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ケモナー

 店先の檻に入っていた獣人族に惹かれるがままに店内へと入ったイーリス達はやってきた店主に出迎えられる


「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?」

「ケモ…じゃなくて、こいつを売りたいんですけど大丈夫ですか?」

「これは…人族ですよね?申し訳ありませんが、当店は獣人族専門のお店となっておりますので、買い取ることはできません。」

「獣人族専門…?」

「はい、専門店として出しているのは当店のみなので、他店でならば問題なく買い取れるでしょう。見た所血色はかなり良く、体格も筋肉量も申し分ないので高値で売れるでしょう」

「そ、そうですか…わざわざありがとうございました。」

「いえ、またのお越しをお待ちしております」


 門前払いを食らってしまったイーリスだが、そんな事よりもイーリスが一番きになっていたのは店先の檻に入っていた獣人族だ。より、正確にいうとケモノ度が高い獣人族なのだが。

 

(むうおおおおん…正直、かなり好みなんだが…人間というかケモというか…それを[買う]って行為がなぁ。俺の中の色々なボーダーラインでかなりギリギリなんだよな…)


 中々決めきれないイーリスは悶々と考えながら、適当な次の店に入っていき、店員らしき人物が応対してくるので、さっそくカールを売り込む。

 

「そうですね…血色も良好、体格も体調も申し分ないので高値で買い取りましょう。…それで何故彼は気絶しているんですか?」

「盗賊の類でして、暴れられると厄介なので気絶してもらってるんです。」

「なるほど…まぁ、隷属の首輪を付ければ問題ないですし、80万ユノほどで買い取りましょう。」

「意外と安いんですね?」

「戦闘奴隷の相場が大体30万ユノなのを考えればかなり破格の値段だと思われます。」

「(ヴィヴィアン、この店主が言っていることは本当ですか?)」

「(はい、戦闘奴隷は危険なときの囮として使われることも多いので安めなのは確かです。この男のギルドカードにあるステータスカードを見せればもっと高値で売れるでしょうが、Bランク冒険者を紹介なしに買い取ってくれる場所は非常に少ないと思います。)」

「(そうですか、それなら問題ないですね)いいでしょう。それでお願いします。」

「ありがとうございます。それではさっそくここにサインを…」


 名前を書き込み、それを確認した店主は引き出しから首輪と針を取り出した店員はカールに首輪を取り付けてからその首輪に触れて長々と呪文を詠唱する。その後針を指に刺して血を少し滲ませてから首輪に血をこすりつけると首輪が光を発する。

 

「これは…?」

「おや、お客様は奴隷を売るのは初めてですか?」

「はい、実はそうなんです。」

「これは隷属の首輪です。この首輪をつけたあとに触れながら詠唱をすると、契約状態となります。その後、契約したい者の血をその首輪に付ければ、契約完了となり、行動の全てを命令する事ができるようになります。それら逆らおうとすると強烈な痛みを発し、最後には死に至ります。」

「なるほど…とても恐ろしい魔導具ですね」

「そうですね。とはいっても首輪を嵌めてそれに触れながらかなり長い詠唱をしないといけないので、こういった事にしか使えませんが。」


(まぁ、だいたいイメージ通りって感じか…人から物に変わる道具って訳か。本当に恐ろしい道具だな…)


「それでは代金です。」

「はい、確かに。それでは失礼します」


 店を出たイーリスは宿屋に戻ろうとするが、とある店の前で足が止まる。そこは、先ほどの獣人族を専門に取り扱う奴隷店だ。

 

「…ねえ、ヴィヴィアン。」

「はい、なんでしょうか。」

「私が奴隷を…獣人族の奴隷を欲の為に買ったら失望しますか?」


 ヴィヴィアンに向き直り、真っ直ぐに見つめて問いかけるが、その答えはすぐさま返ってくる。

 

