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大切な人をずっと待っている悪女と、華やかすぎる外見をした漫画家による、冬が愛しくなる物語

依頼です、物書きさん。(http://shindanmaker.com/a/151526)よりお借りしました。

 これまでに何人の男を手駒にしてきただろう――愛用しているタバコに火をつけながら、香田美夜はふとそんなことを考えた。

 彼女にとって、男性というのはただ自分を飾る道具でしかなかった。おかげで彼らとの別れも様々ある。ある時は若手アイドルを芸能界のスキャンダルに巻き込み、またある時は突然何の連絡もなしに男の前から姿を消した。

 そんな美夜にも、たった一人だけ大切に想っている男性がいた。

「あ、また灰皿用意してない」

 そう言いながら美夜に銀製の灰皿を差し出したのは、モデルのように整った顔に微笑を浮かべた青年だった。美夜はその男をちらりと見て、「ごめん」と一つ謝罪して灰皿を受け取った。

「また、考えてたの?」

「……ええそうよ。トオイが私に振り向かないし、あの人が私を置いて海外に行ってしまったのだから、ここに居候する羽目になってるのよ?」

「美夜さんは手厳しいなぁ」

 トオイと呼ばれた青年は苦笑を浮かべ、美夜の横に腰かける。タバコの煙をくゆらせ、寂しそうに虚空を見上げる美夜の横顔を見つめ、黒のインクが乾いて汚れた手でその頭に触れる。

「寂しいなら、いつでも俺の胸を貸しますよ?」

「誰がアンタみたいなガキの胸を借りて泣くかっての。それだったらトオルさんが帰ってきた時に泣きつくわ」

「……そういえば兄さん、今年の冬も帰ってくるらしいよ」

 俯いておとなしく頭を撫でられていた美夜は、その一言で弾かれたように顔を上げてトオイを凝視した。

「それ、いつ連絡があったの?!」

「えっと……一週間くらい前かな……」

「どうしてそんな大事なことを教えてくれなかったのよ!!」

 ものすごい剣幕でまくし立てる美夜に、トオイは自分の部屋に続く扉を一瞥して苦笑する。

「締切が近かったから、今の今まで忘れてた……」

「ああ……冬コミってやつの原稿? アンタ、プロの漫画家なんだから、そういうところに出なくてもいいんじゃないの?」

「そうはいかないよ。生で俺の漫画を評価してもらえる、いい場所なんだから。第一、俺が描きたいし」

「……アンタ、モデルでも充分やっていけそうな顔してるのに、中身は本当に残念ね……」

「恐縮です」

「褒めてない」

 いつものやり取りを終えて、二人同時にくすくすと笑い出す。悪女と罵られていた美夜も、この漫画家の青年・桂木トオイと彼の兄で現在海外のベンチャー企業で働いている桂木トオルの前では、純粋にトオルに恋する乙女だった。

 立ち上がって伸びをするトオイの後ろ姿に、美夜はわざとらしく大きいため息をつく。

「あー、早く冬になってくれないかしら……トオルさんに早く会いたいわ」

「俺も兄さんに、美夜さん置いて行くなって文句言わなくちゃ……」

「トオイ、何か言ったかしら?」

「コーヒーでも飲むかって聞いたんだよ」

 台所に向かっていく想い人の弟に、「いただこうかしら」と声をかけながら灰皿にタバコの先端を押し付ける。窓の外を彩る紅葉を眺め、美夜はその頬に普段見せる作り笑いとは違う、穏やかで自然な笑みを浮かべた。

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