ギルド依頼
作中に入れるタイミングを失ったのでここに書きますが、3人の冒険者はヴィヴィアンにお礼を言った後に無事に移住し、最初自分だけ助かろうとしていた商人はアントンの自宅へと帰ってます。
風呂からあがるころにはすっかり陽も落ち、明かりといえば月か少数立つ魔石街灯のみとなる深夜に、今だ明かりが落ちぬ宿屋の一室があった。
「保護した人の様子はどうですか?」
「非常に落ち着いています。特に酷く酷使されていた女性も居た為全員が元通りというわけではありませんが…マヤミルへと移り住めるということを説明すると、顔を明るくしていました」
「そうですか、それはよかったです。惜しむらくは未だに戻ることのできない女性ですが…こればかりは時間が解決するのを祈ることしかできませんね。もう少し救出が早ければ結果は変わっていたんですが…」
「イーリス様が気負うことではありません。食料難やダーフィルのような盗賊団が全ての元凶なんですから」
「そういってもらえるとありがたいです。今はとにかく気持ちを切り替えることが先決ですね、紹介状の件はどうなりました?」
「問題ありません。イーリス様の名前も同じくそえておいたので丁重にお迎えされるでしょう。」
「それでは明日送ってもらうようにギルドに頼んでおくとして、次にここでの予定を考えますか。何か観光名所のような場所はありますか?」
「アントン城の見学は難しいですが、アグニス王国では広く知られた『メエルーン教』の総本山『メエルーン大聖堂』古代の遺物『アグニス海底大監獄』などがあります。…あとはギルド本部もありますね。」
「ギルド本部?でも、マヤミルにすでにありませんでした?」
「はい、先代様は当時世界最強と言われた冒険者パーティのリーダーでもあり、ギルド長にもなっていたのでそこで建国したことで自動的にマヤミルに本部が移ったんです」
「それなのに何故?」
「アグニス王国もアントンも戦争時に大きな被害を受けた影響が当時も残っていたので冒険者ギルドを立て直す余裕がなく、それは快諾したんですが、復興して再び強国となると、新興国に冒険者ギルド本部がある事に不満を感じ、こちらが本来のギルド本部だと主張しているんです。」
「…なんだかまるで子供ですね。」
「そうですね。歴史はとても古い国ですが、復興時に色々と体制が変わった影響だと思います。戦争前はギルド本部がアントンにあったせいもあると思います」
「なるほど…なんだか本当に厄介な国なんですね。気をつけて観光しましょう」
「勿論でございます」
こうしてアントン王国の初日が無事に過ぎ去り、朝になったことで次第に目を覚ましていく。
「んー肌寒い…もう少しだけオフトゥンに…」
アントン王国は南よりなのでそれほど寒くはないが 秋雨の月の下旬なだけあって朝の気温は低く、布団の温もりの誘惑にあっさりと負けたイーリスは二度寝を決めようと掛け布団を深く被りなおすが…
「イーリス様おはようございます。」
「……」
「…朝でございます。起床なさってください。」
「んんー…」
「(完全に二度寝体制に入ってるわ…とっても愛らしくてこのままずっと見ていたいけれど、今日はそういう訳にはいきませんね)起きないと保護した彼女達が困ってしまいますよ、おきてください。」
「んぅ…ふわぁ、おはようヴィヴィアン…」
「はい、おはようございます。」
ひとまず身体を起こして布団から出るが完全に寝惚け眼だ。起こした体を左右にふらつかせながらも、体内時計をリセットさせるために体一杯に日光を受け止める
「今日もいい天気ですね…観光日和です…」
「そうですね、楽しみです。髪を梳かしますね」
前世の頃からあまり寝相の良い方ではないイーリスは朝起きると寝癖だらけになってしまうので、こうしてヴィヴィアンに梳いてもらってセットするのが朝起きたときの日課となっている。
「いつも丁寧にありがとね。」
「イーリス様の髪は少し梳けばすぐに元に戻るのはとてもいい髪質な証拠ですね。」
「ふふ、褒めても何もでませんよ。ヴィヴィアンの髪だってとっても綺麗な赤色をしていて素敵ですよ。今度結わせてくださいね」
「ありがとうございます。」
セットを完了させ、隣の部屋を回ってまだ寝ている彼女達を起こして宿の1角を借りて話をする。
「一応聞いておきたいことですが、アントンで暮らしたいという人は…居ませんね。もし気が変わったらいつでも言ってください。」
