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『リス』のターン

――――どうしてこうなった

 

 この場の全員が思っていることだろうが、その中でも俺が一番強く思っているだろう。心を読んだわけでは無いけれど。だが、普通に考えてそうだろう。スーツを着た男女も今時の服装の若い女性も変なコスプレの男も……そう、とりあえずは人間・・なのだ。


 対して俺は?俺は『リス』なのだ。


 恐ろしく綺麗な声が聞こえた途端、俺は意識を失った。目覚めて最初に目に入ったのは、俺より3つ4つ年上らしき女の顔面だった。超ドアップだった。体が金縛りにあったように動かない。金縛りにあったことはないのだけれど。

 自慢ではないが俺は、彼女いない歴=自分の年齢=女子とまともに会話していない年月の男だ。

 一瞬ここが天国かと思った。女の子のすべすべの柔らかい手に身体を包まれて昇天しそうだった。ずっとそのままでいたいという邪心が湧いたが、彼女の瞳をみた瞬間、別の意味で固まった。

 瞳に映るのは一匹の愛らしい『リス』だったのだ。

 じたばたと暴れれば瞳の中の『リス』も一緒に暴れる。

――――なんでリス!?

 到底信じられないが、証拠に俺の手は、腕は、ふさっとした茶毛でびっしり覆われている。

 とりあえず、彼女の手から逃れようと暴れる。だが、彼女の瞳から大粒の涙が顔を濡らし、俺は動きを止めた。

 俺は、癒し系の小動物でもなければ、泣いている女の子を泣き止ませることのできる存在などではない。そんなの重い。女子とまともに会話したことのない俺には荷が重すぎる。

 でも、ほっとくわけにもいかない。小さくなった手で彼女の手を優しく撫でた。


 そして、俺は女の子のすべすべの手を自ら触ったことに動揺し―――再び意識を失った。


 目が覚めればそこは、家のベッド、というわけではもちろんなく、『リス』のまま彼女の肩の上に乗っていた。恐ろしい形相の怪物とおいかけっこをしているというオプション付きだ。

 しかし、茂みを抜けた先にいた俺と同じ位の年の少年が、何か可笑しな言葉をぶつぶつと呟き、突如人差し指から火を出した。火の玉は怪物に直撃し、怪物は―――煙となって消えた。

 少年はそのまま意識を失ってしまい、これからどうするかと肩の主と顔を見合わせたとき、二人組の男女(男の方は眠っている)の女は言った。

「何が起きてるのかわかんないけど……とりあえず自己紹介から始めない?格好はばらばらだけど、同じ人間っぽいし!私は、天道晶!こんな名前だけど女だよ!この眠り姫のような……げふん。このカッコ可愛い男性は伊呂波先輩!あなたは?」

 女―――天道晶は、捲し立てるようにそう言うと、その場に腰を下ろしながら分厚いコートを脱いで地面に敷き、男を寝かせた。

 問われた例の彼女は、驚きながら瞬きを数度した。

「あ、えっと……あたしは、蓑島未和。女子大生です……」

「へー!賢いんだ!私は見ての通りOLだよ」

「とりあえず……よろしくお願いします……?」

「よろしくね!」

 天道さんと蓑島さんは顔を見合わせて笑った。さらに二人が何か言おうとした時、その声・・・は俺たち全員の頭に流れてきた。


――――やあやあやあ!そろったね!そろそろみんなの役割分かったかな!?あれ、分かってない!?何でさあ!コノハくんまだ寝てるしさあ!せっかく説明しようとも思ったのに!仕方ない!起きたらまた来るよ!明日の……夜明け位!それぐらいには起きて現状把握しててね!じゃ!


 俺たち全員の頭の上にはてなマークが見えた気がした。そんなもの目に見えるはずがないのだけれど。

 

 

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