1.プロローグ
2150年、世界は混沌に包まれていた。
発展していった科学技術と軍事力は、各国に邪な野望を抱かせ、同盟を組んでいた国同士が、兼ねてより険悪だった国同士が戦争を開始した。
各々の目的は、他国の資源であったり財源であったりするが、総じて自国の優位性の確立という点ではどの国も変わらなかった。
日本もそれにならい、変わる世論を背景に、自衛隊は日本軍へ変わり、他国からの侵略に備えていた。
黒木慎司は、その変わり果てた日本において、高い地位を有していた。
日本軍の少将である慎司は、単なる一般兵であった時から才覚を現した。
銃器の扱いは同期の友人を遥かに凌ぎ、白兵戦では負け無しだった。
5年前の大きな作戦で初めて部隊長を任された慎司は、多大な戦績を残した。
進んだ科学技術の前には、歩兵など相手にならない。
戦車やライフルが蔓延っていた戦場は、今やロボットやパワードスーツに身を包む歩兵に変わっていた。
ロボットがガトリングガンを撒き散らし、敵施設を破壊し、パワードスーツに身を包んだ歩兵が死に物狂いでロボットを潰しにかかる。
そんな変貌した戦争の中で、慎司はたくさんの屍を乗り越えて生き残ってきた。
破壊した施設の数は100を越え、潰したロボットの数は数えるのが馬鹿らしくなるほどだ。
学はなくとも、その凄まじい戦績を前に軍は慎司を少将まで昇格させた。
それまでの間に培った部下からの厚い信頼や、戦闘での勘は、慎司を慎司たらしめる重要なものとなる。
2150年の夏頃。
迫る敵国を前に日本軍は敗走していた。
敵国の新兵器は、既存の兵器を使う日本軍を蹂躙し、対策を立てる前に軍は瓦解した。
ステルスミサイルだろうが核ミサイルだろうが、日本軍は物ともしないが、その新兵器はまったく理解が及ばないものだった。
初撃は天からの光の柱だった。
展開するロボットを舐めるように照射されて光は、戦地にひしめいていたロボットの軍隊を消し去ったのだ。
それを目の当たりにした兵を嘲笑うように第2射がやって来る。
パワードスーツの機動力をもってしても、光の速さには到底追いつかない。
徐々にその数を減らす歩兵達。
慎司は一人前線基地で諦観の表情を浮かべていた。
いくら修羅場を乗り越えてきたと言っても、人間死ぬ時は死ぬのだ。
慎司は慌てる部下の中心で静かに目を閉じた。
ああ、機密物品読みかけだったのになぁ。
慎司が最後に思ったのは、今では機密扱いとなり、毎晩少しずつ読み進めていた本についてだった。
その30秒ほど後、慎司は光に包まれその生涯に幕を下ろした。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
深い深い、海の底へ沈むような感覚。手足の感覚は曖昧で、平衡感覚すら怪しい。
真っ暗な視界の中でどちらが上かわからないまま慎司は浅い眠りと覚醒の狭間に微睡んでいた。
「なぁ、……ついつ……寝て……だ」
「知ら……わよ、……聞か……で」
誰かが言い争っているのだろうか。そもそも死んだのではないのか、浮かんだ疑問を確かめようと慎司は意識を覚醒させていく。
「ん、んん……」
「あ、目が覚めたようだね」
感覚が戻り瞼を開けると、目の前にはこの世の男性が全て羨むような美しい青年と、これまた同じように美を圧縮したような女性がこちらを覗き込んでいた。
「おおおおお!?」
「うわ、急になんだい?ビックリするじゃないか」
驚きから声を荒らげてしまったが、反応したのは青年のみ。女性の方は瞑目したまま動かない。
それなら、と慎司は青年の方に体を向ける。
「あの、ここは一体どこなんですか?そしてあなた達は?」
苦手な敬語をすらすら並べながら慎司は質問を繰り出す。人の良さそうな青年ならちゃんと答えてくれるのではないだろうか。
その思いは予想の斜め上をいく回答を持って覆された。
「ここは天界、僕と彼女は神様だよ」
※一部修正をしました
※大幅な加筆修正をしました。




