ、最悪に近い状況だということが告げられる。


「ガレアスは、影に身体(からだ)を乗っ取られた」


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