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テンプラ

 教会を出た後は、それとなく適当に様々な市場を見て回っていく


 ここの市場は露店もあれば店として構える場所もあるので、冒険に必要な物もあれば様々な嗜好品などが揃っているおかけでクレイ帝国でも有数の市場となっている。

 この王都に住む者達の中では何か探し物があればここに来るということが常識となっている。


 そんな場所で商いをする者達による熱気を感じ、まさにこの世界に生きていて、生活があり、そしておわっていく人たちの力を感じ、ただただ圧倒されるイーリス。


 その後、露店を回っていると、ふと美味しそうな匂いが漂ってくる。それに釣られて視線を向けると巨大な丸い肉塊に金属の棒が刺さっていて、それがくるくると回っているのが見える


「あれって…」


 それに見覚えのあった彼女はその露店の方へと向かっていく


「らっしゃい!うち自慢のバラブだ!一つ300ユノだぜ!どうだい嬢ちゃん?」

「バラブ…?ケバブじゃないんですね。」


 そう、その見覚えのある品とは地球にもあったドネル・ケバブであった。巨大な肉からナイフで削ぎ取り、パンなどに挟んで出すのが日本での食べ方だ。


「ケバブがどんなのかは知らんが、うちのはパフォーマンスとしてこうして出してるのさ、こんだけでかい肉がまるごと焼かれるから凄い迫力だろう?」

「そうですね、それじゃあそれ一つお願いします。」

「はいよ!300ユノだぜ」


 ぴったり鉄貨を3枚渡すとやはり地球と同じナイフで表面を削った後に黒パンに挟まれて出てくる。

 そのまま食べながら歩くテイクアウト方式であるため、若干の行儀悪さを感じつつも海外の料理ではあるが、日本に居た頃の味を味わいながら城へと帰路につく。


 貴族街へと通じる城門に着くと、そこに立つ門番に声をかけられる。


「イーリス様ですね?城の近衛をしているオーレリと言います。ルース様から付いていくようにご命令を受けたので王城までご一緒します。」

「え?あ、はい。お願いします…?」


 ただ、戻るだけなのに何故王城の近衛が案内に?と考えていると、その考えが顔に出ていたのだろうか、声をかけてきた近衛が説明をする


「帝都内を観光をする際にジャコモ様と少し揉めたので、また似たような事がないように、近衛をつけるとの事です。」

「なるほど、わざわざありがとうございます」

「それではご案内します!」


 近衛のおかげか、道中は特になにかあるわけでもなくそのまま王城についたイーリスはその後、下町で食べたバラブを思い出してこちらにある限りの材料で地球の味を何か再現できないだろうかと考え、厨房へと向かう。


「イーリス様の故郷の料理の再現の手伝い…わかりました、任せてください!王城に勤める料理の代表としてお手伝いをさせていただきます!」

「私の居た故郷では天ぷらという料理が有名でしたね、えっと確か…卵白と小麦粉を水で溶かした衣を使って油で揚げる料理です。」


 独り暮らしをしていたので料理をやっていた彼はメニューを思い出しつつ、作り方を言っていく。

 ちなみに、今の彼女はローブの上にエプロンをつけているので、結構奇抜な格好をしている。


「衣に包んで揚げる…パイ生地に魚等を包んで焼く料理ならこちらにもありますが、それと似たような感じでしょうか?」

「そうですね、その小麦粉なんですけど薄力粉って言うんですがありますか?」

「ありますよ、パイ生地を作る時なんかはそれを混ぜますから。」

「よかった、それじゃあ最後に氷を少しお願いします。」

「わかりました!それでは材料を集めてきますね」


 それから厨房の倉庫に向かった彼はしばらくすると材料を持ってきたので、さっそく天ぷら作りを開始する


「まず氷水と卵白を入れて小麦粉を溶かしてください。この時混ぜるのは軽くで大丈夫ですよ」

「わかりました。混ぜ過ぎるとベトつくからでしょうか?」

「その通りです。パンを作る時に必要な成分は今回はいらないので捏ねすぎないようにしてください」


 グルテンができると、サクっと揚がらずべちょっとした食感になってしまうためである。


「できたら、揚げたい食べ物にこの衣を着けて、完全に浸かるほどの大量の油を高い温度で揚げれば完成です。」


 用意された材料は野菜類や豆、そして港湾都市から特産品として送られる魚等様々な物がある。


 なお油は、コニアンと呼ばれる植物から作られる香り高い上質な油で、地球でいうごま油にあたる。香りがとてもいいため、高価ではあるが貴族などの富裕層に好まれる油だ。


「ふむ…コニアンをこれだけ使うとなると、この料理は貴族などの食べ物でしょうか?」

「いえ、庶民にも食べられる料理ですが…今回は高い油を使っているからですね。」

フット油(フロッグフット)でも問題ないという事でしょうか?」

「動物性油脂…えっと、動物から作られた油で揚げるというのはどうなんでしょうか…ちょっとわかりません。自分の故郷ではゴマ油やサラダ油というコニアンと同じ植物でできた油作っていますよ、とはいってもそんなに高い油じゃありませんね。」

「ふむふむ…」


 しきりに頷きながら何やらメモをとっている。見たことのない料理に料理人魂に火がついたのだろうか?


