101.冒険者
バルドくんたちの話の序章となるので短いです。
アリスを連れて屋敷の外に初めて出てから半年が経った。
剣を握ってからの毎日は、バルドを大いに成長させた。
それはラスティたちにも言えることで、奴隷として買われた頃から、4人は確実に成長していた。
「はああぁぁ!」
裂帛の気合とともに放つのはバルドの1番得意とする上からの振り下ろし。
1度も欠かさなかったたゆまぬ努力に裏付けされたその威力はバルドのような子どもが放つ剣筋の領域ではなく、風を切る刃は対面するライアンへと迫った。
「ふっ!」
しかし、そんな剣でさえライアンには遠く及ばない。
無気力にも見える構えから、目にも止まらぬ速さで振り抜かれた剣がバルドの剣を打ち付け、はじき飛ばす。
相手の振り下ろす力を利用した技術。渾身の縦斬りを防がれたバルドは痺れを残す手を見つめながら静かに分析すると、負けを認めた。
「参りました……」
「うっし、取り敢えず休憩だな。……あぁ、最後の一撃は良かったぞ、バルド」
「──はいっ!」
自分の渾身一撃が防がれたにしても、師と仰ぐ人物から褒められたということで、バルドの中の自信は確固たるものへと変貌する。
(僕は強くなれている。役立たずなんかじゃない、これからだ。これから……)
固く握った拳に宿るのは1つの決意。
役立たずとして売られた自分を買ってくれた主人、そして同じ奴隷の仲間たち。
せめて手の届く範囲の皆を守れるぐらいの力は手に入れると決めたのだ。
──もう役立たずなんかにはならない。
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「なぁお前ら。そろそろ冒険者として登録してきたらどうだ?」
休憩中、そう言い出したのはライアンだ。
「冒険者、ですか?」
「僕たちが、冒険者……」
話を振られたバルドとラスティはお互いに目を見合わせ、瞬かせる。
これまで行ってきた鍛錬で確かに強くはなっているだろうが、魔物との戦闘なぞしたことはなかった。
だからこその、疑問。
「僕たちで、魔物に勝てるんでしょうか……?未だに先生から1本も取れない僕らが……」
バルドの言葉に、隣に座るラスティも頷き追従する。
それを見て、ライアンは大声を上げて笑った。
「ははは!……お前らなら駆け出し冒険者ぐらいなら簡単に相手取れるぐらいには強くなってるんだ。Cランク以上の魔物にはまだ厳しいだろうが、Dランクまでなら十分勝てるさ。俺がそう鍛えたんだからな」
自信たっぷりに笑ってみせるライアン。
その言葉は間違っていなかった。
駆け出しの冒険者ならば、例え相手が倍の数でもバルドたち4人が圧倒するだろう。
「そ、そうですか……」
「本当にそうなら、確かに冒険者になってみるのもいいかもしれないね。いい経験になると思う」
まだ不安そうにするラスティとは違い、バルドはライアンの言葉を信じ、その上で冒険者になることでのメリットを探し始めていた。
「ま、そういうことだ。ニアとリフレットの嬢ちゃんたちともよく話し合うんだな」
「はい、わかりました」
「は、はい!」
適当そうな口調で話すライアンだが、実際にはたくさんの事を考えてバルドたちのことをしっかりと見ていることをバルドたちは知っている。
その言葉はいつだってぶっきらぼうだったり無責任だったりするが、それでも1回でも的外れであったことはない。
バルドは徐々に、冒険者になることを真剣に考え始めていた。