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11.奴隷のいる生活

累計PVが爆発的に伸びていき、怖れおののいています。

これ、反動で不幸になったりしないでしょうか。



 昨日のエンゼルブレスを使った反動だろうか。慎司は、いつもより遅くまで寝てしまっていた。

 既に日は上ろうとしており、日の出を眺めることは出来なかった。


「うーん、魔法も考えものだな」


 魔導書には反動については書かれていなかった。最上位魔法なんて、使える人は少なかったのだろうから、情報もなかったのかもしれない。

 ……もしバンバン使えていたとなると、少し末恐ろしい。


 そんなことを考えながら、ソファーから体を起き上がらせ、ベッドの方を見る。


「あれ?いない」


 ただ、既にそこに昨日寝かせたはずのルナの姿はなく、綺麗に畳まれた掛け布団だけが置かれていた。

 逃げたなんてことはないだろうから、トイレにでも行っているのだろう。

 そう思っていると、案の定扉を開けてルナが部屋に入ってきた。


「あ、ご主人様……お、おはようございます」

「ああ、おはよう。ルナ」


 ルナはこちらを見るなり顔を赤らめて朝の挨拶をしてくる。

 昨日泣きついてしまったことを思い出したのだろう。そんな顔をされるとこちらも恥ずかしくなってくる、と慎司は少し顔を逸らす。


「あ、あの……昨日は申し訳ありませんでした!私なんかがベッドで寝てしまったりして」

「ん?それは別に構わないんだけど……」


 何故か物凄い勢いで謝ってくるルナに、慎司は戸惑った。


「それに、声も……」

「ルナ、ちょっとこっちに来て」


 申し訳なさそうに話すルナがなんだか嫌で、慎司は言葉を遮り近くへ来るよう呼ぶ。

 あまりにも卑屈なルナの態度が、慎司はあまり好きではなかった。

 折角可愛いのだから、もっと堂々として笑顔を見せて欲しいものだ。


「ルナ、命令だ」

「はいっ!」

「これから俺の前では自分のことを卑下するな、もっと自分に自信を持ってくれ。そして、奴隷なんだから、と無茶を言われたら俺に報告しろ」


 だから、つい慎司は強い口調でそう言った。命令を受けたルナはというと、きょとんとしている。


「ご主人様?なんでそんな事を……?それに報告しろとは?」

「簡単な話だ。俺がルナを無碍に扱うつもりはないからだ。報告についても、相手に仕返しするためだ」

「……ご主人様は、お優しいのですね」


 慎司の答えに、ルナはやんわりと微笑む。その顔は人を惹きつける魅力に溢れていて、慎司はルナには笑顔が似合うと思ったのだった。

 同時に、これからルナの笑顔を守っていこうとも思った。この世界では自分は人間を超えた力を有している、だったら仲間ぐらいは守ろうと、慎司は決心するのだった。


「ルナ、お腹が減ってないか?まずは朝食を食べよう」

「ふふっ、そうですね。わかりました」

「あ、先に着替えねーと……」

「はい、ご主人様」


 ルナは、着替えようとした慎司に服を差し出す。仕立て屋で買った安い服だ。特に価値はない。

 それが、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる可愛い女の子からの手渡しとなると、話は変わってくる。

 慎司はルナが1日でこんなに懐いてくれたのを不思議に思いつつ、服を受け取る。


 ルナは昨日渡した服を着ている。気に入ってもらえたようで、痩せすぎた体をふんわりとした服が隠してくれている。

 下は膝下までのスカートのため、細い足がしっかりと確認できる。あまりの細さに人形を思い浮かべてしまう。

 慎司は、それを少し憐憫の篭った眼差しで見つめる。

 視線に気づいたのか、ルナが恥ずかしそうに両足を擦り合わせる。


「あ、あの……ご主人様?着替えないのですか?」

「ああ、悪い」


 あまり見つめるのも失礼かと思い、慎司は手早く寝間着を脱ぎ、受け取った衣服に着替える。

 素材は良いものとは言えないが、着てみれば案外着心地が良い。


 脱いだ寝間着はルナが畳んでくれた。あまり任せっきりにしていると、どんどん自分がダメになっていきそうで少し怖かった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 着替えが終わると、顔を洗い荷物を持って食堂へ向かう。ルナは相変わらず数歩後ろをついてくるが、なんとなく昨日より距離が近いような気がした。