「いえ、そんな事はありません。イーリス様は短いご同行の中でも沢山の方々を救ってきました。それでもそれを自慢することも驕ることもなく、至極当然のように行う。言葉にするのは簡単ですが、それを実行に移すことはとても大変な事です。そして何よりも私はイーリス様とアズラ神に何があってもお供することを誓っております。イーリス様の前から去る事など絶対にありえません。」

「…ふふっ、そんなに私の事を信頼してくれてありがとうございます。とても安心しました。…最後までずっと私の大切な人として一緒に居てくださいね?」

「もったいないお言葉です」


(そっか…よくよく考えたらこの都市に来る時点で100人を奴隷送りにしているんだ。ボーダーラインなんてとっくのとうに超えてたな…犯罪奴隷は消耗品だ。つまりあの盗賊達は全員…俺だって十分すでに汚い事に手をつけてたのに、それを今更ビビって躊躇うなんて虫が良すぎる。もううじうじ面倒な事は考えるのはやめだ!よし!)


 決心をしたイーリスは先ほどの店に入店をする。

 

「いらっしゃいませ。おや、あなたは先ほどの…」

「獣人族を買いに来ました。この店で一番いい商品を見せてください。」

「…失礼ですが、当店は希少な獣人族を扱っておりますので、お顔を隠すようなお客様の方がお支払いできるような金額ではないかと…」

「これでは駄目ですか?」


 フードをとってからインベントリから一枚の黒光りする硬貨を取り出す。この大陸で使われている貨幣の最高金額1000万ユノの価値を持つ「黒光貨」だ。

 

「…ッ!!これは失礼しました。すぐにご案内します。」


 その美貌と黒光りする硬貨に思わず息を呑み、すぐさま態度を改めて誠実に対応する商人だが、貴族や王族や豪商くらいしかお目にかかることのない程の価値を持つ硬貨が突然目の前に出てきたのだから当然だろう。

 こうして案内された場所は豪華な客間だった。どうやらここに商品を連れてくるようだ。

 しばらくすると4人ほどの獣人族を連れて戻ってきた。

 

「これが当店自慢の商品でございます」


 出てきた獣人族は全員美形だが中々に多種多用だ。

 

 耳と尻尾だけが生えて体そのものは完全に人間の女性の獣人族。

 

 手と足だけが毛に包まれて他は完全に人間と同じ男性の獣人族。

 

 店先に飾られていた獣人族と似たタイプの顔のパーツや骨格は人間だが、全身が浅葱色あさぎいろの毛並みに覆われた女性の獣人族。

 

 そして最後に先ほど店先にいた骨格は完全に人間そのものでありながら全身が灰色の毛に覆われた男の獣人族だ。

 

(うおおおおおおお!!やっぱケモはこうでなくちゃな!一番左の耳と尻尾だけの子もかなり可愛いけど正直あれはコスプレにしかみえないから除外だ。ケモ度合いの好みには違いがあるから悪いとは言わないけど、人間要素が強過ぎてホントただのコスプレなんだよなぁ。それを獣って…いや、それは今は置いておこう。とにかくあとの3人だが…もう決まったな。)



「説明をしましょうか?」

「いえ、もう決めました。左から3番目の子です。」


 イーリスが選んだ獣人族は浅葱色の毛並みを持つ女性の獣人族だ。

 

 隷属の首輪で喋ることを許可されていないのか一言も喋らないが、かなりの美形であることが伺える。

 

 浅葱色あさぎいろの毛並みは美しく艶があり、顔つきの印象としては可愛い癒し系といった感じだ。

 おなか付近や手足などの部分によっては白色の毛が生えていて、目の色は体毛と同じ浅葱色をしている。

 セミロングくらいの髪の毛を2つ結びにしているが、結んでいる位置がやや低めなので若干おさげっぽくなっているが髪質がいいのか結び目より上側はふんわりとしている。

 髪の色は体毛と同じ浅葱色をしているが途中でグラデーション状に白色に変化していく特徴のある髪になっている。

 

 

 そんな彼女の表情は不安に満ちていて、とてもおどおどしていた。ローブを羽織り、フードを被っているのだから当然だろう。

 

