『ヒーロー』のターン
―――なんて、なんて面白そう……!
それが、見慣れぬ土地で、排気ガスで汚れと都会の喧騒騒がしい世界からこの世界に飛ばされ彼女―――天道晶が最初に抱いた印象だった。
車に引かれた瞬間に何を考えたのかは覚えていないが、何となく……ものすごく『ナニカ』を願った気がする。何かおかしな願いを。まあ、死ぬと悟った瞬間でもあるのだから普通に死にたくないとかかもしれないのだが。しかし、目を覚ましたとき、体がぞくりと震えたのだ。昔から見知らぬ土地に行くとか初めての体験をいうのが好きだったのだ。車に引かれて、砂漠に移動なんて面白すぎる。
変な怪物に追い掛け回されるのは怖かったが、あれはあれでスリルがあって楽しかった。どんなに揺すっても目を覚ますことなく眠る先輩に仕方ないので据え膳食わぬは男の恥とキス位かまそうとしていた私は、目の前に現れた女の子と怪物に色んな意味で相当焦ったのだ。
ローブ(?)を羽織った少年のおかげで二度目の九死に一生を得る体験をしたわけだが、その少年は今、怪物と共に現れた女の子の膝の上で気を失っているし、とりあえず自己紹介をしていい感じの空気になったと思った途端、変な声に再び微妙な空気に戻されてしまった。
「今の……聞こえた?未和ちゃん」
「え、ええ……役割とか説明するって……。夜明けっていうとあと、どれくらいなんでしょうか……?」
「うーん。時計も携帯も動かないよねえ。まだ、真っ暗だから数時間はあると思うけど」
「そう、ですね。現状把握しとけとも言われましが、どうしたら……」
「そりゃあ……とりあえず、お互いここに来るまでの状況話さない?何か分かるかも!」
「あ、そうですね。同じ日本人と思っていたらそんな単純じゃないみたいですし」
「どういうこと?」
未和ちゃんは肩で寝ているリスを一撫ですると私の服装と自分の服を見て目を鋭くさせた。
「……晶さんのいたところの季節は冬ですよね?」
「一月だけど。あ、そっか!未和ちゃんの服……」
私は会社帰りだったので、ノーネクタイだがスーツの上からコートを着ていた。グレーのパンツの下にはストッキングまで履いている。一方、未和ちゃんの服装は涼しげでまさに、夏といった感じだ。つまり……
「未和ちゃんは、寒い冬でもオシャレ優先なんだね!」
「なんでそうなるの!?」
未和ちゃんは目を見開いて私を見つめた。さっきまでの知的な雰囲気が払拭される。
「え、違うの……!?」
「違いますよ!つまり、私がいた日本は夏で、晶さんのいた日本は冬……同じ場所なのに季節が違うってことです!」
なるほど。私は感心して口を開いたまま大きく頷いた。それは、確かにおかしい。だが、そこまで服装が違うのにどちらも熱いとも寒いとも言わないのはなぜだろう。そう未和ちゃんに言うと、
「そうですね……それで私もすぐには分からなかったんですよ。この場所……やっぱり変です。暑いとか寒いとかそういう概念が存在しないみたい」
何だか大きな話になってきた。さっきの怪物ともいい、まさか私たちは本当にとんでもない、漫画みたいな出来事に巻き込まれたのかもしれない。
結局、私は興奮で、未和ちゃんはさっきの怪物が忘れられなくて眠れないため、夜明けまでの数時間、ここに来るまでの経緯や同じであって同じでない日本の話をした。
「どうやら、私と晶さんの住む日本の違いは季節だけみたいですね。飛ばされた状況も共通点全くないですし、リスくんと……コノハくん?はどうなんでしょうね」
「え、そのリス野生じゃないの?それに、この魔法使いくんの名前……」
「仕草が人間っぽいですし、もしやと思って元人間?って聞いたらすごい速度で顔を縦に振ったんです。それに、この子の名前はさっきの声が言ってましたよ。その男の人は、名前が違うでしょう?」
「おお……すごい観察眼に記憶!あなた本当に賢い子だったんだね!」
「えへへ……コホン。とにかく夜明けを待っていましょう!」
「おー!」
これからどんどん楽しくなりそうだ。ああ、早く伊呂波先輩起きないかな!
全然進んでない……次は、もうちょっと進展する予定です!




