表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/163

113.崩壊の連番

 自習時間に、少々規模の大きい魔法を使用していた慎司たち。

 冷や汗を流しながら、必死に地割れを起こそうとするガレアスを止めるアレンの努力はとても涙ぐましいものであった。


 そんな時、唐突に轟音が鳴り響き訓練場を凄まじい振動が襲った。

 腹の底まで響く重低音は、まるで破砕音の様にも、獣の唸り声の様にも聞こえる。

 慎司はすぐに緩めていた緊張を引き締めると、生徒たちに呼びかけて一塊になる。


「みんな!何があったかはわからないが、取り敢えず俺の近くに来てくれ!」


 その声に、生徒たちは不安そうな顔をしながら慎司の周囲に集まる。

 慎司としても、集まってくれた方が守りやすいのだ。


「おいシンジ!何があったんだよ!」

「……わからない。ただ、嫌な予感がするんだ」

「嫌な予感、ですって?」


 アレンとエリーゼはすぐに状況を理解したようで、何が来ても良いように警戒を強める。

 他の生徒もそんなアレンたちを見習い各々が警戒心を高めていく。


(アルテマ、魔力感知で何かわかるか?)

『シンジ、何か大きな反応がこちらに接近してきています。注意してください』

(大きな反応……?)


 アルテマから注意を促され、慎司も魔力感知で反応とやらを探ってみる。

 その瞬間、訓練場の扉が大きく歪み、へしゃげた扉を吹き飛ばして何かが訓練場に侵入してきた。

 人の形をした、黒い塊の様なものに、半透明の黒いもやがかかっているのだ。


「おい、なんだアレ……」

「人、なのか?」

「やだ、怖いわ……」


 おぞましい気配を振りまく何かを見て、生徒たちに混乱と恐怖が広がっていく。

 中でも精神の弱い者はギリギリのところで持ちこたえている。

 恐怖が爆発すれば、例え慎司でも守りきれないかもしれない。

 侵入してきた何かに視線を合わせ、様子を伺う。


(くそ、なんだアレ。まるで正体がわからない。取り敢えず鑑定しておくか……)


 慎司が視線に意識を乗せて鑑定をする。

 そこには極めて不可解な結果があった。


 《影:???族》

 Lv.100

 HP2000/2000

 MP2000/2000


 STR:???

 VIT:???

 DEX:???

 INT:???

 AGI:???


(どういうことだ!?俺の鑑定でも正体が掴めないってことか?)

『いいえ、それは違います。あの影という敵はその場の恐怖を喰らって成長します。また、負の感情によって様々な強化を施されるのです』

(あー、だから正確な数字が表示されないのか。わかった、取り敢えずアイツを倒さないとな)


 不可思議な鑑定結果の理由もすぐに判明し、慎司は最大火力である魔剣で切り払おうと駆け出す。


「じかゃたまさすやるらな」


 慎司の姿を見た影は、人の様な形で(いびつ)な言葉を発すると、黒い球を生み出し、慎司ではなく後ろの生徒たちに射出した。


「なっ!……めんどくせぇヤツだなぁ!」

「クククケケケキキキケケケケ」


 黒い球にどんな効果があるかわからないため、バックステップで駆けた距離を戻った慎司は、魔力障壁を展開する。

 黒い球は障壁に当たると乾いた音を立てて消えていく。どうやら威力は高くないらしく、問題なくすべての黒い球を受けきった慎司は、影に向かって今度は『転移魔法』を使った。


「おらぁ!」

「ケケッ!?」


 瞬時に影の背後に回った慎司は手にした魔剣を縦に切り下ろす。

 スッと抵抗なく魔剣は影を切り裂き、一刀両断する。まるで手応えのない感覚に強烈な違和感を覚え、慎司は1度固まっている生徒たちの元に戻る。


「シンジ!あれを倒したのか!?」

「一応……倒したはずだ」


 戻るなりアレンが話しかけてくるが、慎司の視線は2つに別れた影に向けられたままだ。

 しばらく待ち、影が完全に動かないことを確認すると、ようやく慎司は警戒を解いた。


「……ふぅ、倒したみたいだな」

「もう安全……ってわけじゃないよな」

「ああ、もしかしたらまだこいつらみたいな奴がいるかもしれない。一先ず先生たちに指示を仰ごう」

「そうだな、わかった」


 アレンは頷くと、ほかの生徒たちにも話をしていく。この場から動くことに反対の生徒はいないらしく、スムーズに話は進んだ。


「よし、それじゃあ俺が先頭になるから、後方の注意は自分たちでしてくれよ?」

「わかった!」

「任せてくれ!」


 後ろにいる生徒からの力強い返事に、慎司は少しだけ気持ちが楽になる。


(まずは訓練場から出て……目指すのは職員室だな)


 目的地を頭の中で設定し、学校の地図を脳裏に描く。

 そこまで距離があるわけではないが、決して近いとは言い難い距離だ。

 職員室にたどり着くまでに再び影が現れないとも限らない。


「みんな、最大限に警戒はしておいてくれ。何かあってからじゃ遅いんだ」

「うん、わかったよ」

「わかりましたわ」

「了解だ」

「任せてくれ」


 4()()の返事を聞き、慎司は一歩踏み出そうとした。

 そして、異常事態に気づいて振り向く。


「何が、起きて……」


 そこには、黒い影に塗りつぶされた生徒たちの折り重なる体と、先の見通せない暗闇だけが広がっていた。

影の正体は後ほど明らかに

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