庭園
風呂からあがり、久々にさっぱりして満足のいく風呂に入れたので上機嫌に自室へと戻っていく途中であったが、ふと目の端に王城の中庭が目に入る。
「ん…?ヴィヴィアンさん。あそこは…?」
「王城自慢の中庭庭園でございます。ご覧になりますか?」
「はい、勿論!」
「秋雨の月なので夜の外は冷えます。すぐに上着を取ってまいりますのでお待ちください。」
「お願いします。」
この秋雨の月は地球で言う10月に当たる。全ての月は日本の季語で付けられているのでわかりやすい名前になっている。
(しかし窓越しでもこの庭園の凄さがよくわかるな…こんな凄い庭園は始めてみたぞ…)
さぞ高名な庭師の手によるものであろうその造りは、素人目から見ても分かるほどに様々な場所から職人による拘りが垣間見える。
(ヴィヴィアンさんには悪いけど先に入ってみよう…正直この体のおかげでそんな寒くないんだよな。)
待ちきれずに庭園へと入り、さっそく見て回る。
「うわぁ…こりゃあ…想像以上だ…」
思わず声が漏れるほどのその庭園は陽が落ち、アディの世界特有の青色の月のみが光源であるにも関わらず、その僅かな光源によって浮かび上がるその姿がまた更に幻想的に美しく見せてくる。
そのまま完全にその庭園に魅入られたまま、歩いていくとガゼボが建つ場所に出る
「お、ここいいな。いや~しかしまさに理想の庭園って感じだなぁ…ここに来てからは本当に感動しっぱなしだぜ…」
椅子を引き、座ると思わずといった様子で一人、ごちる。
「♪~♪♪~」
その庭園に見惚れ、さっぱりした時の上機嫌さも手伝い、思わず自分が一番好きであった曲を思わず口ずさみ、その鈴の音のような美しい声がスッと庭園に響き渡っていく。
そしてそのまま脳内でCDをかけて適当にガゼボ内を歩きながら数分程歌っていると、ふとガゼボへと通じる道で立っているヴィヴィアン、そしてなんとソフィを発見する。
(あれ?ソフィ?ヴィヴィアンさんももう戻ってきてたのか…というか歌聴かれちゃったかなぁ。俺音痴だからはずいな…)
「これはソフィ様にヴィヴィアンさん。いつの間に…」
「え、えぇ…、夜にこの庭園を散歩して回るのが私の日課ですの…あとここではヴィヴィアンしかいないからソフィで大丈夫よ。」
聴かれなかった事を祈りつつ上着を受け取り、話かけるとまたもや顔を真っ赤にして目線を逸らされてしまう。口調もどこが危なげだ。
「わかりました。…ソフィ?どうしましたか?」
「いえ…その、イーリスのその歌声があまりに美しかったので見惚れていたのですわ。」
「えっ?あ、そうですか…?ありがとうございます」
「素晴らしいお歌だったわ。私の知らない歌だったけれど、イーリスの故郷の歌かしら?」
「は、はい、そうですよ。でもお世辞を言っても何もでませんよ?(ア、アニソンだなんて口が裂けても言えねえな…)」
「いえ、本当に素晴らしいお歌でしたよ。庭園から照らされる淡い月明かりにイーリス様の銀髪が煌く光景はさながら月から舞い降りた歌姫のようでした。」
「そ、そうですか?ありがとうございます!」
(そうかそうか、ふふふ…流石はうちの娘だぜ。正直自分じゃほぼ無意識に歌ってたのもあったから、どんな感じの歌い方だったのはかわからんが、王女のお墨付きをもらえるなんて相当だな!)