「こちらは獣人族国家『ユスティ』の聖地『ハール』の中でもかなりの武芸に秀でた名家生まれなので、戦闘能力、所作、見た目共に当店でも最高となります。なのでお値段はかなり高く750万ユノになりますが…よろしいですか?」


 ここの奴隷市場の相場ではそこそこの美人な人族の性奴隷でも200万ユノするのを考えると確かにかなりの高額だ。

 しかし、ユスティはここからはかなり遠くに位置する国なので獣人族自体の希少性が高く、なおかつ戦闘奴隷としても性奴隷としても優秀と来れば当然の値段だろう。

 上級貴族でも即決できない程の金額だが、イーリスの場合はゲーム時代に大量に所持していたので懐に響くことはほとんどない。

 

「構いません。一括でお願いします。」

「かしこまりました、追加料金で様々な調教を施すことができますが…」

「結構です。これでいいですか?」


 インベントリから硬貨を取り出してぴったりに渡す。

 

「確かに。それではすぐに契約をします。」


 首輪に触れて呪文を詠唱してから用意された針に指を刺そうとするが何故か刺さらないので強く押すと針先がポッキリと折れ曲がってしまう。

 

(う、うん?あれ?もしかして素のステータスが高過ぎて刺さらない?…これはマズいな。)


「どうされましたか?…もしかして針が刺さりませんか?」

「あ、はい。どうしてわかったんですか?」

「高名な冒険者の方は普通の針では傷が付かないと聞いた事があったのですが、本当だったんですね。失礼ですがお名前は…?」

「…ローブで顔を隠しているという点で察してくれるとありがたいです。」

「し、失礼しました。…しかし当店ではこの針しか用意できていません。困りましたね…」

「そうですね…ちょっと待っててください。」


(イーリスには傷一つ付けたくないんだが…こればっかりはどうしようもないか)


 店員と獣人族達の死角になるところに移動してインベントリから愛用の聖剣を取り出し、その切っ先を指に少しだけ刺すと血が滲んできたので店員の元に戻り、首輪に血をつけてようやく契約が完了する。

 

「奴隷の扱い方はご説明しますか?」

「お願いします。」

「まず、他人の奴隷を奪うことは違法なので処罰の対象になります。使い捨てにできる程に安い魔導具でもないのでこれを第三者に売ったり紛失した場合は処罰の対象となるのでご注意ください。」

「わかりました。それでは失礼します」

「またのご来店お待ちしております。」


 こうして奴隷市場を出た後は宿屋へと戻り、そこで自己紹介をする。

 

「私はイーリスです、こちらは従者のヴィヴィアン。あなたの名前は?」

「ワイス…ワイス=フランライトです。」


(さすがは名家のお嬢様、動きが上品だな。なのになんで奴隷になってるんだろ…店主に聞けばすぐわかることだろうが彼女が話してくれるまでは聞かないほうがいいな。)


「よろしくね?ワイス。」

「は、はい。よろしくお願いします。イーリス様。」

「できればでいいけれど様付けはいらないですよ。」


 その後、宿屋へと戻るが獣人族自体が珍しいうえにケモナーでなくとも惹かれる美しい毛並みをしているおかげでかなりの視線がワイスに降り注いでしまい、それに気が付いたワイスは落ち着きがなく尻尾が動き、耳をピコピコと動かしている。

 

「すぐに宿屋に着きます。それまでの辛抱ですよ」

「はい…」


 宿屋に戻ると保護した彼らから依頼の受注がされた事聞かされたので、すぐに冒険者ギルドに向かう事にするが、ワイスを連れて行くと間違いなく視線を集めると判断し、ヴィヴィアンにワイスの事を頼んでからギルドへと向かうのだった。

今度はヴィヴィアンと同じ口調のキャラが…


わかっているのにしたのはやはり作者がこういうキャラが好きだからなんです…こ、この先で変えていくのでもう少しお付き合いお願いします!


それと明日あたりに登場人物のまとめとか詳しい設定とか投稿すると思います。

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