「あっと、すいません!つい熱くなってしまいました…」

「ふふ、大丈夫ですよ。好きな物に新しい発見があったら誰でもそうなりますから」

「そういってもらえるとありがたいです!」

「その辺のはこれが終わったら試してみましょう」

「はい!」


 その後は油を入れて、火をつける。


 ちなみに現在イーリスが使っている厨房には、地球でいうコンロのような物がある。

 これは、魔石を使用して魔力を熱に変換。その熱をよく通す鉱石を通して加熱する、IHコンロの様なものだ。

 もちろん、これは非常に高価な設備のため、王室以外だと一部の高級貴族くらいしかない設備で、一般的な庶民の台所は竃だ。



「油の温度の図り方は…(箸がないから…フォークでいいか。)これにはねない程度で水を濡らしてつけると少し泡が出てくるので、それが一番ちょうどいい温度になりますね」

「なるほど…これで温度を…」


 油を敷いて使うという習慣はあっても、大量の油を使ってまるごと揚げるという習慣はないようだ。


「よし、ちょうどいいのでさっそく揚げていきましょう!」


 用意された材料を使って次々にあげていく。


「この時、入れすぎると油の温度がさがって衣がべちゃっとしちゃうので、気をつけてください。それと、ずっと使っていると、剥がれて焦げた衣が新たに入れた材料に着いたりしちゃうので、汚くなったら交換してください。」

「ふむふむ…」


 その途中、コニアンの香りによって集まってきた料理人なども集まって臨時の異国の料理勉強会が開催される。


「よし、それじゃあ食べてみましょう!」


 それぞれアズラ神によるお祈りの後に、口へと運び食べてみる。すると…


「おお!なんだこのサクサク感…パイ生地とはまた違った食感だ…」

「あれだけコニアンを使っているから、相当脂っこいとは思ったが、それほど油を吸収しているわけではないんだな。」

「火の通りも焼いた時とはまた違っている…まるで蒸したようにとてもふんわりしている。」

「味付けは塩だけだというのに素材の味が出されているのかとても美味しいな!」


 食べたことのないその食感にわいわいと騒ぐ。


「イーリス様!ほ、他には何かありますか?」

「え、えぇ。そうですね…」


 料理長の気迫に押されるのを若干のデジャブを感じつつ応える


(寿司…は、衛星的な面でも習慣的な面でも受け入れられないだろう。米があるのが一番いいんだがなぁ。聞くだけ聞いてみるか)


「お米…ってありますか?」

「コメですか…?聞いた事があるような…ちょっとお待ちください。」


 どうやら聞き覚えがあるようで、奥の厨房へと消えていき、しばらくすると、なにやらメモ帳のようなものを持って戻ってくる。


「ありました!遥か昔にシュース大陸とまだ交易をしていた時代にこのエレマ大陸にも交易品として輸入されていたそうです。ですが、昔からあまり評判がよくなかったようですね…どうやら調理法がうまく伝えられていなかったようです。私がしらべた文献でもその事しか書いておらず、正しい料理法が書いてなかったですね…」

「なるほど、それじゃあその米はやはり…?」

「今現在は交易品としては流通していませんね…アルベルト様に頼んでも恐らく来るのは相当先かと…」

「そうですか…、わざわざありがとうございます。」

「いえ、こちらこそお役に立てず申し訳ありません」


(うーむ、前作にはバフアイテム(ステータス上昇アイテム)として料理スキルがあって、その中に米料理があったんだがなぁ。ロールプレイの一環としてイーリスには覚えさせていたが、物がないんじゃ無理か。)


「それじゃあ、後は和え物ですね。酢ってありますか?」

「ス…?いえ、聞いた事ないですね。どういったものでしょうか」

「とても酸っぱい調味料です、保存する際にも使われていたりしますね」

「保存に使う酸っぱい調味料…もしかしてヴィネーグルでしょうか?持ってきますね」


 倉庫から持ってきたのは、赤みがかったワインのような物であった。


「それってもしかしてワインですか?」

「はい、このワインは非常に酸っぱいんですが、この酸味をアクセントにソースとして使ったりします。」


(ワインビネガーみたいな物か?う~~ん、日本の和え物は米酢だからなぁ、合いそうにないな。)


「原材料が違うので合いそうにないですね…先ほど言った米から作る酢なので」

「そうですか…残念です。」

「やっぱり、習慣が色々と違うので私の故郷の料理を再現するのは中々に難しいですね…」

「そうですね…お力になれず申し訳ありません」

「いえいえ、今回の天ぷらだけでも相談したかいがありましたよ!それで、お願いなんですが今回の天ぷらを夕食の時にお願いしてもいいですか?」

「わかりました!楽しみにしていてください!」


 その後は、周りの料理人たちでイーリスが教えた天ぷらをもっと美味しく料理できるようにと試行錯誤をするのであった。


リアルの方が少し忙しくなってきたのでこれからもちょこちょこ3日更新になることがあると思います…

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