「あ、あのっ!」
「どうしました?」
「なんでこんなによくしてくれるんですか?私達はイーリス様に何もしてないし、何もできていないのに…」
「(様って…従士として使えてくれてるヴィヴィアンはともかく、一般の人に様付けはなんかこそばゆいな…)そんなの簡単ですよ」
「え?」
言葉の意味を汲み取れずにいる彼女達に一呼吸置いて説明をする
「私の自己満足です。単純に女性をまるで道具のように扱うダーフィル達を許すことができなかった、そして貴女達を保護したからには責任を負わねばなりません。それを全うしたまでですよ。」
「で、でも私達は売られて本当になにも…(それにイーリス様は女性だから色々と奉仕しにくいし…そっちの気はないけど、イーリス様ほど綺麗な方ならむしろよろこ…)」
「言ったでしょう?私の自己満足だって。…どうしました?」
「っ!い、いえ!」
「どうしてもと言うのなら向こうで立派な住人として幸せに暮らしてください。それなら私も助けた甲斐があったって思えますから。それと、私には様はいりませんよ?せめてさん付けでお願いします」
「…わかりました!頑張って向こうで立派に暮らして見せます!イーリスさん!」
他の女性や男性も全員同じ決意なのか、強く頷いている
「よろしい!それじゃあまずはその服をなんとかしましょう。いいとこはありますか?」
「ここは上街なのでどこの服屋も品質は保証されていると思います」
イーリスが泊まった宿屋は上街と呼ばれる中流家庭や豪商などの貴族ほどではないが、そこそこいい生活をしている家庭が暮す地域となっている。
その為、ここで店を構える事はイコール品質の良い店というわけだ。
イーリスの止まる宿屋も5,6名用の部屋を一泊するのに5万ユノかかるがそれを(アントンでの下町の一般的な宿屋は一泊3000ユノ程)一気に白金貨2枚という金の力でゴリ押ししたので、通常は拒絶されるだろう高級宿でも泊まる事ができたが、流石に盗賊達に捕まった影響でボロボロになった服装で出歩くとまず間違いなく絡まれるだろうと思い、ひとまず彼女達は宿に置いていくことにする。
同じく深くフードを被ったままでは怪しまれてしまうので、フードを取ってから服屋へとに向かう
(そういえば服を買ってくるって言っておきながら俺ファッションセンス皆無だったな…服屋の店員に丸投げでいいか)
前世の頃は女性には興味があったが好きな人がそもそもできなかった彼は自キャラを除いてファッションに興味が湧かなかったのだ。
(それに、この服装が気に入り過ぎちゃってそこまで他の服着る気になれないんだよな。一応インベントリにはゲーム時代の頃に入れたままだった他の服もあるけど着たとしてもヴィヴィアンやソフィ以外の前じゃローブ脱げないから意味ないし…ホントこんな面倒な設定じゃなけりゃ、うちの子自慢の白ワンピを惜しげもなく見せてやったんだがなぁ。)
彼女が今着ている服は膨大な素材で魔改造したおかげか、風呂に入る前に生活魔法で洗濯を開始して風呂から上がる頃には汚れも完全に落ちてパリっと乾いてる優れ物なのも大きいだろう。
そして、そのまま適当に賑わっていそうな服屋へと入っていく。
「いらっしゃいま…こ、これは貴族様、お忍びでのご来店でしょうか?当店のようなお店にお越しいただきありがとうございます!今店主をお呼びいたしますので少々お待ちください!」
これまでに見たことのないほどに整った顔とそれに付く従士のレベルの高さから貴族だと勘違いされてしまったようだ。更にイーリスはローブを着ているのでお忍びで来なければならないほど位の高い貴族だと推測したようだ。
「お待たせいたしました!店主のケルスと申します!」
「(貴族じゃないんだが…まぁいいか)これから移住する人の為の贈り物として女性服を数種類、男性服を1種類見繕ってください。センスは貴方に全てお任せします。期待してますよ?」
「は、はい!」
上街で店を構えているとはいえ、貴族などの最上流階級は皆、更に上の貴族街で買い物を済ませてしまうので来ることがほとんどなく、ましてや知らない顔ではあるが明らかに位の高そうな人物からわざわざお忍びで来た上に服を見繕ってくれとの頼みに、より一層のプレッシャーを感じながらも、素早くかつ慎重に選んでいく店主。
