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111.地割れと氷柱

 

「ファイアボール!」


 素早く詠唱し、魔法名を唱える。

 アレンの突き出した右手からは、以前とは比べ物にならない程の大きさの火球が生み出されていた。

 現在行われているのは魔法の訓練。ただ、教師がいないために自習となっている。


「おー、アレン。かなり魔力の制御が上手くなってきたんじゃないか?前よりもかなり大きな火球を作れてるじゃないか」

「ああ、シンジの言ったとおりに修行したからな。自分の成長を実感できると修行への意欲も高まるよなぁ」


 アレンは、欠かさず魔力制御の訓練を行ってきたため、その実力は既に教室内で1位2位を争うほどになっていた。

 無論1位は慎司なのだが、慎司を除けばアレン、ガレアス、エリーゼ、リプルの実力は同程度である。


「しっかし、魔力制御は魔法を使う上でかなり大事なんだな。前までの俺がアホらしくなってくるぜ」

「あら、アレン。珍しく気が合いますわね?」

「んぁ?エリーゼ、いたのか」


 魔力制御について話していると、いつの間にかエリーゼが近くに来ていたようで、アレンの失礼な物言いに眉をピクリと跳ねあげさせつつも、会話に混ざってくる。


「ええ、たった今来ましたわよ……?シンジは気づいていたみたいです、けど、ねえ!」


 結局怒りが我慢出来なかったのか、エリーゼはアレンの足を思い切り踏みつける。


「いってぇぇ!エリーゼてめぇ!」

「あら、悪いのはアレンの方ですわよ?ねぇシンジ?」

「そうだな、アレンが悪いな」

「あっ、シンジ裏切りやがったな!?」


 足を押さえてぴょんぴょんと飛び跳ねるアレン。

 シンジとエリーゼはその哀れな姿を無視してその場を離れる。

 向かう先はガレアスとリプルがいる場所だ。


「よっ、ガレアス、リプル。調子はどうだ?」


 慎司が声をかけると2人は練習していた魔法を中断して近くにやってくる。

 ガレアスは土魔法、リプルは水魔法を練習していたようで、ガレアスが魔法を練習していた部分は地面が隆起していたり陥没していたりと地形の変化が激しい。

 逆に、リプルの場合は地面に何本も氷柱が立ち並んでいた。


「ああ、シンジにエリーゼか。見てくれ、最近やっと地割れを起こせるようになったんだ!」

「は?」

「何を言ってますの?」

「だから地割れだ、地割れ」


 ガレアスは「見てろ」と言うと、地面に手をつき魔力を流し込んだ。

 凄まじい量の魔力が地面へと流れ込み、地面が振動したかと思うとガレアスが叫ぶ。


「アースクエイク!」


 声に応えるかの如く、地面はパックリとひび割れていき、ガレアスの前には幅2m、深さ15mほどの地割れができていた。


「いやいやいやいや!何してんの!?ガレアスお前何してんの!?」

「いや、だから地割れ……」

「それはわかってるよ!なんでこんな規模でかいの!?」


 足を押さえたまま、アレンがやり遂げた顔をするガレアスに食ってかかる。

 その言葉はその場にいた全員の気持ちを代弁している様なもので、誰もアレンを止める者はいない。


「え、だから、その、地割れ……起こしたくて」

「はぁ!?お前規模を考えろよ!見ろよこれ、地面パックリじゃん!訓練場がパックリしてんじゃん!」

「でも、地割れ起こしたくて……つい……」

「うるせぇ、分かったから早くこれ直せ!みんな困ってるから!」


 アレンの鬼気迫る表情に気圧され、理由になっていない言い訳を繰り返していたガレアスも渋々といった様子で再び魔力を地面に通し、地割れを元通りに修復する。


「よーし、戻ったな。偉いぞ」

「アレン、俺はただ、地割れを起こしたくて……」

「それは分かったから、今はやめよ?今やったら迷惑になるからな?」


 アレンの説得により、ガレアスは地割れを起こすことを諦め、ひたすら鉄の棒を硬質化させるという奇行に走り出す。

 土魔法に妙な執着心を見せるガレアスに苦笑いを送りながら、慎司はリプルに話しかけた。


「……リプル、これ何?」

「え、『アイスピラー』ですけど?」

「でけぇよ!なんだこれ!?」


 慎司の知っている『アイスピラー』という魔法は、高さ3m、直径2mぐらいの大きさの氷柱だ。

 しかし、今慎司の眼前に広がっている氷柱の大きさは高さが15m、直径5mほどの大きさだ。

 無論その大きさの氷柱が訓練場に収まる訳もなく、氷柱は天井を貫いている。


「天井!貫いてる!」

「……あはは、ですねぇ」

「リプル!?しっかりしろ!お前はそんなことしないと思ってたのにぃ!!」


 再び爆発するアレン。

 頭を抱えてリプルに詰め寄るアレンであったが、あまりにも大きな氷柱を前にして、彼はつい忘れていた。

『リプルが男性が苦手気味』ということを。


「ち、近いです!」

「ぶっふぉ!」


 顔を引き攣らせたリプルは顔を寄せたアレンを思い切り突き飛ばし、小さめの『アイスピラー』で空中に打ち上げ、『ウォーターボール』で地面に叩きつけた。


「うわぁ……空中コンボ……」

「アレン、死んでませんわよね?」

「勝手に……殺す、な……」


 アレンはびしょ濡れの姿で地面に倒れ伏す。

 それを遠目に見ていた慎司とガレアスは、「リプルには急に近寄ったりはしないようにしよう」と心に誓うのだった。

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