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105.議論

 

 王都付近の森に突如出現した魔族。

 その対策を練るため、冒険者ギルド2階の会議室には全てのギルド職員が顔を合わせて議論していた。


「魔族のタイプは分かっているのか?」

「直接攻撃が得意ならば盾役を厚めにしなければいかんだろうし、逆に魔法攻撃が得意となれば魔法使いを増やさねばならん」

「そもそも魔族に対抗できるような奴らはいるのか?」

「Aランクパーティーが1組と、Bランクパーティーが2組いるぞ」


 年配の職員が得意げに誰でも分かるような編成案を繰り広げれば、その反対側から根本的な問題の指摘が飛ぶ。

 対策を取るにしても、判断に必要な情報が圧倒的に不足しており、魔族という大きなくくりでしか策を練れないため、情報の少なさが悩みの種となる。


「Aランクが1組にBランクが2組だけだと!?それでは戦力不足だ!」

「ではどうしろと!?現状ではこれが最高戦力なんだぞ!他の奴らは皆長期依頼で出払っている!」


 王都の冒険者ギルドを拠点としている高ランク冒険者は、国の中心ということもあり、かなりの数がいる。

 しかし、不幸にも魔族を討伐せねばならない今、王都にいる高ランクの冒険者の数は僅か3組と頼りないものであった。


「いや待て!確か今王都にはSランク冒険者が1人いるのではなかったか!?」

「……そうか!ギルドマスター!今彼は、シンジ殿はどこにいるのですか!」


 戦力不足を目の当たりにして、会議室内の雰囲気が重くなりかけた時、誰かが思い出したかのようにSランク冒険者の慎司の存在を言い出した。

 その声に光明が差した気分になったのか、重い空気を打ち破るように明るめの声で誰かがギルドマスター、カレントに慎司の所在を問うた。

 魔族を単独で撃破できる程の実力を持つと言われている慎司が戦線に加われば勝利は揺るぎないものになるだろう。

 しかし、カレントは視線を下げて小さく首を横に振った。


「すまないが、すぐには連絡は取れないんだ。彼にはまだ『遠話の魔道具』を渡していなくてね……。今の時間なら恐らく屋敷か魔法学校の方にいるのだろうけど……」


『遠話の魔道具』とは、読んで字の如く遠く離れた相手と話すことが出来る魔道具だ。

 Sランクの冒険者には基本的に与えるようになっているのだが、材料の入手が困難であることと、莫大な費用がかかることから、未だに慎司の手には渡っていなかった。


「くっ、それなら職員に呼びに行かせましょう!彼がいるといないとでは大きな違いになる!」

「その通りだ!ここは一刻も早く彼に応援を求めるべきだ!」


 口では呼びに行くべきだと叫ぶものの、立ち上がることはしない。

 結局のところSランク冒険者をわざわざ呼び出して怒りを買う可能性が怖いのだ。

 視線で「お前が行け」、「いやお前が行け」と牽制をする職員たち。

 それを見かねたカレントはポーラの肩に手を置いてニッコリと笑って見せた。


「ポーラちゃーん。君シンジくんの知り合いだし、ちょっとひとっ走りしてきてよ」

「うぇぇぇぇえええぇぇ!?嫌です無理です御免です!なななんで私なんですかぁ!?」


 ポーラはちぎれんばかりに首を振りながら、両手を突き出してぶんぶんと振り回す。


「なんでって……ポーラちゃんシンジくんと知り合いでしょ?」

「まぁ、はい」

「魔法学校の場所は当然分かるよね?」

「ええ、はい」

「屋敷の場所も一応わかってるよね?」

「はぁ、わかりますね」

「それじゃあ行ってらっしゃい!」

「うわぁぁん!怖いのは嫌ですぅぅぅ!」


 涙目のポーラをぐいぐいと押して会議室から放り出すと、カレントはけろりとした顔で会議を進めるのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 冒険者ギルド1階で待機する冒険者たちは、やる気も十分、魔族の討伐作戦に向けて文句のつけようもないくらいの高ぶりを見せていた。


「やー、ドキドキするなぁおい!」

「お前、そんな調子でコロッと死んでも知らねぇぞ……」


 高ぶる心から、浮かれる者も出てくるほどだ。

 戦意高揚のために少量だがアルコールを嗜む者も多少はいる。

 その量は1口に満たないぐらいであったが、それでも『酒を飲んだ』という事実が彼らの気分を高めていた。


「バルドくん、そろそろ時間だね」

「うん。ニア、リフレット、そろそろ戻ってきて」


 ラスティの言葉を受けて、時計をチラリと見たバルドがニアとリフレットを呼び寄せる。

 2人は酒を飲む冒険者たちに混じって果実水をチビチビと飲んでいたのだ。

 幾らか緊張の色が薄れた顔を確認すると、バルドは2階へと続く階段に目をやる。

 2時間が経った今、階段からはカレントがゆっくりと姿を現した。


「さぁさぁ諸君、お待たせしたね。作戦は大体決まったよ。まずはBランク以上の者は右側に寄ってくれるかい?」


 再び現れたカレントは早速そう言うと、手を右側に広げる。

 その手に従う様に合計16人の男女が右側に寄るのを見ると、カレントは言葉を続ける。


「それでは作戦を伝えよう。今回現れた魔族は1体だけだ。しかし、奴の得意とする攻撃手段はわからない上に、潜んでいる森には弱くはあるものの魔物が出る」


 そこで──と続けてカレントは声を大きくする。


「まずはCランク以下の者に森の魔物の駆除と魔族の搜索を頼みたい。魔族を発見した場合はすぐさま連絡をしてもらって、そこに本命のBランク以上の者達を送り込むという手筈だ」


 カレントの言葉で明確な指針が立ったため、冒険者たちの顔に鋭さが加わる。

 カレントはゆっくりと集まっている冒険者を見渡すと、最後に拳を打ち付けて不敵に笑い、一言。


「魔族討伐、やってやるぞ!」


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