自キャラをベタ褒めされて、更に上機嫌になっていき調子にのった彼は…
「ふふふ、よかったらもう少しだけ歌いましょうか?」
「本当!?お願いするわ!そうね…ヴィヴィアン、お茶をお願いするわ。イーリスの歌を聴きながら紅茶を飲みたいの。」
「かしこまりました。」
最初のはずかしさはどこへやら。乗せられてしまった彼女はそのままいくつかの聞きなれているので完全に頭の中にはいっている曲を歌っていくのだった。
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夜が明け、昨日の疲れを十分に取った彼女は寝ぼけなまこながらも目を覚ます
「ん、んん~…ふぁぁ…そろそろ起きるかな…」
ベッドから起き上がり、豪華なカーテンを開け、窓から若干下がった位置で陽の光を体いっぱいに浴びて翼と一緒に背伸びをする事で体内時計をリセットさせ、意識を切り替えていく
「おぉ…ここに入った時はすでに陽が落ちててカーテンが閉められていたけど、ここからの景色も中々にいいな。」
やや高台に建築された王城は城自体の高さも相まって、街を一望できるポイントとなっている。
「ふ~~む…家は大体みたとこどこも2階建てか3階建てかな?たった200年で国をこんなにでかくするだなんて土木技術は相当高いんだなぁ…中世っていうと衛生環境は向こうじゃ最悪なはずだけど、そこ辺に糞もなかったし匂いもしなかったもんな。」
そんな事を考えているとノック音が聞こえてくる
「ヴィヴィアンです。イーリス様、お目覚めでしょうか?」
「(うおっ、やべっ)は、はい。起きてます!…どうぞ」
応対しながら慌てて近くにかけてあったローブを着込む
「失礼します。朝食の用意ができましたのでお呼びしました。…あの、イーリス様、よろしければ髪を梳かしましょうか?」
「えっ?…あ、お願いします!」
自身の今の髪の状態を室内にある化粧台で見てみると、その綺麗な銀髪に寝癖がついていたので梳いてもらうことにする。
「昨日は素晴らしいお歌をありがとうございました」
「素人丸出しな歌でよければいつでもいいですよ。」
「本当に素晴らしいお歌でしたよ?…イーリス様はもっとご自身に自信をもってもよろしいかと思われますが。」
「そうですかね?なにぶん人に褒められたことがあまりなかったので…あまり外に出るという事もなかったですしね」
(大学の時以外はずっとアディやってたからな~、つーか相当デキる人間じゃなきゃ褒められるなんて事滅多にないもんだろ。THE 平凡な俺には無理だな~。)
「それは…申し訳ありません、出過ぎた事を言いました。(それはやっぱりイーリス様の背中にあるという火傷と関係しているのかしら…)」
「え?なんで謝るんですか?全然気にしていないので大丈夫ですよ。なにより今がとっても楽しいんですから過去なんて気にしてる暇がありませんよ!」
「イーリス様…ありがとうございます。」
お互い全く見当違いの事を考えながら髪を梳かし終えた後は食堂へと向かうと、すでに皇帝が食事を取っていたのでついでにと一緒に食べることにする。
「時にイーリスよ。ちょっといいか?」
「なんでしょうか?」
「いやなに、実はそのセルペンテネグロを一撃で倒したという腕前をこの目で見たくてな。うちのオスカルと一戦してもらいたいのじゃ」
「一戦…ですか。…ええ、勿論お引き受けします。」
「そうか!いや、本当はワシがやりたかったのじゃが、ルースが絶対に駄目といって聞かなくてのぅ…」
「当たり前です、イーリス様とはいえ一国の主が緊急時でもないのに戦うなど、いくら模擬戦でもありえません。本来あのワイバーンでも…」
「わ、わかったわかった、ワシが悪かった…。そ、そういう事だからよろしく頼むぞ?」
(一国の主でも頭が上がらない人ってのはやっぱりいるんだなぁ…)
「わかりました、それでは昨日の訓練場に?」
「頼むぞ。とはいえ今回はこないだとは違って見物人が結構居るが。」
こうして急遽、事実上の国の最高戦力である騎士団長と戦うことになるのであった
イーリスが歌ってた曲はそれぞれ皆さんが好きな神秘的な曲を脳内で流しながら読んでくれたら入り込めるかと思いますw
ちなみに作者はマクロスプラスのVOICEあたりを思い浮かべながら執筆してました。