「ご主人様は、よく食べる方なのですね」

「は?」


 食堂で2人分の朝食を要求すると、後ろからルナが話しかけてくる。

 慎司は別に2人分食べるつもりは無いし、大盛りで、等と頼んだわけでもない。


「これ、ルナの分だからな?」

「えっ?ご主人様は冗談がお上手ですね。奴隷である私がご主人様と同じ物を食べるなんて有り得ませんよ」


 ルナはどうやら本気でそう思っているらしく、慎司の言葉を冗談だと言った。

 しっかり食べてもらわないと、栄養失調になる。それに、見てわかる程にルナは痩せている。もっと健康的になって欲しい慎司としては、容認できなかった。


「ルナ、いいから食べな。別に俺は怒ったりしないし、そもそもルナもお腹が空いているだろ?」

「……よろしいのですか?」

「俺がいいって言ってるだろ?遠慮しないで食べろって」

「ありがとう、ございます……」


 長年の奴隷生活で染み付いたものは、そう簡単には払拭できない。慎司がいいと言っても確認を取ってくるのだから、これからの苦労は目に見えている。

 慎司は奴隷ではなく、1人の人間として接したいと思っているのだ。まずはルナにこのことを話さないといけないだろう。

 慎司は朝食を受け取ると、適当な席につき反対側に座るようにルナを促す。


「んじゃ、いただきます」

「……?」


 慎司がいただきます、と言うと反対側に座ったルナは不思議そうにこちらを見てくる。


「ああ、食事をとる時の挨拶みたいなものだ。俺の故郷ではみんなやってるな」

「なるほど、そうなのですか。……いただきます」


 ルナに説明してやると、すぐに慎司の真似をして手を合わせた。

 こうしてちゃんと会話できるのも、昨日の一件のおかげだろうか。

 声を取り戻したルナは、慎司に対して警戒心を一切抱いていない。自分を救ってくれた事で、全幅の信頼を置いているようにすら感じる。


「それじゃ、食べるかー」

「はい、ご主人様」


 怯えられるのは困るが、信頼しすぎるのも問題だと考えながら、慎司は黒パンを食べる。

 ルナはこちらを時折ぼーっと見つめながら、ゆっくりと食べていた。少し顔が赤いのは、スープの暖かさによるものでは決してないだろう。

 慎司はなんだかむず痒くなり、手早く食事を済ませる。


 黒パンの味はあまり感じれなかった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ルナが食事を終えるのを待って、慎司は食堂を出る。荷物は持っているが、その量は少ない。ほとんどアイテムボックスに入れてあるため最低限のものばかりである。


「ルナ、今日は依頼を受けるから……て思ったけど、ルナは冒険者登録してるのか?」

「申し訳ありません、私は10歳の頃には奴隷となっていましたので登録しておりません」

「そっか、ならまずは登録からだな」

「はい、ご主人様」


 そう言って慎司が歩き出すと、ルナもついてくる。やはり立ち位置は後ろだが、また距離が縮まったように感じたのは慎司の錯覚だろうか。


 慎司は、歩きながらルナに硬貨の価値について訪ねてみる。

 ルナは最初は驚いたものの、嫌な顔一つせずに教えてくれる。

 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚となり、金貨100枚で白金貨となるらしい。

 銅貨1枚の価値は100円程度だと知って、宿が安すぎると思ったのだが、宿屋は国からお金がもらえるらしく、安く済むとのことだった。


 お金の価値を知ることが出来たところで、2人は冒険者ギルドに到着した。慎司は普通に中に入っていくが、ルナは周りが少し気になる様子で辺りをキョロキョロと見回している。耳がピンと立ち、ふさふさの尻尾は膨らんでいる。

 慎司と2人で歩いていた時はゆったりと左右に振られていたというのに……。


「ルナ、ほら」


 慎司はルナを安心させようと、手を差し出した。いつだって人を安心させるのは他人から受け取る優しさである。


「え、あの、でも……」

「いいから、ほら行くぞ」


 差し出された手の意味を理解して、顔を赤くしながらもその手を取っていいものかと躊躇するルナ。

 慎司はそんなルナの手をやや強引に掴んで近くに引き寄せる。


「あっ」

「俺がいるから、そんなに怯えるなって」

「……ありがとうございます」


 引き寄せた途端に、女性特有の甘い香りがする。触れた手から伝わる暖かさが慎司の顔を赤くする。

 美少女と手を繋ぐ慎司に、ギルド内の男連中から刺すような視線が向けられる。

 その視線を感じたのか、ルナがギュッと手を握ってくる。


「大丈夫だ」


 慎司が怯えを解くように握り返してやると、安心したのか、ルナの顔から強ばりがとれる。

 それを確認して、慎司はギルドの受付嬢に話しかける。


「すみません、登録を頼みたいのですが」

「はい、お連れの方でよろしいですか?」

「ええ、お願いします」


 慎司が冒険者登録したのは既に知られているらしい。討伐報酬の件で知られてしまったのだろうか。

 ルナは仮登録となるため、また薬草集めの依頼を受けることになるだろう。


「では、仮登録となりますのでこちらの依頼を受けていただきます。依頼達成後に本登録となります」

「依頼は俺と2人でやっても大丈夫ですか?」

「はい、構いませんよ。パーティーを組むのも素質の一つとして評価されますので」

「わかりました、では行ってきます」

「はい、お気を付けて。彼女さんも頑張ってくださいね」


 受付嬢は、淀みなくこちらの質問に答えてくれたが、最後に爆弾を落として行った。

 まさか、カップルと間違われるとは思っていなかったため、慎司は曖昧に返事をしてルナを連れてギルドから出ようとした。

 あわあわしているルナはこの際無視することにした。ピコピコと動く耳が可愛らしいと思う。


 ただ、新米の冒険者が可愛い奴隷を持っているというのは非常に目立つ。

 しかも、それが綺麗な毛並みの狐族なのだから、そこら辺にいる猫族や犬族よりも希少価値は高い。

 ギルドから出ようとした時だった。

 2人の前に見るからに柄の悪そうな連中が現れた。

 リーダー格らしき人物が慎司に詰め寄る。


「おい、そこのお前。ちょっとツラ貸せよ」


 今日も忙しくなりそうだ。

 そう慎司は密かにため息をつくのだった。

報告にあった誤字や、設定について修正をしました。

また誤字などがあれば報告していただければ直します。


次、慎司が無双します。


※誤字を修正しました

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