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119.崩れる思い

 

 リプルを背負い走ること15分、追ってきた影はアルテマに任せて、ひたすら正門を目指した。

 瓦礫(がれき)に塞がれた道を迂回し、崩れてくる天井を避け、慎司たちはなんとか正門が見える位置までたどり着いていた。


「やっと正門か……」

「エリーゼちゃん達は、まだみたいだね」


 沈んだ声を出すリプルの落胆が、背中を通して伝わってくるようだった。

 慎司は落ち込みかけているリプルを励まそうと、務めて明るい声を出す。


「すぐに来るって!俺達の方が速いルートだったんだよ!」

「……うん、そうだね。そうだよね」

「ああ、アレンもエリーゼもガレアスも、みんな強いし逃げきれないわけがないさ」


 明るい声に気持ちも引き摺られたのか、不安げにしていたリプルから発せられていた沈んだ空気がいくらか和らぐ。

 控えめなリプルのクスリとした笑い声に、慎司もつい笑みをこぼす。


「ね、シンジ君。もう下ろしてもらっていいよ?」


 慎司に背負われているのが恥ずかしいのか、それとも誰かに今の姿を見られるのが恥ずかしいのか。

 未だ慎司に背負われたままのリプルはか細い声で意見する。


「ん、ああ。大丈夫なのか?足……怪我してるんだし、リプルは軽いからずっと背負ってても問題ないんだけど?」

「えっ!?いいよ悪いし……それに、私重いでしょ?気を遣わなくてもいいよ、自分のことは自分が一番わかってるんだから……」


 実際のところ、数字の9が4つも並ぶ異常なステータスが示しているように、慎司の筋力は人の域どころか、神にさえ手が届くレベルだ。

 そんな慎司が、たった1人の女の子を抱えて重いだなんて感じるわけもなく、身じろぎをするリプルを慎司は手に力を込めて押さえる。


「ほら、俺は全然大丈夫だからリプルは大人しく俺におぶさってればいいんだよ。その足じゃ立つのもつらいと思うし、少なくとも治るまでは下ろす気はないね」

「うぅ……ほんとに?重くない?」

「重くないって、むしろ軽すぎるくらいだよ」

「そ、そっか」


 それっきり、リプルは顔を伏せてしまい会話が途切れる。

 時折首筋を撫でるリプルの穏やかな吐息を感じながら、2人はアレンたちを待つのだった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 目の前を走るのは、共に魔術を競い合ってきた友人。後ろからは全てを飲み込む漆黒の塊。

 ただひたすらに走っているガレアスは、(うず)く右手を理性で必死に押し止めながら、前を走る2人の背中を追いかけていた。


「ケケケケ!」


 声にならない鳴き声を発しながら現れる影を、エリーゼの風魔法が、アレンの火魔法が吹き飛ばし、進路を強引に開いていく。


「くそ!こっちは瓦礫(がれき)で進めない!」

「そこを左ですわ!」


 声を張り上げて走る2人は体力の限界が見え始めているのか、声に余裕が無くなってきている。


 弱っている──そう思えば思うほど、ガレアスの中の(うず)きが大きくなっていく。


『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』


 ガレアスに向けられた無防備な背中。

 その中心部分にナイフを突き刺すだけで、アレンもエリーゼも絶命するだろう。

 無意識でそう考えて、手を伸ばしかけた瞬間、ガレアスは我に返る。


(……俺は何を考えているんだ!?殺す……?アレンを、エリーゼを!?ありえない、2人は俺の大切な友なんだぞ!)


 心では否定しても、体の内から湧き上がる衝動に逆らいきれない。

 殺す、殺したくない、殺す、殺したくない。

 まるで誰かがガレアスの心を()()()()()のではないかと思うぐらいに、ちぐはぐな己の心に、ガレアスは自己嫌悪に陥る。


「なんなんだよ、これ……」


 ぽつりと呟いた言葉は戦闘音にかき消されて、アレンたちに届く事は無かった。

 2人は肩で息をしながら振り返ると、弾んだ声を出す。


「よっし!ガレアス、正門が見えてきたぞ!」


 そう嬉しげに言うアレンの背中に、影が襲いかかるが、横から飛んできた風の弾丸で影は吹き飛ばされる。


「んもう!アレン、よそ見しないでくれます?」

「あ、ありがとう。助かったぜ」


 間一髪のところでアレンを救ったエリーゼは腕を組んで目を吊り上げる。

 目の前のゴールに気を取られて、危うく命を落とすところだったのだ。

 エリーゼが怒るのも無理はない。


「あなたはいつもいつも……」

「あー、わかったわかった!話は後で聞くから、今は合流を優先しようぜ、な?」

「ん……それもそうですわね。では正門に行きましょうか」


 軽い足取りで2人は正門目指して歩き出す。

 走り出したいところだったが、正門までの道は瓦礫(がれき)が所々に積み重なっており走り抜けるのは難しい。

 呼吸を整える意味でも、歩くのが最善であった。


 並んで歩く2人の一歩後ろを歩くガレアス。

 その手は服の内側へと差し込まれ、目当てのものを掴む。


「シンジたち、もういるかな?」

「シンジがいるのですし、もういるのではないですか?」


 悠長に会話をする2人、ガレアスは先に与しやすそうなエリーゼをターゲットに選ぶ。


 服から取り出したのは、銀色のナイフ。

 磨きあげられたナイフは光を反射して怪しく光り、ガレアスは虚ろな目でそれを突き出した。

ガレアスにも、こうなった理由があります。

大体予想はつくと思いますが……

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