待ち時間が手持ち無沙汰となってしまったイーリスは並べられた服を適当に手にとったりしていくが、その一挙一動に全神経を集中させているのか、周りで様子見をしている店員からも緊張感がひしひしと伝わってくる
(おいおい、そんな緊張してたら選べるもんも選べなくなるだろ…でもそれ指摘したこの店員はへし折れんばかりに謝りまくるだろうし…)
あまりの緊張振りに少し解してあげようと考え、適当にとった服について質問しようと口を開くが…
「この…「は、はい!!!あっ、も、申し訳ありません!!」
あまりの緊張感からか、イーリスの言葉をさえぎってしまったことに顔面を蒼白させ、へし折れんばかりにペコペコと頭をさげてる店員。
「(こりゃだめだな…何も言わないほうがよさそうだ。)いえ、なんでもありません。もう頭は下げなくていいですよ」
「はっ!し、失礼しました!!」
こうして無言の時間が過ぎていく中、数着程の用意が終わったのか店主が早足で戻ってくる。
「用意が完了しました!奥へとどうぞ!…………こ、これでいかがでしょうか!」
用意された服は数十分という短時間で揃えたとは思えぬほどの品揃えだった。
紳士らしさを感じるフォーマルな服装や可愛くフリルのついた服もあれば、ヴィヴィアンの凛とした雰囲気によく似合いそうな服装まで様々だ。
「うん…そうですね、それじゃあ可愛い系を除いて全部で20着分お願いします。用意が終わったらお忍びで来てるので目立たぬ用に少量づつ、燐光宿(イーリス達がとまっている宿)に送ってください。」
「はっ!畏まりました!」
代金を支払った後は荷物が送られてくるのを宿屋の店主に告げる為に宿屋へと一度戻り、大人数を一挙にもてなすための地球でいう宴会場のような大きな食堂を借りて試着会を開催する。サイズは事前に聞いて回っていたので問題はなく全員無事に着れたようだ。
「こんな上等な服着たの初めて…!」
「私もよ!」
「本当に何から何までありがとうございます!」
「こんなにいい服もらっちゃっていいんですかい?彼女達はともかく俺らは正直、頑丈な服だったらなんでもいいんだぜ…です?」
「ふふっ、無理に敬語は使わなくて平気ですよ。それに男女関係なくファッションをするのは大切な事です。これは新生活のスタートとして受け取っておいてください」
「わかりました!ありがとうございます!」
農村ではコストと運動性と耐久性のみを重視したファッション性皆無の服を着ていたので、その服の完成度に興奮覚めやまぬ彼女達をなんとかなだめさせてから、ギルド本部へと向かう。
「うーん、規模の大きさは確かにマヤミルに迫る大きさですね。でも…」
確かに規模の大きさはかなりのものではあったが、その見た目はあまり良いものではなかった。
風雨に晒されてモルタルのようなものが剥がれ落ち、剥き出しのコンクリートからはいかに見栄だけを張ったギルド本部なのかが伝わってくる。
「ここの冒険者って本当に大丈夫なんですか…?」
「クレイでもどこの国でも冒険者はキチンといた報酬があれば、問題なく動きます。大丈夫ですよ」
「なるほど…単純ゆえの扱いやすさってわけですね」
内部はちゃんとしていて構造こそ違うものの巨大な掲示板、昼間なのに酒盛りをする者、や美人受付嬢に鼻の下を伸ばしまくりのだらしない冒険者など、確かに国は違えどよくも悪くも単純で変わらないようだ。
さっそく受付嬢に向かい、依頼の発注をする。
「依頼の発注ですか?」
「20人程度の男女をマヤミルまで護衛する冒険者パーティの募集です」
「護衛依頼ですね。こちらに必要事項を記入してください。」
受注者の名前や報酬額、募集期間等を記入してく。
「お預かりします。…護衛依頼料はこれでよろしいんですか?」
マヤミルまでの護衛依頼料としては中々高い報酬額だったので質問をされたようだ
「大丈夫です。それとなるべく女性中心か評判が良い冒険者でお願いできますか?」
「紹介状などはお持ちですか?」
「いえ、ないですね。」
「そうなると、確保するのは難しいと思います…評判の良い冒険者は指名依頼が殺到しますから」
(あー、そりゃ誰だって評判のいい冒険者に依頼するよなぁ…うーん。)
「何故女性を中心に?」
「色々と事情があるので…できるだけお願いしますね」
「できるだけご期待に添えるようにします。それでは受注が確認され次第連絡をするのでそれまでお待ちください。」
依頼仲介料、手数料、報酬料等を払い、ギルド本部を出て行くのだった。




