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114.長針

やっと更新、できました……!

 

 ぞろぞろとついてきていた筈の生徒たちが一斉に消え失せ、そこにはただ影だけが残っていた。


「は?……嘘だろ?消えた、のか?」


 アレンが耐えきれず声を出す。その目は驚愕に見開かれ、体はわなわなと震えている。

 見れば残った4人全員が、この異常な状況を目の当たりにして体を震わせていた。

 慎司はすぐにショックから立ち直ると、近くにいたリプルとエリーゼの手を掴み、走り出す。


「おい!ぼさっとするな!逃げるぞ!」


 リプルとエリーゼは未だにショックから立ち直れないのか、ただ慎司に引っ張られるがままに足を動かしていた。

 アレンとガレアスは慎司の声に正気を取り戻し、必死の形相で影から離れようと走っている。


 闇雲に逃げても自分たちが不利になるだけなのは、全員がわかっているからか、(おの)ずと足は職員室へと向かう。


「おいアレン!追いつかれるぞ!」

「わかってる!でもこっちに逃げるしかないだろ!」


 並走するアレンにガレアスが叫ぶ。

 その声にも段々と余裕が無くなっており、じわりじわりと詰まっていく影との差への焦りが伺い知れる。

 焦っているのは同じなのか、アレンの返事も切羽詰ったものだった。


 徐々に溜まっていく疲労と精神的な疲れで、既に心身共にかなり疲弊していた。

 男である慎司たちでさえそうなのだから、リプルとエリーゼが限界を迎えるのも至極当然の事であり、限界は唐突に訪れた。


「きゃあ!」

「エリーゼ!?」


 級友の消失に、全力の逃避行。

 流石に限界だったのか、アレンの前を走るエリーゼが躓き、地面に顔から倒れ込みそうになる。

 後ろから見ているアレンには、その様子がよく見えていたのだろう。

 エリーゼの異変を察知すると、完全に倒れる前に腰に手を回して、体勢を立て直させる。


「大丈夫か!」

「え、ええ……ありがとうですわ」

「いいから急げ!走れるか?」


 腰に回った手と、息を感じるほどに近い顔を意識してエリーゼは頬を赤らめる。

 アレンはそんなエリーゼに構うことなく走るように促すと、腰の革袋から1つの石を取り出すと、後ろに迫る影へと向かって思い切り石を投げつけた。


「結界だ!少しは防げると思う!今のうちに!」


 アレンの言う結界は、投げつけた石を中心にして球状に広がった。

 神々しい光を放つ結界は影をまったく寄せ付けず、壁となって影の侵攻から5人を守ってくれる。


「ナイスだ、アレン!」


 影が追ってこれないことを確認すると、5人は一斉に駆け出す。

 職員室にたどり着く頃には、慎司を除いた全員が息も絶え絶えとなっており、リプルに至っては職員室についた瞬間に手を握り続けていた慎司にすがりつきながらヘナヘナと座り込んでしまった。


「なんとか、逃げきれたな……」

「ああ、ただ俺の投げた結界の魔法石もそんなに長くはもたないぜ?」

「わかってる。なるべく早く対処しないとな」


 5人が飛び込んだ職員室には、幸いなことに教師が何人か残っていた。

 突然発生した『影』に対処するべく、会議を開いていたのだろう。


 チラリと見た時計の針は、『15:30』をさしていた。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 慎司たちが影に追いかけ回されている頃、影は騎士団の詰所にも現れていた。

 最初に影を発見してのは、たまたま警備として詰所内を巡回していた2人の騎士であった。


「なんだ、あの黒いの?」

「人っぽいな」

「形だけはな。真っ黒い人間がいてたまるかよ」

「そりゃそうだ」


 魔法学校の生徒たちと同様に、騎士たちは突然出現した影に驚いたものの、取り乱すことは無かった。

 何度も反復してきた構えをとり、得体のしれない影へと長剣の切っ先を向ける。


「おい、初めて見る魔物……みたいだからな、報告はお前がしてこい。俺は適当にこいつを抑えておく」

「わかったぜ、ただの黒い塊みたいだし、調べる前に倒すとかしてくれちゃってもいいぜ?」

「うるせぇ、いいからさっさと行けよ」

「へいへい」


 警備をしていた2人の騎士の内、1人が影を引きつける役を引き受け、もう1人は正体不明の敵を報告すべく走り出す。


「さて、と……初めて見るぞこんな敵。なんか勢いで報告に行かせちまったが、強敵だったらやべぇな……」


 騎士は、己の迂闊な判断を恥じた。

 習慣と化していた警備のせいで、目の前に立つ影の強さを知る前に自ら不利な状況を招いてしまったのだ。


 ペタリペタリと近づいてくる影。

 影が剣の間合いに入る一歩手前まで近づいた瞬間、凄まじい悪寒を騎士は感じた。


「うおっ!なんだそれ!」


 横に飛び退いたのは直感であった。

 騎士が飛び退くのと同時に、影は腕を伸ばして攻撃してきた。

 その貫手は、当たれば鎧さえ貫通するのではないかと思わせるほどの鋭さだった。


「くっそ……なんでもありかよ」


 再び剣を構え直し騎士は愚痴を零すように呟く。

 影は、初撃を避けた騎士をじっと見つめていた──ような気がした。


「熱い視線だねぇ、お前目とかないけどな」

「……クケケッ」

「なんだよ、口が無いのに喋るのかよ」


 のっぺらぼうの影は声なき声で騎士に語りかける。


「かあんたがはすやるかどわい」

「あぁ?済まないがお前の言葉はわかんねぇよ」

「ざかんはねたんらだ」


 影は首を振るような動作をとると、一気に間合いを詰めてくる。

 下から抉り込むようなアッパーカットを繰り出す影。

 騎士はそれを剣で受け流そうとして──影に捕まった。


「あ、ああ……!?」


 影の攻撃は剣を飲み込み、更にその先にいる騎士を飲み込もうとする。

 剣に比べて体積の大きな騎士はすぐには飲み込まれずにいるが、すぐに飲み込まれるだろう。

 騎士は己の敗北を悟ると、抵抗をやめて大人しくなる。


「……報告、俺が行けばよかったぜ」


 その言葉が騎士の最後の言葉となる。

 影は一瞬嬉しそうに笑う様子を見せると、一気に騎士を飲み込んだ。


 詰所から見える大きな柱にある時計は、『15:15』をさしていた。

名も無き騎士くんは今後出てきません。

次はルナちゃんが頑張るはずです。

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